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黒の幻想、白き刃  作者: 腐れ紳士
第一章 ~召喚篇~
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その9 指名手配

 ラムラドール。エルメンライヒ王国でも比較的外側にある都市。

 もちろん、この街を出たらすぐ国境、と言うわけではないが、これより先に村や小さな町はあれど都市はない。そういう位置にある都市だ。


 そのラムラドールに到着したのが、たった今。旅を続けておよそ一週間と言ったところか。あのゴブリンの襲撃以来、何事もなく終わったのは、まさに幸いだった。リチャードさんも、あれだけ平穏な旅は珍しい、とのこと。

 ……町から町へ旅するだけで魔物に襲撃するのがデフォルトか。どんだけ危険なんだ異世界。


「お疲れ様。それじゃあ、これ。今回の報酬。君たちの取り分だ」


 リチャードさんから、お金を受け取り別れる。内訳は大銀貨2枚、銀貨2枚、大銅貨2枚。

 ……折角なので、ここでちょっと貨幣の話をしておこう。ちょっと長いので面倒なら読み飛ばしてくれ。


 貨幣の最低単位は銅貨。日本円の換算をしようとおもったけど、あきらめた。物価のバランスが全然違う。生活必需品は安くて嗜好品は驚くほど高い。

 この銅貨10枚で、大銅貨と言う貨幣に換金できる。本当に大きい銅貨だ。手で持ってみたところ、本当に銅貨10枚分くらいの重さ。

 さらに銅貨が5枚になると、銀貨になる。銀貨は大きさは違うが、重さは銅貨と同じくらい。つまり、銅と銀は50対1で交換されると言うこと。銀貨10枚で、大銀貨になる。

 大銀貨2枚で金貨1枚になる。たった2枚で、と思われるが、そもそも金貨になるとほとんど流通しないわけだ。まあ、大銀貨1枚で銅貨500枚分だしな。で、この金貨10枚で大金貨となる。

 実は、この上となる硬貨がある。その名もオリハルコン貨。

 俺の世界ではゲームくらいでしか聞かない名だが、この世界には実在するらしい。もちろん伝説の金属だ。

 このオリハルコン貨。なんと大金貨20枚分の価値がある。銅貨に換算すると、なんと20万枚。もうビロードを敷き詰めたケースに入れて恭しく持ち運ぶレベルだ。

 ちなみにこのオリハルコン貨。エリーも見たことないそうな。


 で、今回の報酬は2人で銅貨にして1120枚。大体月の生活費が宿屋暮らしで銅貨600枚ほどらしい。つまり、俺とエリーで1月暮らせない程度、と言うことだ。

 これは余談だが、農民たちの月の生活費は銅貨60枚。家があるから宿代がかからないし、食費も自作だからほとんど浮く。足りない材料をちょっと買う程度、らしい。いやすごい差だ。



 で。

 宿を取ろうと大通りに入ったとき、それに気づいた。

 お尋ね者の張り紙だ。いわゆる冒険者や賞金稼ぎに向けて張られるものだが、情報だけでも褒賞の対象になりうるので、一般市民もたまに目をやる。

 が、俺がそれ(・・)に気づいたのは別に褒賞がほしかったわけではない。


 手配書の一番上に、でかでかと俺の名前がかいてあったからだ。


 身長187センチ、黒髪黒目。特徴としても間違いなく俺だ。幸運にも、似顔絵はあんまり似ていない。おそらくは城のお付き似顔絵描きとかではなく、そちらから来た情報を基に、この町の人間が描いたのだろう。あまり似てはいないが、いくつかの特徴は、確かに捉えている。

 罪状は、「誘拐事件最有力容疑者」。ただし生きて捉えること、となっているのが不思議だ。普通こういうのってデッド・オア・アライブじゃね?


「……って言うか、俺が一体誰を誘拐したんだっての……」

「……あ、わ、私のことかもしれません」


 独り言を聞き、申し訳なさそうにつぶやくエリー。マテコラ。


「なぜ?」

「そ、その……。怒らないでくださいね? 私、城に置手紙かいてくるの、忘れちゃいました」


 はっはっは。なぁ~るほど。そりゃあお姫様が手紙の一つもなく失踪したら誘拐くらい疑うよなあ。同じタイミングでいなくなった男なんて妖しい怪しい。……って。


「ふっっっっっざけんなああああああああああああああああああ!!!!!!!

