⚫️おまけ
宇宙は今、この瞬間も加速度的に膨張を続けている。遥か遠方の銀河は光速を超える速度で遠ざかり、かつては密接に関わり合っていた天体同士が、二度と互いを観測することのできない断絶された領域へと消えていく。この拡大する空間の行き着く先は、物理学が予言する「ビッグフリーズ」という名の冷徹な虚無であるとも言われている。
星々は燃え尽き、ブラックホールさえもホーキング放射によって気の遠くなるような時間をかけて蒸発し、質量という名のエネルギーの蓄えは、すべて希薄な光子や粒子となって宇宙全体に霧散する。最後に残されるのは、物質も時間も、そして「大きさ」という概念さえも意味を失った、凍りついた絶対的な孤独の広がりである。
しかし、この終焉の静寂は、真の意味での「無」ではない。質量が消滅し、距離を測る物差しが失われた極限の虚無において、空間は逆説的に「始まり」の性質を帯び始める。物理学が記述しうる最小の尺度である【プランク時間】、そしてそこへ全エネルギーが凝縮されたときに生じる至高の熱、【プランク温度】。この極小と極大が交差する臨界点で、時空の殻は突破される。現代の宇宙論が示唆するように、この「発火点」は新たなビッグバンのトリガーとなり、親宇宙の地平線の彼方で、密かに子宇宙を誕生させるのだ。
こうして産み落とされた子宇宙は、私たちの住む世界とは根本的に異なる物理法則を備えているかもしれない。重力が弱すぎて星が結ばれない世界、あるいは時間が逆方向に流れる世界。無限に膨張し、無限に死を迎え、その死の淵から新たな宇宙が分岐していく。それは、因果律の届かない「異なる世界線」の果てしない増殖に他ならない。
拡大する空間の果てに待つのは、単なる終止符ではない。一つの宇宙が自らの「広さ」に耐えかねて自己を解き放ち、その残骸の中から、未知の物語を宿した新しい世界線が芽吹く。私たちが認識できるこの宇宙は、連綿と続く多重宇宙の円環における、一時のかりそめの姿に過ぎない。 無限の虚無と無限の誕生。その繰り返しの果てに、宇宙は「永遠」という名の壮大な輪廻を、今この瞬間も紡ぎ続けているのである。
「世界線をこえて」第17部に続きます。「小説家になろう」で「世界線をこえて」でご検索ください。




