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前編

世界はあっさり滅んでしまいました。


原因は・・・未曽有の大恐慌だったり、巨大隕石が降ってきたり、核戦争だったり


そんなありきたりな理由で世界は滅んでしまいました。


この物語はそんなことがあった後の話です。








『ナナ、おはようございます。』




そんな声を聴いて私はシステムを起動した。


狭い4輪バギーの中で体を起こす。


「起動完了、ナビ、今日の天気は?」




『はい、本日は2XXX年11月13日、晴れ、気温は46℃、湿度は13%、放射線量は・・・』




「OK、いつも通りだね。今日も撮影日和ってことだ。」




『ナナ、そろそろ稼働時間の無駄遣いをやめませんか?』




「駄目だよナビ、これにはちゃんとした理由があるんだから。」


首からかけた古いインスタントカメラに触れながらそう答える。




「もう100年以上前の命令です。もうあなたの写真を見るヒューマンなんて・・・」




「違うよ、ナビ、私はヒューマンに見せるために写真を撮っているんじゃない」


バギーの後部座席に山積みにされているアルバムをちらりと見る。




「私は暇だから写真を撮っているんだよ。」










かつて、ヒューマンがたくさんいたときの話




天然パーマがものすごいヒューマンの博士が私にこう言った。




「いいかいナナ、君はこれからカメラで世界を撮影するんだ。」




「イエスマスター、ところで質問があります。」




「なんだい?」




博士は得意げに胸を張っている。質問の内容を聞く前から、すでに正解を知っている顔だ。




「私の瞳に小型カメラを搭載するのみでよいと思われます。なぜこのような古臭いインスタントカメラで撮影を?」




「わからないかナナ!」




天然パーマ博士は私に向かって叫んだ。




「これはロマンだよ!」




ドクター天然パーマは変人だと有名だった。




そんな天パーマスターの命令で、私、人型多目的コミュニケーションアンドロイド7号試作機、通称「ナナ」は、少女型サポートロボ『ナビ』と写真を撮る旅を始めた。その後いろいろあってヒューマンが絶滅した後、特にやることがなく暇な私たちは相変わらず世界を旅している最中だ。








