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今夜は16話、17話(完結)と2話連投しました。この話は17話です。2/2


*女性から男性への暴力表現ありますので、ご注意くださいませ。






(まさか、あなたが薬を──どうして……?)


「お前は俺のものだ」


 リュシーはじりじりとタリアへ近づいた。一度殴られたから警戒してるのだろうか。

 十分タリアの側へ近づいたリュシーは、どこからか取り出した布切れをこじ開けたタリアの口へ素早く突っ込んだ。

 そうして、タリアが一切抵抗できないことがわかると、タリアを長椅子に押し倒して上からのしかかった。


(ちょっと何するのよ!? ただでさえ苦しいのに、こんなことされたら死んじゃう!)


 口に布を突っ込まれて声も出せないし、苦しい。


「あの薬、よく効くだろう? 手に入れるのに苦労したんだ」


 やはり、薬を盛ったのはリュシーだった。

 一瞬、メイドもグルだったのかと思ったが、すぐさま否定する。あのメイドは本気でタリアの心配をしていた。きっと、リュシーにいいように使われただけだろう。


 商会の三男坊が苦労して手に入れるほどの薬ならば、国でも取引が禁止されている薬物の可能性が高い。


「こうなると、さすがのお前も抵抗できないみたいだな」


 顔に力が入らないから、睨むことさえできない。タリアの目からは涙がポロポロとこぼれ落ちた。


「悔しいのか──?」


 それを目にしたリュシーは、口元を歪めて笑った。


(ほんっとに……何て馬鹿なの──?)


 何年も一緒にいたリュシー。


 恋人としての愛情はすっかり消えてしまっていたが、それでもさっきまでは家族のような情が残っていた。

 浮気者でも、彼が選んだのがいけ好かないマウント女でも。

 彼に幸せになって欲しいと言ったのは、間違いなくタリアの本心からの願いだった。


 だのに。


 何度タリアを失望させれば気が済むのだろう。

 今リュシーは、その家族の情さえ粉々に砕こうとしている──いや、もう既に砕け散ってしまった。


 抵抗しようにも、身体が動かない──いや、さっきの呼吸法を試したおかげで、少しは痺れが取れてきている。そのことがタリアに希望を与えていた。

 しかし、まだリュシーを跳ね除けるほどの力は出ない。そもそも男の力で押さえつけられているのだ。力が戻ったとして跳ね除けられるだろうか。


(もしかしてこれ、絶体絶命の大ピンチじゃないの?)


「ああ、本当にいい気分だ」


 自分の身体の下で涙を流すタリアを見て、リュシーはすっかり愉悦に浸っていた。

 それを見たタリアの頭がすうっと冷えていく。これはあの時と同じだ。

 話が通じない輩を説得するのは、どだい無理な話だった。


「半日ほど動けなくなるが、副作用はないらしいから安心してもいい。外国の奴隷商が商品を調達するために使われる薬らしいから効果は確かだよ」


 安心などできるはずがない。

 リュシーはタリアに馬乗りになったまま、彼女を横に向け後ろ手に縛り上げた。


「誰も知らない場所があるんだ」


 縛りながら楽しそうに目を細めるリュシー。


「僕と一緒にそこへ行こう。そこなら、誰の邪魔も入らない。ずっと二人きりでいられる──嬉しいだろう、タリア?」


 嬉しいものか。

 だが、口を布で塞がれているため、その言葉は音にならずに消えていく。


「僕の世界にはお前しか要らない。お前の世界に必要なのも僕だけでいい」


 今さら、何なのだろう。

 よそ見をしたのはリュシーの方なのに。

 どの口でそれを言うのか。


 何を言ってもタリアからの反論がないことに満足したのか、リュシーは嬉しそうに笑いながらタリアの頬に手を伸ばした。


「ああ、お前は──……」


(今だっ!!!!)


 何かを呟きながら、リュシーが顔を近づけてきたその瞬間、タリアは渾身の力で頭をぶつけた、その鼻っ柱に。

 リュシーが長々としゃべっているその間も、苦しいながらに浄化の呼吸を行っていたのだ。そのおかげか、わずかながら身体の自由が戻ってきた。

 鼻は、生き物の弱点だと聞いたことがある。野生の獣に出会ったら鼻を殴れと祖父が言っていた。


 ──ガツンッ!!!!


と、ものすごい音がした。もしかしたらちょっとだけボキッとも聞こえたかもしれない。


「ぐぁっっ!!!」


 リュシーが大きく仰け反って、身体がふっと軽くなる。


(あ、足も動きそう──!)


