それは、ほろ苦い
今日はおじさんが泊まりに来ている。朝食も一緒だった。おじさんは新聞を読みながら何かを飲んでいた。
「ん? 珈琲だよ」
新聞から顔を上げて、おじさんはぼくに教えてくれた。香ばしい、良い香りが、朝食が終わったリビングに漂っていた。
ぼくはおじさんの隣で真っ白な牛乳を飲んでいた。
「コーヒーって、苦いでしょ」
ぼくは温かい、そして、ハチミツがほんのり香る牛乳を一口飲んでそう言った。ぼくは1度コーヒーを飲んだことがあるけれど、もう、飲みたくないと思っていた。
コーヒーは苦い。大人はどうやら苦いものが好きらしい。ピーマンだって苦いのに大人は平気で食べてしまう。
「美味しいけどなぁ」
おじさんはそう言ってコーヒー入ったカップを差し出した。黒に近いような茶色が白いカップの中で波打っていた。よりはっきりとしたコーヒーの香りがぼくに届く。香りは嫌いじゃないけれど、味は好きではない。
ぼくはカップを嫌そうに見た。
「そうか、珈琲嫌いか」
おじさんはくすくすと笑って、コーヒーを飲んだ。
「でもいつか、好きになるかもな」
ぼくはその言葉に、コーヒーの苦さを思い出した。あの苦さを思い出すと、そんな事は絶対にないと思える。
「でもまぁ、俺は好きになりたくはなかった、かな」
「……どうして?」
おじさんはぼくの問いに答えてくれなかった。
僕の前に置かれた、白いカップ。
中には対照的に、黒に近いような茶色がゆらゆらと波をつくっていた。
僕は一口飲んで、ふーっと息をつく。
通りに面した喫茶店で、落ち着く雰囲気が気に入り、よく僕は足を運んでいた。そこではいつも珈琲を頼む。
珈琲はほろ苦い。でも、それが、なぜだか好きになった。どうやらおじさんの予想は当たってしまったようだ。
(僕も好きになってしまったな……)
僕は残った珈琲を飲み干し、荷物をまとめて立ち上がった。
スーツの上着を羽織ったが、日差しが眩しい。そろそろ上着はいらない季節だ。上着を手に持ち、腕時計を見る。
ゆっくりし過ぎたようだ。
それは、ほろ苦い
>Do you like brown?
私は最近Bl○ndyのエスプレッソオレが飲めるようになりました。
2015/5 秋桜空