振る舞いのスープとカツサンド
父さんが帰ってきたのは、空が茜色に染まった後だった。
事態はどうも、良くないようだ。
「50体程狩ってきたが、まだまだいる。後は冒険者に託そう」
父さんは、疲れた顔でそう言っていた。
幸い、まだ近くには来てないそうで、今夜はゆっくり寝られるそうだ。
父さんは、早めに夕食を済ませると言い、食堂へ向かった。
食堂へ行くと、父さんと母さんが揃っていた。
僕も席に着くと、父さんの合図で料理が運ばれてきた。
今日のメニューは、カツ丼。
トンカツは丼からはみ出す程のボリュームだ。
箸でつまみ上げ、かじりついていく。
ガブッと食べると、カラリと揚がったカツの肉の旨味が舌の上に広がった。
ご飯と一緒に、かっこんで食べる。
完食し、次はデザートだ。
デザートは、チョコレートケーキだった。
母さんが好きそうな濃厚なタイプ。
チョコのどっしりとした甘さと、食感の重たさが丁度良く、口の中で甘さが解けていく感覚を楽しんだ。
ふと見ると、母さんはニコニコと微笑んでチョコレートケーキを食べていた。
ゴブリン騒ぎでなんだか忙しいけれど、母さんのこんな笑顔を守る為に、頑張りたいって、思うんだ。
「今日は早めに寝なさい。明日は朝早くから森へ入る。森の入り口までは、カッスィーも連れて行く。いいな。では解散しよう」
父さんの号令で解散し、自室に戻った。
僕は早々とお風呂に入り、牛乳を飲んで、歯磨きをして就寝した。
翌朝。朝食後、一緒に森に入る猟師を紹介された。茶色い髪で短髪のナロさんと、焦げ茶色の長髪をしっかり編み込んだユギさんだ。
ルビアの父親のギネーさんは他のふたりともう森に入っているという。
父さんと僕、ナロさんと、ユギさんは、後発組になるそうだった。
森には南西から入り、北を目指す。
丁度村の西側に巣があるようだが、村の西側には田畑がある。近くには家畜小屋もあるし、荒らすわけにはいかない。
よって、南側に誘導しつつ、森の中で仕留める、といったことを繰り返しているそうだ。
僕の仕事は、ここまで抜けてきた個体の排除。
急遽作られた柵の外側で敵を待つ。
そこには、紫色のロングヘアをツインテールに結んだルビアの姿もあった。
父さんとナロさんとユギさんは、森の奥へゆっくりと消えていった。
「カッスィー。おはよう。何だか大変な事になっちゃったね」
「おはよう、ルビア。冒険者が到着するのは昼頃だから、それまで持たせられればいいって、父さんは言ってたよ」
「うちのお父さんも言ってた。後三、四時間位かな。ここまで来るゴブリンがいるかわからないけど、弓隊として頑張ろっか」
「うん。ルビア、弓はどれぐらい上手になったの?」
「うーん。カッスィーみたいにはいかないよ。的に当たるのは5割位かな。いざとなったら短刀もあるし、何とかなると思ってる」
「僕も短刀、持ってきたよ。でも、なるべく遠距離で仕留めよう」
「うん!」
今日、食堂は振る舞いのスープを出すとのことで、ガイはそちらの手伝いで不在だ。
テッサもヤッコムさんの手伝いで、ここにはいない。
異変があったのは二時間位経って、そろそろ退屈を持て余している時だった。
何かのうなり声が聞こえて、一気に緊張が走る。
弓を引き絞り、獲物が視界に入るのをひたすら待つ。
森の木陰からまろび出て来たのは、緑の体表に申し訳程度の腰巻き、僕らと変わらない身長。ゴブリンだった。
すぐさま首を狙って打つ。命中。ゴブリンはもんどり打って倒れた。
念の為あと二発打ち、動かないことを確認して近付く。ゴブリンは死んでいた。
胸から魔石を取り、念の為、討伐証明の耳を切り取った。
軽く掘った穴に埋め、ルビアに燃やして貰う。
灰になったゴブリンを見つめつつ、他のゴブリンが来ないかあたりを伺う。
幸い先程の一体だけしかいないようだ。
僕達は警戒を緩め、森の奥を見つめる作業に戻った。
それから一時間程して、森の奥からナロさんとユギさんが下りてきた。冒険者への案内役をやるという。
一緒に村へ戻ろうというユギさんに、先程一体ゴブリンが来た事を伝える。
「そうなのか。じゃあナロ、頼めるか?」
「ああ。ここは俺が見ておくよ」
森の入り口にはナロさんが残り、僕とルビアは昼食と冒険者への対応をする事になった。
ルビアは真っ先にギネーさんの安否を聞いた。勿論無事だと聞いて、胸をなで下ろしていた。
ユギさんと一緒に村に戻る。
食堂へ行くと、軒先で振る舞いのスープを煮ているアマネさんの姿があった。