 タリアは膝を手前に引くと反動をつけて、リュシーの急所──要は股の間を思い切りかかとで蹴りつけた、というか踏み抜いた。もちろんこれも、祖父直伝の護身術の一環だ。


「ぎゃああああ──っ!!」


 凄まじい断末魔をあげて、リュシーが吹っ飛ぶ。


 この光景を見るのは二度目だろうか。

 タリアは、壁際で白目を剥いて倒れているリュシーを冷めた目で見つめる。力の加減ができなかったが、これでもしリュシーの男性機能がダメになったとしても、自業自得だろう。

 もはや、一片の同情心すら湧いてこなかった。


「──タリア! タリア、そこにいるのかっ?!」


 焦ったような声とドアをガチャガチャとする音が聞こえてくる。

 まだ、起き上がるほどの力は戻っていない。

 口の奥に詰め込まれた布の塊を、何とか舌で押しだした。


「ルド……ラン……」


 やっとのことで捻り出した声は、酷く掠れていていた。


「タリアかっ!?」


 囁き声ほどの大きさしかないその音が聞こえたはずがない。たが、自分を呼ぶその声が一段と大きくなる。

 すぐに、扉に何かを打ち付ける音が響いたと思うと、鬼のような形相をしたルドランが扉を蹴破って入ってきた。


「──タリアっ!!! 大丈夫かっ?!」


 タリアに走り寄るルドランは息を切らせている。その後ろに、さっきのメイドの姿が見えた。ルドランが戻らないタリアを心配してウロウロしていたら、誰かを呼びに出たメイドにばったり会ったというところだろうか。

 ルドランはタリアを抱き起こすと、手早くタリアの腕の拘束を解いた。汗が滲み、髪が崩れて前髪が目にかかっているその姿が何だか妙に色っぽくて、タリアはクスッと笑った。薬のせいできちんと笑えていたかはわからないが。


「だい……じょう……」


 案の定、舌がもつれて上手く言葉にならなかったが、『薬を盛られたみたいで』何とかそう伝えると、ルドランからぶわっと殺気が吹き出した。


「奴はどこだ──っ!」


 タリアがまだ痺れが残る指である壁際を指し示し、ルドランがそちらに目をやる。

 そこには、さっき吹っ飛んだリュシーが仰向けに転がっていた。

 鼻から血を流したリュシーは苦悶の表情を浮かべ、更に白目を剥いて、口から泡を吹いて気絶していた。


「「…………」」


 二人はしばらく無言でその様子を見ていたが、ルドランがたまらずぶはっと吹き出した。


「全く君は──一度ならず二度までも。これじゃ騎士も形無しだな。ふっ──だが、そんな君だから惚れたんだよ」


 ルドランはタリアを胸に閉じ込めて、ぎゅっと力を込めた。


「ねぇ、タリア──ピンチに颯爽と駆けつけられない役立たずの騎士だけど、それでもまだ君の側にいてもいいかな?」


 耳元で囁かれて、少しくすぐったさを感じながら、タリアは思った。

 役立たずなんてそんなことはない。こうして駆けつけてくれた。それがとても嬉しい。

 もしタリアがリュシーを伸さなければ、ルドランが助け出してくれていたはずだ。

 まだ舌を噛みそうで言葉を発することが出来ないタリアは、ただコクコクと頷いた。彼の目が嬉しそうに細められる。


「ここ、赤くなってる──」


 ルドランがタリアの額をするっとなでた。

 リュシーの鼻にぶつけたところだろうか。


「…………」


 ルドランは、愛しげにタリアを見つめた後、額に一つキスを落とした。

 なんだか背中がゾクゾクするけれど、胸の中はぽわぽわする。


 この先もこの人となら進んでいけるだろうと、そう思ったら……。


「──好き」


 思わずぽろっとこぼれ落ちたその言葉に、ルドランは目を見張って、それから本当に嬉しそうにその赤い瞳を細めた。


「僕も大好きだよタリア──」





──────────





 メイドに警備の人間を呼びに行かせている間にルドランが、リュシーに使用済みの薬瓶を握らせた。彼曰く、自分こそが被害者だと言い逃れできないようにするためだそうだ。ちなみにこの薬瓶はリュシーの上着のポケットに入っていたものだ。


 そのうち、騒ぎを聞きつけた客が部屋の前に集まり始め、屋敷の警備を呼びに行ったはずのメイドは、何故か何人かの騎士を連れ戻ってきた。

 ルドランが今のタリアを誰にも見せたくないとこぼしたので、騎士たちが部屋になだれ込む直前に見物客に紛れて、こっそり二人は抜け出した。




 後日、ルドランに聞いた話だが、どうやら元々男爵邸にはパーティー当日の今日、騎士団の強制調査が入る予定だったらしい。

 男爵はいくつかの貴族と組んで、いくつもの犯罪を犯していた。その内の一つが身寄りのない人間の誘拐で、今回タリアが飲んだ薬はその際に使われていた物とのこと。彼らは慎重に誘拐対象を精査し、確実に身寄りのない者を選んで誘拐していたため、発覚がかなり遅れたそうだ。

