ゴブリン
翌日の朝食後、食後の紅茶を飲んでいると、父さんに話しかけられた。
「カッスィー、ちょっと良いかい」
僕は返事をして、父さんに向き直る。
「はい、何でしょう。父さん」
「宿屋をやってるゲンとトモロ、食堂のニネと一部の猟師にビールを卸す事に決まった。倉庫に出してある分では少し足りないから、追加で6缶セットを300程納品して貰いたいんだ」
「うん。わかったよ。他に足りないものはある?」
「こちらで伝票にしておいた。特に米が多めに欲しい。それと味噌、醤油だな」
僕は伝票を受け取り、納品を快諾した。
「じゃあ、納品して来ます」
僕は食堂を後にして、倉庫へ向かう。
玄関を通りかかると、丁度テッサが来たので、一緒に倉庫へ向かった。
村長宅の倉庫は家の横に建てられており、巨大な氷室がある。
氷室に入り、まずはアイスクリームを納品する。
魔導アイスクリームメーカー、アイスクリンは白金貨1枚するので、ティティー村ではまだ買えないのだ。
商品をテッサにチェックして貰い、ざらざらと出し、積んでいく。積んで積んで、僕も積み上げを頑張った。
そして次は貯肉庫だ。今日は子牛一頭を出していく。後は地鶏を10羽。
肉を見ているとお腹が減ってくる。
さて、次は米だ。倉庫の中心に行き、米の補充をする。
そして、醤油、味噌、出汁の元、昆布、その外食品を出していった。
「ゴブリンが出たぞー!」
そんな声が、遠くから聞こえた。
僕とテッサに、緊張が走る。
春先は、色んな物が騒がしくなる季節だ。
そう、魔物も活性化するのである。
納品を終わらせ、村長宅へ戻ると、ダッケさんが荒く息をつきながら水を飲んでいた。
「ダッケさん、ゴブリンは何体?」
「斥候が3体だ。すぐギネーさんが討ち取ったが、巣が近くになさそうなんだ。森の奥まで行くなら、きっと率いているやつがいるだろうって、ギネーさんが言っていた」
「カッスィー、森を見てくる。お留守番していなさい」
「父さん、僕も行くよ! 弓は最近練習してたんだ」
「カッスィー、お前は弱いゴブリンしか見たことがないだろう。今回は王がいるかもしれん。何が起こるかわからん。弓の手が必要な時には呼ぶから、大人しくしていなさい」
噂には聞いたことがあった。ゴブリンは単体だと弱いけれど、統率されたゴブリンは強いって。
そして、魔法を使う個体や剣の強い個体もいるという。
「本当に大丈夫……?!」
「ダッケ、冒険者への依頼を頼んだ。怪我人が出るかもしれんからエドは動かせん」
「村長、行って来ます!」
「ああ、気をつけて」
ダッケさんはランダさんのいる納屋へ走っていった。馬車を出して貰うんだろう。
「俺も行ってくる。カッスィー、テッサとゆっくり昼ご飯を食べていなさい。夕刻になる前には戻ってくるよ」
「わかった。行ってらっしゃい」
「村長、気をつけて。行ってらっしゃい」
テッサとふたり、父さんを送り出す。
まだ少しお昼には早いが、食堂へ行くとミラノさんが待っていてくれた。
「ゴブリンが出たんだってな。まず斥候をお互いに出してるだろうから、長丁場になる。冒険者を迎える事になるし、まずはゆっくり飯を食おうや」
「うん。わかった」
僕は頷きを返し、テッサと一緒に昼食を食べる事にした。
まず、前菜が運ばれてくる。
メニューは、野菜たっぷりのミネストローネだ。
温かい料理を食べて、身体に体温が戻って来た気がする。
思っていたよりも、僕は緊張していたようだった。
「温まってうめぇ」
「うん、温まるね」
僕等はゆっくり、温かなスープを飲み干した。
メインは、子牛のステーキだ。
肉の断面には綺麗な焼き色がついており、かぐわしい香りがする。
ナイフを入れて、切り分ける。
フォークで一口。美味しい。
肉は弾力があり、レアの焼き具合だ。
脂身は甘く、赤身は肉の旨味たっぷりだ。
付け合わせの甘い人参とコーン、たっぷりのフライドポテトを食べながら、肉を食べ進めていく。
胡椒がきいており、ごはんも進んだ。
美味しかったので、あっと言う間に完食してしまった。
デザートは、苺のタルトとアイスクリームだった。
アイスクリームは苺を練り込んだものと、チョコレートアイスだ。
タルトは底のカスタードクリームが甘く、上に乗っている苺、柔らかなスポンジ、甘い生クリームが程よく調和している。ケーキは甘いが、酸味のある苺でサッパリと食べられた。
アイスも完食し、食後のお茶を飲む。
今日は、紅茶を淹れて貰った。
紅茶の良い匂いに、ひと息つく。
父さん、まだ帰って来ないな。
「テッサ、送っていくよ」
「そうだな。もしかしたら剣が売れるかもしれないし、売り場に行ってみるよ」
テッサは冗談めかして言っていたけれど、テッサの家の鍛冶屋に、数人の人だかりが出来ていた。皆、村の人間だ。
「ああ、テッサ。ゴブリンが出ただろう? 今年は早いね。今回は王がいるかもしれないんだ。剣のひとつも買っておくべきかと思ってね。村の衆は結構見に来ているよ」
「今回って、村の中に入ってくるかもしれないのか? 待ってくれ、親父に聞いてみる。親父ーっ! 剣って買った方がいいのか?」
テッサが大声で叫びながら奥に消えると、奥からヤッコムさんが出てきた。
「今の所村にやってくるとしたら明日以降だ。しかし、明日には冒険者がやってくる。剣が必要な場面があるようなら、村長から一声あるだろう。今すぐに買わなくても良いが、不安なら安く売るぞ」
ヤッコムさんにそう言われ、数人は買わずに帰るようだ。しかし、残る人もいた。
「これから春が来るからな。俺は買っておく。コッコ銀の剣は高いかい?」
「コッコ銀は素材が高いから金貨が必要だ。もう少しランクを落として、ファウト鋼の剣なら安いぞ。銀貨1枚からある」
「じゃあ、ファウト鋼でちょっと良い奴をくれ」
「わかった。ちょっと待っててくれ」
ヤッコムさんは、一度奥に入って、一振りの剣を持って戻って来た。
「銘は"春風"。ファウト鋼でランクAの良品だ。銀貨6枚だ」
「ああ、丁度ある。ありがとな、ヤッコムさん」
「ありがとうございました。……カッスィー君。テッサを送ってくれてありがとう。お茶でも飲んでいくかい?」
「どういたしまして。ゴブリン騒ぎで、思ったより物々しくてびっくりしました。父が家に帰ってくるかもしれないので、家に帰ります」
「ああ。村長が森に入っているんだな。何かあったら伝えてくれ。じゃあな」
ヤッコムさんに別れを告げ、村長宅へ帰り着く。
まだ父さんは帰っていない。
僕は私室で父さんの帰りを待つことにした。
ややあって、おやつの時間だ。
食堂に行き、ミラノさんにおやつを出して貰う。
今日のメニューは、マカロンだ。
色とりどりのマカロンに、生クリームと桃がサンドしてある。
マカロンは、一つ一つ味が違って美味しかった。僕は茶色のチョコ味が気に入った。
心は急くけれど、繊細な茶菓子に舌鼓を打ち、僕の午後はゆっくりと更けていった。
お読みいただき、ありがとうございました。
もし面白い! 応援してるよ! と思ったら、
↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!




