078⚫️現在・過去・未来
言語と時間の関係性は、その土地の気候や生存戦略と深く結びついている。英語のように時制を厳密に区別する言語がある一方で、中国語などのように動詞の形を変えない無時制言語も存在する。この相違の一因は、農耕を中心とした生存環境に差異があったからだという説がある。
寒冷地や四季の激しい地域では、冬に備えて種まきや収穫の時期を正確に把握せねばならず、時間は「管理すべき直線的なもの」として捉えられた。結果、文法にも厳格な時制が刻まれた。対して、一年中収穫が可能な温暖な地域では、時間は「循環するもの」と見なされ、言語上の未来への執着は薄くなった。
興味深いことに温暖な地域で見られる、「未来を現在に近い形で語る言語」の話者ほど、未来を身近に捉え、貯蓄率や健康意識が高いという研究もある。暖かい土地の「時間の寛容さ」は、単なる怠慢ではなく、環境に適応した生存の知恵が言語に反映された結果なのだ。言葉は、その土地の太陽の光や風の冷たさを映し出す鏡であると言える。
言語における時制は、一般に「現在・過去・未来」の順で成立してきた。まずは目の前の事象を指す現在形が生まれ、次に既成事実を確定させる過去形が発達した。未来は不確かな推測に過ぎないため、最後発となるのが通例である。
この成立過程で興味深い一考察例が、英語の不規則動詞の存在だ。
「go」が「went」へ、「eat」が「ate」へ異なる形をとる不規則変化群は、日常で極めて使用頻度が高い動詞に集中している。これには生存戦略的な合理性がある。頻用される動詞ほど、現在か過去かを瞬時に判別させる必要性が高く、独特の語形を持つことで雑音の中でも識別が容易になるからだ。
また、頻繁に耳にする言葉は記憶に定着しやすく、合理的な規則化(ed化)の波に抗って古い形を維持し続ける。つまり、不規則動詞は言語の歴史が堆積した化石であり、同時にコミュニケーションの即時性を支える機能的な装置でもあるのだ。
温暖で食糧環境が豊かな文化は、自然は自分たちが感謝し守るべき大切な資源である。一方、そうでない場で日々を営む文化は、自然は自分たちでより良いものに作り換える対象である。
言語を含むこれらの文化には、もちろん、優劣はない。ヒトはその環境によって柔軟に生活様式・文化を変容させていくものであるのだ。