 ルドランが何日も欠勤していたのも、この調査で隣国へ行っていたためだった。


 その甲斐あって、騎士団は男爵と繋がっていた隣国の奴隷商を捕まえた。そして奴隷商を締め上げて証拠を手に入れた騎士団は、男爵と繋がりのある貴族を一網打尽にする機会を狙っていた。


「それが、今回のパーティーという訳なのね」

「うん」


 それで、ルドランと顔見知りの客(要は潜入していた騎士団員)がやたらといたのか。タリアは納得した。

 そんなこととはつゆ知らず、友だちが多くて羨ましく思っていたなどとは、口が裂けても言えない。

 ルドランが会場で、自分が騎士だということを頑なに明かさなかったのも、そのためだった。身分を明かしてしまえば、勘の鋭い人間に気づかれてしまう恐れがある。


 今回のことを受けて、男爵家並びに与していた貴族の家は軒並み取り潰しになった。家族はバラバラになり、事件に関与していない女性や子どもは辺境にある修道院や孤児院などに送られることとなった。

 ルドランがジュリアの報復を「これっぽちも心配ない」と断言していたのは、ここに起因するのだろう。

 ちなみにルドランとデートで行った、下町の怪しげな道具屋もその誘拐に一役買っていたらしい。店の仕入れを隠れ蓑に、隣国からの薬の調達や誘拐した人間の保管や運搬などを請け負っていたとのこと。


「えっ……じゃあ、あれもデートじゃなくてもしかして調査の一環だったの?」

「まぁね」

 ルドランはバツが悪そうに頷いた。

「僕が店主と話している間に、裏口から忍び込んだ仲間が証拠を探し出してたんだ」

「もしかして他のお店も──?」

「いや、仕事だったのはあの店だけだから」

「えぇー……」

「本当だってば!」


 焦ったように言い訳をするルドランを見ながら、タリアはふふっと笑った。


(きっとあの日、近いうちに店がなくなること知ってたから、ペンダントを買ってくれたのね)


「そういえば、あの男の事だけど……」

「あ、待って!」

「?」

「リュシーのことならもういいの。興味がないわ」


 タリアがそう告げると、ルドランは「そうか」とだけ返した。


 タリアにとってそれは、あの時にもう全て終わったことだった。

 安堵するにしても後悔するにしても、この先を聞いてしまえば再び彼への想いに囚われてしまうだろうから。


 彼の物語はもう、タリアとは交わることはないだろう。


 でもどうか、彼が少しは幸せを感じられる物語でありますように。



 そしてタリアは、これから新しい物語おもいでを紡いでいくことになるのだろう。

 隣で微笑む赤い目の男を愛しそうに見つめて、タリアは囁いた。





「ねぇ、大好きよルドラン」

「僕も愛してる」






 ほら、こうして──。

 








(完)








 連載に最後までおつき合い下さった方々、本当にありがとうございました!

 ブクマや評価を入れてくださったのが本当に嬉しくて、ここまで書き進めることが出来ました。

 ブクマや評価を入れて頂いた方にも、何気なく目を通して下さった方にも、最大の感謝を!


 後書きは見ない主義の方もいると思うので、後ほど活動報告に投稿したいと思います。



 以下は蛇足のオマケです。


〈本編に入れるまでもない後日談とあれこれ〉



 実はタリアのおじいちゃんは、戦場でバカでかいモーニングスターを振り回し、鎧に身を固めた敵を吹っ飛ばしまくり、『大虎』と恐れられた伝説の騎士でした。この話の時点では亡くなっています。

 戦時中の話や護身術のあれこれなどを、人生何があるかわからないからと、「女の子にそんなことをさせるのはやめて!」という両親の反対を押し切って幼い頃のタリアに仕込んでいます。

 戦時中の功績により一代限りの騎士爵を賜る予定でしたが、本人が「要らん」と断ったためにおじいちゃんの身分もやはり平民です。


 後日、ルドランの家族に紹介された時に戦場の大虎の孫娘だということが露呈したタリアは、かつて騎士団長を務めていたルドランの父親に泣くほど歓迎されました。

 若い頃に戦場で助けてもらったことが何度もあるそうで、大虎がいなかったら自分は今ここに生きてはいないと発言をしました。その話を聞いていたルドランの母親や兄たちにも大変感謝されます。

 そうなると、二人の婚約はもちろんイージーモードです。ルドランは、父親に「大虎の孫娘を捕まえるなんてでかしたぞ!お前が生まれてから今までで一番嬉しいできごとだ!」と微妙な褒められ方をする羽目に。

 しかし抜け目のないルドランは、タリアの気が変わらないようにと、その日のうちにさっさか婚約届けを出しに役場へ行きましたとさ。



オマケおしまい。



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