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二十六話 エレンのボディと会敵

部屋で設計図とにらめっこしていたアレンは、エレンに呼ばれて、リラクゼーションルームにやってきた。


「エレンのボディが届いたって?」


リラクゼーションルームを訪れると、スターリングの面々とケイトとリオンの二人組が揃っていた。


《はい、つい先程届きました》

「オーケー、すぐに作業を始める」


ガイノイドのボディが入った生体ポッドと、エレンの意識が入ったクモ型ロボットをケーブルで接続し、意識データの転送を可能にする。


「エレン、いつでも大丈夫だぞ」

《はい、それでは》


エレンは機械知性なので、意識データの移動は一瞬で、生体ポッドの蓋がプシューという音を立てて、開く。


むくりと生体ポッドに横たわるガイノイドが、起き上がる。


「おはようございます、アレン様」

「おはよう、エレン。気分はどうだ?」

「不思議な感覚です、アレン様と同じ目線で話すことがとても奇異に感じます」


「それは仕方ない、ずっと手のひらサイズのロボットの中にいたからな、感覚の修正は時間をかけるしかない」

「いえ、それほど時間はかけません」


貫頭衣を着たエレンは、生体ポッドから降りて、立ち上がる。


「改めてエレンはアレン様に奉仕し、傭兵団スターリングの操舵手として働きます」


「改めてよろしく、エレン」

「よろしくな、エレン」


「はい、ネオン、ゼナ、よろしくお願いいたします」


こうして機械知性のエレンはガイノイドのボディを手に入れた。


◆◆◆◆


元々エレンのボディを手に入れたら、出港する予定だったので、ジーベックはすぐに出港準備を始めた。


「そういえば聞いてなかったけど、エレンが着てるその服はなんだ?」


ボディの採寸情報は既に持っていたので、エレンが着る服は事前に用意していたのだが、エレンが着る服はアレンの知識にはないものだった。


「クラシカルメイド服です」

「クラシカルメイド服?」

「はい、この服は奉仕する者が着る正装です」


「ネオン、そうなのか?」

「正装かどうかは知らないけど、使用人が着る服」

「へぇー、宇宙は広いな」


アレンが新たな知見を得ている間に、出港準備が整い、出港許可も出た。


『ケイト、リオン、現時刻をもってジーベックは出航する』

『了解した』

『承知』


ブリッジにいないケイトとリオンに、出港を伝え、ジーベックはアイレーンコロニーを後にする。


「さて、リノレスIに着くまで何事もなければいいけど」

「ぶっちゃけると何とも言えないな、コロニー内ならともかく宇宙に出てしまえばハッキングもクソもないからな」


「ケイトと一緒にいた傭兵団が、ジーベックと結びつかないとコロニーからの追跡は無理、だから私たちが警戒してるのは、私たちが通る航路で待ち伏せしてる連中」

「だな」


ネオンは当たり前として、ゼナも泰然としていてくれるのは、アレンとしてはありがたい気持ちだった。


「アレン様、暫くは凪いだ航行になると思われますから、自室に戻って構いませんよ、リノレスIまでは長いですから」

「ありがとう、悪いけどそうさせてもらうよ、何かあったらすぐに警報を鳴らしてくれ」

「承知しました」


アレンは艦長席を降りて、ブリッジから出ていった。


「やけに緊張してるな」

「アレンは初めての護衛依頼だから」

「それはお前もだろ」


「私は場数が違うから」

「確かに、ネオンが緊張して硬くなる姿は想像できないな」


「アレン様は非戦闘員ですがジーベックの艦長です、緊張するのは当然かと」

「アレンもちゃんと人間ってことか、メンタルケアはしっかりしとけよ、いざって時に使い物にならなかったらどうしようもないからな」


「それは大丈夫、アレンも戦場は何度も経験してるから、さっきだってエレンに休めって言われてすぐに休んだ」

