三十四話 惑星降下
サイバーパンクシスター、イーディスの通信コードを手に入れたアレンは、何事もなくリオンと一緒にジーベックに戻ってきた。
「ネオン、というか皆にか、話がある」
そう言ってジーベックのクルーをリラクゼーションルームに集めたアレンは、リオンがスターリングに加入することを説明した。
「リオン、歓迎する、ようこそ、スターリングへ」
「腕が信頼できる傭兵が仲間に加わるのは歓迎だ」
「歓迎します、リオン」
「皆、ありがとう」
「まっ、断る理由はないわな、リオンはライセンスランクはいくつなんだ?」
「ゴールドランクでござる」
「ソロでか、やっぱり見込んだ通りの実力者だな」
「褒めてくれるとはありがたいが、肌に合う傭兵団がなかっただけでござるよ」
「ARMS単騎でどうやって活動していたの?」
「某は護衛依頼専門の傭兵をやっておったので、依頼人の船にカルラを乗せてもらっていたでござる。長期の依頼が多かった故、特に困ることはなかった」
「リオンは凄い実績の持ち主だよ、護衛依頼の達成率は90パーセントだと聞いて、私は依頼したんだ」
「90?、凄いな」
護衛依頼は今回のようにただでさえ大変な依頼なのに、十回のうち九回を成功させるというのは凄腕の傭兵と言っても過言ではない。
「リオンの話は承知しましたが、依頼の方は問題ありませんでしたか?」
「問題はなかったし報酬も貰えたけど…」
言葉を濁すアレンに、エレンはリオンに目を向ける。
「依頼主のイーディスに傭兵団に入りたいと言われたのでござるよ」
「モテるな、うちの団長様は」
「からかうなよ」
「そんで、どうしたんだ?」
「保留にした」
「保留?」
「ああ、今は無理だと言ったら、可能になったら連絡してくれと言われた」
「それじゃあ将来的には仲間に加えるの?」
「それはその時次第だな」
イーディスには、保留にして、待ったとしても断る可能性があると言ったのだが、彼女はそれでも構わないと言ったのだ。
「私はアレンの判断を尊重する、どうせマキウス教会の機械技術が気になっているから初めから断らなかっただけ」
「…ネオン、それは指摘しない約束だろ?」
「そんな約束した覚えはない」
「ネオン~」
「気持ちの悪い声を出さない」
「自分の欲望を優先してごめんなさい」
「ん、許す。あんまり女を船に乗せるのは良くない、私の忍耐にも限度がある」
「ネオンの嫉妬深さは深刻だな」
「某たちも入っているのでござるか」
「機械知性の私にも嫉妬する人ですから」
「そのうち無機物にも嫉妬しそうだね」
「皆、文句があるから聞くよ?」
キッとネオンに睨まれた面々は、一斉に視線を逸らした。
「コホン、半分は冗談だけど断らないといけない時はちゃんと断ること」
「はい」
((((半分は冗談じゃないのか))))
そう思う一同だったが、先程の反省を活かし口には出さなかった。
◆◆◆◆
サイバーパンクシスター、イーディスとの出会いがありつつも、ケイトのお陰かリノレスⅠへの降下申請はすぐに降りた。
降下申請が降りたので、ジーベックはリノレスセカンダスコロニーを出港し、事前に指定された降下ポイントに到着した。
「惑星降下シークエンスに移行し、二百秒後に大気圏に突入します、降下地点はリノレス第二空港です」
「都市惑星は機能性に極振りしてて、いっそ清々しいよな」
「海や森が見たければ、別の惑星に行けばいいからね」
「某の故郷と比べると彩りがないでござる」
これから降下する惑星リノレスⅠは、惑星の表面全体が一つの都市に覆われた都市惑星なので、リオンの言う通り、景観はお世辞にも良いとは言えないのかもしれない。
「砂漠やジャングルよりはマシ、過ごしやすい」
「あー、確かに砂漠やジャングルよりはマシだな」
元軍人の二人が、共感し合う。
