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新入部員の自己紹介

 部員の先輩方と入部届を出した俺を含めて1年3人だけがコートに残り、みんなで円になって座る。



 信介の右隣に座ったら、左に紅玉が座ってきた。

 話し合いをするときは学年ごとに固まるのが普通だが、さっきの威張(いば)った態度や暴力的な試合を見たせいで近寄りがたい存在に見えてしまっている。

 少しだけ信介の方に寄った。



「まずは自己紹介から始めようか。じゃあ1年生は立って自分の名前を言ってね」



 部長が優しい口調で話す。

 見た目も優しそうだし、悪い人じゃなさそうだ。



「私からね」



 最初に立ち上がったのは紅玉だった。



紅玉(こうぎょく)天河(あまか)。全国1位狙ってます。弱い人は邪魔なので私に構わないでください、以上」



 すんごい嫌な自己紹介。

 普通自己紹介終えたら拍手するのに誰もしない。

 先生ですら黙ってる。



「うん、よろしくね」



 部長も困ったような顔をしてる。そして弱い拍手をした。

 部長の拍手で思い出したかのように俺たちも拍手をする。



「じゃあ次は俺っすね。不死(ふし)信介(しんすけ)っす。俺も全国狙ってます。みなさん仲良くしてくれると嬉しいっす。よろしくお願いします」



 さっきとは真逆に、信介の明るい挨拶にみんな自分から拍手をする。

 凍った雰囲気を溶かしてくれたことに感謝しているようだ。



「よろしくね不死君。じゃあ最後は君だね」



 俺はみんなと違って最近魔法を知ったばかりの初心者だ。

 魔法使いの中には非魔法使いを差別している者もいるのは聞いた。

 立ち上がるとき、足が震えているのがわかった。果たして俺は受け入れられるのだろうか。



鈴木(すずき)和成(かずなり)です。去年魔法を知ったばかりで、全然魔法は使えません。それでもみなさんに負けないよう一生懸命頑張ります。よ、よろしくお願いします」



 笑われる光景を想像し覚悟する。

 最初に耳に入ったのは珍しいものも見ているような感想だった。



「へえー、じゃあ特別学級なのね」

「今時珍しいな」

「頑張れよ。困ったらなんでも聞いてくれ」



 受け入れる声と拍手。それに俺は安堵した。



「よろしくね鈴木君。まだまだわからないことが多いと思うけど、ここにいる先輩たちはみんな優しいから、なんでも聞いてね」



 優しい部長の言葉に足の震えが収まる。

 よかった、みんな優しく——



「期待させるだけ無駄よ。こんな奴、1回戦で1ポイントも取れずに負けるわ」



 周りが紅玉の言葉によって一斉に(しず)まる。



 ……そうだよな。中には当然そういう人もいる。



 俺もそうだった時期がある。

 部員の中で一番上手いと自覚し始めたころ。

 さすがに口にはしなかったけど、心の中でずっと(つぶや)いてた。



『弱い、雑魚、教えても上手くならない、コートを使わせるのが無駄』



 思春期だったこともあるんだろうけど、あまりにも性格が終わってる。

 考えを改めたのは、練習試合で格下相手に適当にあしらってたら負けちゃったからだった。あれで因果応報は終わったと思ったけど、まだ続いてたんだな。



 信介には悪いけど、俺がいると今後も空気が悪くなりそうだし、入部はやっぱりやめ——



「そんなことない。和成には才能がある。お前にはない才能が」



 信介が立ち上がって宣言した。そのことに気に入らなかったようで、紅玉が信介を睨みつける。



 何言ってんだよ。会ってばかりの俺のどこに才能があるってわかるんだよ。



「へえ、どんな才能よ?」



 言えるわけない。だってまだ魔法も使えないんだから。会って数時間なんだから。



「周りの雰囲気を悪くしないところ」



 信介の言葉に、みんなが吹き出してしまう。

 紅玉の目つきがさらに鋭くなる。目を合わせたらマズそうなので眉毛らへんを見るようにする。



「今のは半分冗談。でもお前に匹敵するかそれ以上のものが必ずある。俺にはわかる」



 凄い抽象的な言い方。説得力がない。



「へえ、じゃあ証明してみなさいよ」



 紅玉も立ち上がった。



「どうやって?」



 2人に挟まれ縮こまってしまう。

 俺のことで喧嘩はやめてほしいなあ。



「1週間時間をあげる。試合をしましょう。1ゲームマッチのシングルス」

「え、ちょっと勝手に——」

「いいぜ」



 いや俺がよくないんだけど!



「1週間は、私がテニスを始めてからクラブ内で一番上手い先輩から1ゲーム取るまでに掛かった時間。私に匹敵する才能、あるんでしょ?」



 凄い情報が出てきた。俺だって部内の先輩から1ゲーム取るのに半年は掛かったのに。



「部長、1週間後、1年がコート使うの許可してもらっていいっすか?」

「え、まあウチはもともと緩くやってるし学年で扱いを変えたりしないから別にいいけど……」



 部長が顧問の伊勢(いせ)の方を見る。



 すると伊勢は目を瞑って「許可しよう」とだけ言った。顔が赤い。もしかしてこの状況に興奮してるのか?



「楽しみねえ。魔法もろくに使えない初心者が、どんなプレイを見せてくれるのかしら?」

「見せてやろうぜ和成。お前の力を」

「えー」



 こうして、俺の意見など聞くこともなく、紅玉との試合が決まってしまった。


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