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「汗のにおい……」

「汗のにおい……」

 首筋に顔をうずめていた奴が、鼻をすんすん鳴らして言った。

「そりゃそうだ、今は訓練中だからな」

 においを嗅いでいる音と首筋に当たる鼻息に、背中にぞわりと何かが走った。思わず片手で奴の頭を抱き寄せた。

 瞬間、奴の動きが止まった。ついでに息すら止めてしまったらしい。

「ちゃんと息しろよ?」

 更に強く頭を抱き寄せながら声をかければ、少しの間をあけて、何度か小さく頷いた。


 かわいい奴め。

「で、何の用だったんだ?」

 城の訓練場で訓練している俺を見つけるや否や、走り寄ってきて首に抱きつき、無遠慮ににおいを嗅いでいた。たまたま見つけたのか、何か用があってわざわざここまでやってきたのか。

「んーん、用はないの。移動中に見かけたら、いてもたってもいられなくなっちゃって、思わず、ね」

 俺の肩に手をついて伸ばそうとしているが、頭に巻きつけた俺の腕の力の方が当然強い。なんか小さく身動ぎしてるな、くらいの抵抗を見せながらも、奴は問いに答えた。


 思わず、か。それは何を意味しているのだろうか。恋心だろうか、家族に対するものに近い情だろうか。それとも何か別の。


 俺たちは幼なじみのようなもので、小さい頃から互いを知っている。どこかで偶然会えば話もするし、内緒ごとを共有することもある。

 だが、奴にとって俺はいったい何なんだろうか。


 騎士になって奴を守りたいと思って、がむしゃらに努力を続けて。

 奴を守りたいという願いは半分は叶ったが。

 それは主と部下のような関係を築き上げてしまっただけなのではないか。


「ふふ、汗のにおいって男の人って感じがする」

 奴にとっての俺は、兄のような存在だろうか。それとも、男だろうか。


 心が疼く。

 腕の中の小さな頭と柔らかな髪に、理性がちりちりと焼けていく。欲が理性を覆い隠し始める。


「もう、行かなきゃ」

 そう言われて、条件反射のよう腕を離す。

「どこに行くんだ?」

 そういえば、今日の奴はやけにめかし込んでいる。

「何とかって有力貴族の昼食に招かれているの。何とかって長男と一緒にどうですかってお誘いがあったらしくて、顔を出さないといけないの」

 少しふてくされるその様子に、昼食の本当の意味を悟る。

 奴の乗り気でない様子にホッとしながらも、いつか奴を誰かに奪われるかもしれないという絶望にも似た危機感が湧き上がった。


「そうか、気をつけて行ってこい」

 かろうじて、それだけを奴に告げると、早く行けと追い立てた。

 何か言いたそうに、何度かこちらを振り返りながら、侍女に連れられて行く様を、俺はじっと見つめていた。



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