「ナビ、近くにいい感じの写真が撮れそうなスポットはある?」


『わかりました。検索しますので、少々お待ちください』






「あ、ちょっと待って」




一度検索を止めるように言う。




『はい?』




アクセルを緩め、車を道に止め、車から身を乗り出した。




「いい感じに傾いた鉄塔……いいね」




ファインダーを覗きながら、鉄塔へカメラを向けた。




『……ナナ、相変わらずあなたの好みの被写体は理解不能です。』




「わからない?」




ファインダーから目を離さず答える。




「私はね、世界が確かにあったんだってわかる光景が好きなんだ。」




そう言いながらシャッターを切った。




カシャッ。




吐き出された一枚のフィルムに、ゆっくりと鉄塔の輪郭が浮かび上がっていく。

傾いたまま、それでも空へ伸びている。

私はしばらくそれを眺めてから、アルバムにしまった。













ナビが見つけた撮影スポットに向かっている間、ナビは私に聞いてくる。




『ナナ、あなたが今日撮影したものを教えてください』




「ん?確か・・・鉄塔・・・知らない学校の校舎・・・崩落した高架かな?」




『なるほど、やはり理解不能です。』




「私たちは多分一生分かり合えないね」




『ナナ・・・フィルムも無限じゃないのですよ?撮影を続けるにしてももっと大切に・・・』




「私はやり方を変えないよ」




私は少し強めに答える。




「忘却なんて許せないから、私は世界がここにあったって、それだけ証明できればいいんだよ。それが私の暇つぶし」




『・・・ナナ・・・フィルムは残り何枚ですか?』




「・・・数えてないよ。」


私は、1つ嘘をついた。












私たちはナビが検索した撮影スポットに到着した。




「へえ、遊園地か、いいじゃん」




ジェットコースターにメリーゴーランド、お化け屋敷に宿泊用のホテルまである。


そのどれもが朽ちていて、とても私好みだ。




それらを次々と写真に収めていく。


『ここはあなた好みでしたか、以前似たような施設に連れてきたときは文句を言われたのですが。』




「前言ったところは森の中のレジャー施設だったじゃん。あれじゃああるのは木ばかりで撮るものがなかったよ」




『やはり不可解です。』




「わかってないなぁ」




そう呟いて私は次々と撮影を続けていく。




カシャッ。








そして私は今日1番の被写体を見上げる。




「やっぱり締めは観覧車だよね」




『早く撮って野営地を見つけましょう。もう夕暮れです』




私は観覧車を写真に収めてから、ナビに伝える。




「ナビ、じゃあ観覧車の上に上るよ」




『・・・は?』




「ワイヤー・・・よし・・・フックも大丈夫そうだね、スパイクもしっかり使える。」


私には変人博士が搭載した、いつ使うかわからない機能がある。


だから、朽ちた観覧車を登っていくなんて簡単だ。




『すみません理解不能です。』




「わからない?きっと上からの景色は素晴らしいよ。写真に収める価値はある。」




『・・・理解不能です。』




「わからないかぁ、まあいいや、ナビ、しっかり捕まっててね」




困惑するナビを持ち上げる。




『まだ私は行くとは』




「ワイヤー射出機構、展開」




答えを聞く前に引き金を引く。


圧縮空気が弾け、フックが夕空へ飛んだ。


ワイヤーを引きずりながら、フックは観覧車の支柱を越え、太い鉄骨へ巻きつく。


二度、三度と回転し、先端の爪が錆びた骨組みに食い込んだ。


私はワイヤーを強く引いた。


鉄骨が低く軋む。




巻き取り装置を起動する。


ワイヤーが縮み、私の体が勢いよく宙へ引き上げられた。


足元から地面が離れる。


三メートル。


五メートル。


十メートル。


風が強くなり、首から下げたカメラが胸元で激しく跳ねた。


私は片手でカメラを押さえ、もう片方の手でワイヤーをつかむ。


目前に横向きの鉄骨が迫った。




「おっと」




巻き取りを停止。


勢いを殺しきれず、両足から鉄骨へ突っ込む。


ガンッ、と鈍い音が響いた。


スパイクが錆を砕き、鉄骨の表面へ食い込む。


観覧車全体が大きく揺れた。




「・・・よし、着地に成功したね。」




『・・・倒壊確率が50%ほど上昇しました。』




「倒れてないってことは成功だよ」


そう言って私は観覧車から下を見下ろす。


眼下には、赤く染まった廃墟の街が広がっていた。




海へ伸びる道路。




崩れたビル。




錆びた遊具。




滅んでしまった街を、沈みかけた太陽が平等に照らしている。




その光景は世界が終わったくせに奇麗だった










そんな光景を見て、私は天然パーマ博士との会話を思い出していた。




「いいかいナナ、きっと人類は近い将来滅ぶよ」




「博士、なぜヒューマンが滅ぶのですか?」




「理由なんかはわからないさ、きっとありきたりな理由だろうけどね」


「ナナ、私は君に命令…いや、お願いをしたい。君には人類が滅んだ後も、そうだな、ほかにやることがなくて暇だったら写真を撮り続けてほしい。」




「なぜ命令ではないのですか?」




「人類が滅んだ後も君を、命令で縛りたくはないからね。」




「では、なぜそのようなことを?」




天パの博士は静かに語り始める。


「人はね、忘却された時、はじめて死ぬといった人がいた、僕はそれに共感をしたんだ。」




「僕はね、世界に死んでほしくないんだよ、この美しく楽しい世界を、心から愛しているからね。だから世界が忘却されるなんて許せないんだ。」


「だから、君に写真を撮ってほしい、この世界は確かにあったんだって、君に残してほしいんだ。」




「・・・イエスマスター、ヒューマンが滅んだ後、どうしても暇だったら写真を撮り続けたいと思います。」




「うん、頼んだよ。」




天然パーマの博士はそういって優しく微笑んだ。


















観覧車は今も少しずつ傾いていた。




たぶん、長居はできない。




私は首からカメラを外し、ファインダーを覗いた。




「ナビ」




『なんですか』




「やっぱり登って正解だったよ」


ファインダーを覗きながらそう答える。


ナビは景色に見入っているようだった。


こっそりとその背中をファインダーに収める。


そしてシャッターを切った。




カシャッ。




『・・・少しは理解できたかもしれません。』




「そうでしょ?」




私は少し自慢げに言った。




「じゃあ、降りよっか。さっきより勢いがすごいと思うけど。しっかり捕まっててね。」




『・・・やっぱりちょっと待ってください。』
















夜、バギー内にて、




「じゃあ、おやすみ、ナビ。明日もいい景色を撮れるといいね。」




『はい、ナナ、おやすみなさい』




ナビがスリープモードに切り替わったのを確認した後、私は静かに起き上がり、鞄の中身を漁りだした。確認するのはフィルムを入れているケースだ。




中身はわかっていたはず。けれども確認するのを止められなかった。




「残り1枚・・・」




続く

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