「セルフコントロールはできてるのか」


整備兵とはいえ、元軍人は伊達じゃないのかとゼナは感心した。


◆◆◆◆


三日ほど、なんのトラブルもない航行を続けていたジーベックだったが、エレンはレーダーに映る艦影に、疑問を覚える。


「ゼナ、聞きたいことがあります」

「なんだ?」

「この船が、24時間ほど前からずっと同じ距離を保って、後ろからついてきています」


「数時間前にハイパードライブを使ったよな?」

「はい、2時間34分11秒前に使用し、ついてきました」


ハイパードライブ、超光速航法を使用してもケツに張り付かれているというのは、偶然では片付けられない。


「アレンとネオンを呼ぼう」


ゼナの一言で、アレンとネオンの二人がブリッジに呼ばれ、状況を共有した。


「間違いなくジーベックを追跡してる」

「確定か?」

「うん、ワープアウトする先が同じ宙域なんてありえない」


この広大な宇宙空間で、偶然ワープアウトする先が同じなどまず有り得ないとネオンは断ずる。


「宙賊の可能性は?」

「それはない、仮に宙賊ならとっくに襲ってきてる、離れて追跡する理由がない」


ネオンの言葉は説得力に溢れていた。


「でも誘拐犯の狙いはケイトだろ?、どっちみち見つけたら襲ってくるんじゃないのか?」

「それはジーベックにケイトが乗ってる確証がないか、もしくは…」


「前方10000にドライブアウト反応です!」

「援軍の到着を待ってるか」


ブリッジの光学カメラには、亜空間から出現した中型戦闘艦の姿が映る。


「アレン様、前方の船より通信が入っています」


アレンは、ハンドサインで、ネオンとゼナに格納庫に行くように指示する。


頷いたネオンとゼナは、ブリッジから出ていく。


「繋いでくれ」


『お、金持ちの娘を助ける真似をするような傭兵共のつらに興味はあったが小僧とはな』


ブリッジのメインモニターには、暴力の気配を纏った大男が映る、容姿はともかく纏う雰囲気は以前ゼナが所属していた傭兵団の団長に似ていた。


「冗談にしてはつまらないな、当艦の針路を塞いでしまい申し訳ないと謝るのかと思っていたぞ」

『はっ!、てめぇらの船にオーベルの娘が乗ってるのは分かってるんだよ!、今更シラを切るつもりか!?』


「言っている意味が分からないな」

『うちのハッカーは優秀でな、輸送艦の売却をジャンク屋でやったのは失敗だったな』


(売却金の受け取り先の位置情報からケイトの居場所がジーベックだとバレたか、相手のハッカーは随分と優秀だな)


「やはり言っている意味が分からないな、お前は船を間違えてるぞ」

『小僧、オーベルの娘を渡せ、二度は言わねえぞ』

「お前たちこそ、勘違いで襲っておいて無傷で帰れると思うなよ」

『ちっ、お前は女共の死体の前で殺してやるからな』


捨て台詞を残してぶつりと通信が切れる。


「ネオン、ゼナ、いけるか?」

『『いつでも』』


「前方の敵艦よりミサイル発射!」

「回避行動!」


エレンの巧みな操舵により、前方の敵艦から発射された三発のミサイルを躱す。


「エレン!、出せるか!?」

「いけます!」

「全ARMS発進!」


格納庫のハッチが開き、シルヴァーナが飛び出す。


『ゼナ、後ろは任せる』

『任せろ』


遅れてエルカノが発進し、ネオンはシルヴァーナを飛行形態に変形させ、機首を前方の中型戦闘艦に向ける。


「前方の敵艦が小型戦闘艇を発艦、さらに後方の敵艦が接近してきます」

「前はネオンが片付ける、問題は後ろの船だ。ゼナ」


『なんだ?』

「ジーベックはミサイルの飽和攻撃には耐えられない、なるべく撃ち落としてくれると助かる」

『了解!』


エルカノのコクピットの中で、ゼナはスコープを覗いた。



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