19.日常
あれから数日が経った。
俺は前と変わらず学校へ通っている。
いつも通り、退屈で何の変哲もない時間が過ぎる。ただ数時間、ひたすら授業が終わることを祈る毎日。
窓から外へ目をやると、明るい日差しが校庭へ降り注いでいる。あそこで昼寝したら、さぞ気持ちよさそうだ。せっかくこの世界は平和なのに、何で学校なんて行かなくちゃいけないのだろう。ああ、向こうの世界も平和になったのなら、また遊びにいけたらいいのに……。
「こらぁ、夜白! 寝てんじゃねー!」
「んが」
気がつくと、俺は眠りこけていて、机によだれが垂れそうになっていた。皆笑っている。ちくしょう、ついてない。こう見えても俺、異界を救った勇者さまなんですけど。
「ぶつぶつ言ってないで、この問題、解いてみろ」
「できないの知ってるくせに……」
「何だと!」
「何でもないです。とりあえず、廊下に立っておきます」
「夜白、こら、待てー」
そんなこんなで、なんとかかんとか授業を乗り切ると、放課後、逢坂涼子が俺のところへやってきた。
「ねえ、夜白、何かあったんじゃない? ぼーっとしてるのはいつもだけど、最近特にヤバいわよ」
「失敬な」
「幼なじみのよしみで心配してあげてんじゃない」
涼子は本当に少し心配げだ。
「何でもねえって。大丈夫」
俺はそう答えた。
実際、もう全てが終わったんだから、大丈夫なはずだ。あれ以来妖精も夢に現れなくなった。今思い返してみると、本当に全部夢だったんじゃないか、と思える。ポーティも、異世界も、何もかも、俺の想像の産物だったりして……。
「ほんとに大丈夫?」
ぼんやりとし始めた俺に、涼子がそう尋ねる。
「大丈夫だ」
俺はまたそう言った。
府抜けたように、校庭をぶらぶらしていると、突然背中を叩かれた。振り返ると立っていたのはITオタクの八神一だった。
「先輩、元気ないっすね」
「あー? お前はいつも元気そうだな」
というか能天気そうだ。と付け足そうかと思ったが、やめておいた。八神は結構、機嫌を損ねると面倒くさい。
「とっておきの情報教えますよ」
八神が満面の笑みで言う。
「えー?」
俺は気が抜けた返事を返す。
「明月ほたるがこの辺にPV撮影に来るらしいっすよ」
「ほー」
明月ほたるのファンはクラスにも多い。だが八神に至っては、「信者」と言った方が近いかもしれない。
「すごくないっすか。先輩も見に行きます?」
俺も、興味がないわけではないが、何だかそういう気分でもなかった。
「また今度誘ってくれよ。じゃあな」
そう言って手を振り、通りすぎようとすると、
「先輩やっぱ変すね」
信じられない、とでも言いたげに八神がつぶやいた。




