18.別れ
結界の丘の上。辺りは薄闇が支配していて、とても静かだ。シーン、という音が聞こえてきそうなくらい。
俺は空を見上げる。瞬き始めた星々にオーロラと二つの月。
それらをバックに、ほのかに黄色い光が浮かんでいる。その黄色い光――妖精ポーティが俺を見つめていた。俺は言った。
「本当に美しい星だなここは」
「そうね。私は見慣れてるはずだけど……今夜は一層きれいみたい」
俺は結界に足を踏み入れる。だが、今回は、ポーティは結界に入ってこない。つまり……
「お別れだな」
「うん」
「まあ、いろいろ楽しかったよ、うん」
俺は、もごもごとそう言った。今生の別れにどんな言葉を発していいか、わからなかった。
こんなとき、ああ、俺はやっぱり子供だなあ、と思う。もっと経験を積んだなら、うまい別れの文句でも浮かぶのだろう。
代わりにポーティが言った。
「知ってる? この国では、別れに月の詩を詠むことが多いの」
「月?」
「月が二つあるでしょう。あれを別れる二人に例えて。離れても心はひとつ。鏡に合わせたみたいに」
「なるほど。いい詩だね」
この国の詩人は幸せだ。そう思った。この景色なら、詩もたくさん浮かぶだろう。
「元気でね」
「お前も」
しばらく沈黙が二人の間に落ちる。俺は、ポーティとの何日にも及ぶ特訓のことや、街を観光したことや、魔王との闘いを思い出す。
怖かったし、苦しくもあったけれど、過ぎてしまえば楽しい日々だった気がする。それも、終わりなのだ。ポーティも同じ事を考えているのだろうか。もう、俺たち、二度と会えないのだろうか。
……だめだ。これ以上考えると、泣いてしまう。
「じゃあな」
「じゃあね」
ほとんど同時にそう口にした。
ポーティが呪文を唱え始める。俺の体が上昇を始める。
最後にポーティの姿を目に焼き付け、俺は目を閉じた。




