17.凱旋
俺はまた街に帰ってきた。夕暮れの街並みの、光と影のコントラストが美しい。
今、街はお祭り騒ぎの真っ最中だ。
肉に魚に野菜に果物といった料理が振る舞われ、
「勇者さま! 勇者さま!」
街人は踊り狂っている。それも、平和と、勇者(俺……)を称える踊りだ。
すごく照れくさかったが、誇らしくもあった。そして嬉しかった。俺がこの人たちを救ったんだ。
「ちょっと大げさだよ」
俺が言っても、騒ぎは収まらなかった。それどころか、祭りはますます盛り上がりを見せる。
「勇者さま! 勇者さま!」
「勇者さま、ばんざーい!」
しまいには花火まで上がりだした。
「まいったな……」
俺が頭を掻いていると、道の向こうから何かがやってきた。乗り物らしい。現れたのは一台の馬車だった。いや、引いているのは馬ではない。馬によく似た、別の生き物だ。その生き物の頭には、金色の角が三本、生えていた。
「あれ、誰が乗ってんの」
「王様よ」
ポーティが言う。
「え? 王様? 何で」
「勇者に会いに来たに決まってるでしょう」
「直々に俺に会いに来たの? 困ったな……」
俺はうろたえた。一体、どう接していいのかわからん。こんなの学校で習ってないぞ。王と謁見の授業、何で授業でやってくれなかったんだ……。
馬車から降り立った王様は、一目で高貴とわかるいでたちをしていた。分厚いマントに甲冑、ブーツ。そして色とりどりの宝石で飾られた王冠。
王がゆっくりと歩いてくると、人々が道を開ける。王と勇者の対面だ、と人々は静まり返る。俺の前にくると、王は言った。
「皆に代わって、礼を言わせてくれ」
そして、次の瞬間、王は何とひざまづいて頭を下げたのだった。
「国を救っていただき、まことにありがとう」
街人から盛大な拍手が起こる。
「と、とんでもない。俺は……何て言うか、必死だっただけで……あの、とにかく、とんでもない」
俺はとんでもないを連呼する。だが、本当にとんでもないことだからしょうがない。王に頭を下げさせるなんて、何をやってんだ俺は。すると王はもっととんでもないことを言い出した。
「勇者よ、どうか、私の娘を貰ってくれんか」
「は?」
「そして、私に代わってこの国を治めてくれ。そなたなら、誰も文句は言うまい」
「いや、いやいやいや! 文句出まくりでしょうよ! 俺はまだ高校生だし、アホだし、別の世界の人間だし……」
すると、馬車からもう一人、今度は女性が出てきた。髪がライトブルーで、黒い瞳の、透き通るように白い人だった。これが王様の娘――王女だろう。
「勇者さま、私ではお嫌ですか」
「い、嫌とか、そういうんではなく……。俺まだ高校生ですし、アホですし、別の世界の」
俺はまた同じ言い訳を繰り返した。俺があたふたと話していると、王女は遮るように言った。
「では、お待ちします。いつまで待てばよいですか」
稟、とした瞳で見つめられると、何も言い返せなくなってしまった。
「そろそろ、元の世界に帰らないといけないんです」
俺が言うと、王も王女も悲しそうに、
「そうですか……」
と顔を伏せた。街人も、皆一様に悲しそうな表情をする。何だかこっちまで悲しくなってきた。しかし、帰らない訳にはいかない。俺はここの住人ではないのだ。
いや、本当にそうか? と、心の声が言う。ここに住み着いてしまってもいいんじゃないか。あっちへ帰って、またくそつまらない毎日を過ごすくらいなら、この、皆が優しい、食べ物のおいしい世界で――。
「帰ります」
俺は考えを断ち切るように言った。
元の世界から俺が急に消えたら大事件になるだろう。高校生行方不明、というニュースが頭に浮かぶ。
それに……俺は俺を待っている、数少ない人々のことを思い出した。俺の母親、父親、それに友達。彼らのことを放って置いていいはずがない。
「帰らないと」
「……わかった。気をつけてな。そなたのこと、我々は絶対に忘れない」
王はそう言った。
街人から落胆のため息が漏れる。
それで俺は、人々に見送られながら、街をあとにした。別れを惜しむように、花火が上がる。
ふと目をやると、あの宿屋の女の子がいた。彼女は、今度こそ泣いていた。