「そういえばケイト、下に降りた後の具体的なスケジュールってどうなってるんだ?」
「アレンに共有したよ」
「俺たちはケイトの用事が終わるまでホテル暮しだな、期間は三日で泊まるホテルもホテル代もケイトが用意してくれたぞ」
「太っ腹だな」
「私の都合で待たせるわけだからね、これくらいはさせてもらうよ」
「あんまり詳しくは聞かなかったけど、ケイトの用事って?」
「本社でコンペティションがあるんだよ、私が長年研究してきた新薬を是非販売して欲しいからね、コンペティションが終われば気兼ねなく新しい研究に入れる」
「コンペティションって?」
「簡単に言えば研究者が開発した商品を本社の人間に発表する会だね」
「発表会での評価が高ければ実際に商品化されるってわけか」
「その通り、次のコンペティションは半年後だから見送るわけにもいかなかったんだよ、この新薬が商品化されれば救われる命があるからね」
「エグロン社は軍事系の星間企業だと思っていたでござる」
「それは間違ってないよ、ただたとえ無人機であろうが操縦するのは人間だからね、健康は大事な要素だ」
「なるほど、某はケイト殿を護衛できて良かったでござる」
「なんだい急に?」
「いや、言っておきたいと思っただけに候」
「ブリッジを遮蔽いたします、皆様、大気圏に突入するので、衝撃に備えてください」
ブリッジのフロントガラスが、シャッターに遮蔽され、ブリッジ内を赤いランプが照らす。
シールド越しに船体を包む圧縮熱により、小刻みに揺れるが、ブリッジ内にいるクルーたちにはなんの影響もない。
やがて、揺れが収まりシャッターが開閉し、目に入った無数のビル群が、無事にリノレスⅠに降下できたことを教えてくれた。
「これよりリノレス第二空港に着陸致します」
「船に問題は?」
「ありません、すべてオールグリーンです」
「よし」
アレンは唯一の心配事が解消されて、深く椅子に座る。
その後は何の問題もなく、ジーベックは空港に着陸した。
ケイトとは空港のロビーで別れた。
「それじゃあ三日後にまた、それと何か困ったことがあったら遠慮なく連絡してくれ」
「ああ、ケイトもコンペティション、頑張れよ」
「ありがとう、アレン」
荷物が詰まったスーツケースを片手に去っていくケイトを見送り、スターリングの面々はケイトが用意してくれたホテルに移動した。
「高そうなホテルのロビーだな、おい、あれってもしかして本物の木か?」
「観葉植物というやつですね、惑星下ではごく一般的なインテリアです」
「そうなのか」
「惑星とコロニーじゃ何かも違うらしいからな、とりあえず受付に行くぞ」
アレンが受付の人間と話している間、やることがないネオンは、エレンに話しかける。
「エレン、近くに紙本屋ってある?」
「紙本屋…ですか?」
「ん」
「徒歩ですと少々遠いですが、一軒ありますね、位置情報を送ります」
「ありがとう、礼はなにがいい?」
「シルヴァーナを少しだけ解析させてください」
「…指先だけ」
「構いません!」
「それぽっちでいいのかよ」
「ネオンは、紙の本に興味が?」
「ん、一度紙の本を読んでみたかった。コロニー生活だと紙の本はまず手に入らないから」
「惑星下では高価ですが、コロニーで買うほどの桁違いの売値ではないそうですよ」
「それはラッキー」
本や雑誌がデジタルで読まれるようになって久しいが、紙の本が消滅したわけではなく、一定の需要があるため、紙の本を出版している出版社は意外と多いのだが、主に輸送コストの面で、コロニーで紙の本を買うのはかなり難しいのだ。
「皆部屋の電子キーを貰ったぞ、何の話をしてたんだ?」
「紙本屋に行くって話」
「紙本か、散財しすぎないようにな」
「気をつける」
話し終えた面々は、ホテルの部屋に向かうのだった。




