001⚫️赤コーナーのバトラー *
ショーン・マッケインは、熱気の残るリングを後にし、充てがわれた自室へ戻っ
た。今日の相手は手強かったが、2ラウンドで沈めた。貰ったハンディを不要にし、完全に勝利したのだ。’勝者の権利’は今回も行使しなかった。何より今は、勝利の余韻よりも、削られた体力の回復が先決だ、と告げたのである。
ここは魔界都市の格闘場。
観衆は日雇いの労働者から、退屈を金で買う富裕層まで。
彼ら彼女らの目に留まり、スポンサーを得られれば大金が転がり込む。
そのためには、まず強く、そして’見栄えがよい’ことが求められる。
この街では、戦士でさえ興行の’商品’なのだ。
ベッドに横たわり、端末で次戦の情報を確認する。
無差別級。相手の詳細は七十二時間前まで伏せられる。
「・・・女だ。あいつか。」
その瞬間、嫌な予感が背筋を走った。
本来なら、戦闘に特化した身体構造を持つ男が有利だ。
だが、この格闘場では理屈は通用しない。
’3ラウンド耐えれば女の勝ち’など、観客の興奮を煽るための歪んだ条件が平然と設定される。観衆は、不均衡な勝負に熱狂する。
そして興奮が最高潮に達するのは、勝者が敗者に対して与えられる’勝者の権利’を行使する瞬間だ。
ここでは命さえも、興行の一部として消費される。
男が敗れれば、リング外から雪崩れ込む’調停者’に拘束され、’対戦相手’による’最終措置’が行われる。
それは戦士としてだけではなく、その将来を断ち切るほどの重い結果であり、敗北の意味を全身で刻みつけられる儀式でもあった。
対して、男が勝った場合も救いはない。
敗者はその場で’処遇’が決まり、興行の都合に応じて扱われる。
観客は、勝者がどう振る舞うのかを固唾を飲んで見守るのだ。
端末に映る対戦相手は、若い美人だ。
観客は間違いなく彼女を贔屓し、過酷な条件が彼に突きつけるだろう。
もし’1ラウンド以内’などという設定になれば、彼女は3分間逃げ切るだけで勝者になる。
その場合、ショーンの’将来’は確実に断たれる。
「・・・考えても仕方がないか。」
ショーンは思考を切り替え、淡々と食事を摂りながら、次の戦いのイメージを組み立て始めた。 *
この話には、別の世界線としての“完全版”があります。世界線の跳び方は、
第8部063−02⚫️アキラの奮闘 https://ncode.syosetu.com/n7174me/64/
をご覧ください。