「ユギさん、カッスィー、ルビア、お疲れ様。怪我人は出ていないの?」
「軽傷者ならいたが、エドさんのポーションですっかり治ってるよ。振る舞いのスープを人数分貰えるか?」
「どうぞ。中で休んでいって下さい。今、振る舞いのスープとカツサンドをお持ちしますね」
食堂の席に着き、スープに口をつける。
振る舞いのスープは、ジャガイモと人参、ベーコンと鶏肉が入っており、コンソメ味。具だくさんでとても美味しかった。
カツサンドは、カツにソースがしっかり染み込んでおり、塩味の効いた味付けが、疲れた身体に丁度良かった。
デザートは、ガイ特製モミジ焼き。
あんこたっぷりのものと、カスタードクリーム入りのもの。アツアツで甘くて、とても美味しかった。
「カッスィー、ルビア。村長宅で冒険者を待とう」
「うん、わかったよ」
「はーい」
僕等は移動し、村長宅の応接室で食後のお茶を飲みながら、冒険者の到着を待った。
待つこと暫し、馬のいななきが聞こえたのは、太陽が中天を過ぎてからだった。
僕達は玄関に向かい、戸を開けると、まずダッケさんが入ってきた。
「おお、カッスィー。ゴブリンはどうなった?」
「落ち着け。ゴブリンは村長達が抑えてる。冒険者は連れて来れたか?」
「ああ。勿論だ」
「俺が冒険者の先導をする。誰と話せば良い?」
外に出て、あたりを見回す。
そこには冒険者が10名程佇んでいた。
その中の一人が近付いてきた。
「Cランクパーティ"明星の風"だ。俺はリーダーのトーマス。他にDランクパーティが2つ来ている。ゴブリンの巣を潰す依頼だが、相違ないか?」
「ああ。宜しく頼みたい。うちの村の猟師がゴブリン共を抑えている。場所はこのあたりだ。南西から入って、北へ向かって叩く。西には田畑があるんで守りたい。目視でゴブリンは150程。巣の中は未知数だ」
「わかった。農地に逃がさないよう、なるべく気をつける。"ユーカリの里"は森の入り口で打ち漏らしを叩いてくれ。俺達"明星の風"と"火のアケーカ"は猟師を下げたら頃合いを見て突っ込む。いいな?」
「おう!」
冒険者達はトーマスさんの号令で、ユギさんの後をついて森へ向かった。
僕達はお留守番。
「カッスィー。もうちょっと活躍したかったね」
「そうだね。でも、今ついていくと冒険者の邪魔になっちゃうしさ。ギネーさんや父さんが帰ってくるのを待とう」
「うん」
僕とルビアは、僕の私室で休憩し、時間を潰した。ゲームをしていても気がそぞろになってしまうので、おやつに食べたいデザートを決めていた。
「うーん、やっぱりチョコレートパフェ!」
「ぜんざいもいいよね。苺パフェも捨てがたい」
「いっそカキ氷もいいかも。あとドーナッツ」
ああでもないこうでもないと、おやつ談義に花を咲かせていると、1時間程で父さんやギネーさん、他の猟師さん達も戻って来た。
「お帰りなさい、父さん」
「ただいま、カッスィー。冒険者は凄いな、あっと言う間に弓の上位個体を倒していたよ。統率されたゴブリンもなすすべなく狩られていた。これならそう時間はかからんだろう」
「僕等も一体仕留めたよ。魔石と討伐証明の耳。どうしたらいい?」
「よくやった。カッスィー、ルビア。では換金するから渡して貰えるか?」
「はい」
父さんに魔石と討伐証明の耳を渡す。
父さん達は振る舞いのスープを食堂へ食べに行った。まだ冒険者は戻っていないが、早くも健勝ムードだ。
「私達も、頑張ったよね」
「うん、おやつを食べに行こう」
ルビアと一緒に食堂へ行き、席につく。
ミラノさんが配膳してくれたのは、チョコレートパフェだった。
底から、ヨーグルト、コーンフレーク、チョコアイス、バニラアイス、チョコソースにたっぷりの生クリームだ。
チョコアイスと生クリームが美味しくて、頬が緩む。ちょっと溶けたアイスと、コーンフレークを食べる。底のヨーグルトが甘いパフェをさっぱりさせてくれた。
完食し、食後のお茶を飲む。
おやつを食べ終わったので、ルビアは家に帰ると言い、僕は送っていくことにした。
冒険者が来ているので、村の雰囲気は少し緊張している。
そんな中を歩き、ルビアの家に着いた。
「じゃあね、カッスィー。また弓隊として出るようなら教えてね」
「わかった。じゃあまたね、ルビア」
僕達はルビアの家の前で解散し、それぞれの家に戻った。
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