 おま! そのせいでこれからどーしてくれるんだこら! 俺完全にお尋ね者じゃねえか!」

「ごごごごごごごごっごめんなさ~い!」

「いいや、許さん! 今回ばかりはおしおきじゃあああ!」


 ……はっ。周りが騒ぎを聞いてこっち見てる。

 ヤバイ。このままじゃあ俺とこの張り紙のことがバレル。


「っと、ここはまずい。一度逃げるぞ」

「え? き、きゃあ!?」


 エリーの手を掴み、走り出す俺。


 ……ど~すんだ、これ。




 ◆ ◇ ◆




 結局、取った宿は大通りに面した立派な宿ではなく、裏路地にある寂れた宿となった。

 ここはほとんどスラムの入り口で、いわゆる「スネに傷のある方々」が利用する宿だ。店主は店に害のある行動を取らない限り、彼らの素性については触れないし、誰にも言わない。

 だが、お役人が確証を持ってくれば逆らわないし、宿代も高い。完全にボッタクリだ。普通の宿が素泊まりで1泊銅貨15枚程度のところ50枚取る。そして部屋はお世辞にも上等とはいえない。馬小屋よりはマシ、と言う程度だ。


 俺らが持っているお金は、銅貨で換算すれば5000枚を超える。いや、エリーの装飾品売っぱらったからなんだが。だが、食事も全うな店でするのは難しい以上、どう考えても裏商売用のボッタクリ店になる。

 さすがに困る。それだと一月くらいしか生活できない。

 もちろん稼げばいいのだが、何時入り用になるかわからないし、ここに永住するわけではない。旅費だって必要だ。


 と、言うわけで、部屋を一つだけとって相部屋で節約することにした。無論二人部屋だと二人分取られるので一人部屋。ベッドも一つしかない。

 エリーはお姫様だし、男と相部屋なんて嫌だろうと思ったのだが、不思議なことに言い出したのはエリーだった。


「なあ、本当によかったのか? (おとこ)なんかと相部屋で。普通嫌がるもんだろう」

「それはまあ。でも仕方ないじゃないですか。お金たくさん持ってるわけじゃないんですし。それに、ケイだから相部屋でも言い、って思ったんです」

「……へ?」


 ……あの、それって一体どういう……?


「ケイって、死んだ兄様みたいなんですよね。それに優しいですし。安心です」


 ……そうですか。まあ、いいけど。




 ◆ ◇ ◆




 取りあえず、エリーとは二手に分かれ、町に向かった。

 エリーは表街道に行き、衛兵の様子や地図の購入などをしに。間違ってもフードは取らないよう、声もできるだけ小声にするように言い含めておいた。

 一方俺は、スラムへ向かう。いわゆる“裏の情報”を求めてだ。兵士に捕まらずに国外へ出るにはどうすればいいか。裏社会の情報なら、そういうものも手に入るはずだ。

 何せ指名手配だものなあ。まあ、そうでなくても、王城に召喚術の返還に関する情報がなかった時点でこの国にはそれがないと見ていい。この国は魔術に関しては遅れてるらしく、魔術師ギルドもないしな。なので、外国の魔術師ギルドとか高名な賢者を訪ね歩くしかないのだ。

 ついでに、変装に使えそうなものがあったら欲しいところだ。髪の色を買える染め粉とか。



「この国の外へ、かい。そうだな。簡単な方法はさすがにないが、主街道をまっすぐ進むのはやめておきな。関所で捕まえてくれと言うようなものだ」


 数刻後、ようやく見つけた情報屋で俺は話を聞いていた。


「関所は裏街道か、いっそ山や森を抜けたほうが確実だろうな。アンタだろ? 誘拐犯として莫大な賞金欠けられてるのは」

「げ」


 ばれて~ら。


「ああ、安心しろ。俺からわざわざお役人に密告チクったりはしねえよ。まあ、賞金稼ぎたちがうちに聞きに来たら、その保証はないがね」


 ああ、なんか本で読んだことあったな。こんなこと。


「その情報、“買占め”たいんだが、いくらだ?」

「はっ、わかってるじゃねえか、兄ちゃん。……そうだな。大銀貨2枚。格安だろ?」


 めちゃくちゃいてえ! だが、背に腹は変えられないので、素直に払う。


「いやー、払いのいい相手で助かるわ。よし、これであんたの話は“品切れ”だ。

 んで、話の続きだが、あんたらを追って3つの国境付近にそれぞれ兵が駐屯してる。下手に裏街道行くよりは森の中を突っ切るのがいいかもな。

 (もっと)も、森は魔物の巣窟だ。それを潜り抜けられるのなら、だけどな。無理ならあきらめな、他に手はねえ」

「……すまない、助かった」


 むすっとしながら背を向ける。聞くべきことは聞いた。


「ああ、そうだ。折角の上客だ。一つサービスしてやるよ。変装するなら、ここを出て右手4件目の店で染め粉を買いな。あそこの染め粉は質がいいぜ」




 ◆ ◇ ◆




「うあー。しかしぼったくられたなー。まったく、情報が必要だからってあれは足元見すぎだろう」

『まったくじゃな。しかしまあ、ある程度の目処が立ったのだからよかったのではないか? 後はどこの国に向かうか、位じゃろ?』

「まあな。俺はその辺の地理は不案内だし。エリーが買ってくる地図に期待、だな」


 裏路地を歩きながら、リアと会話する。しかし、俺は2人だが、エリーは一人。正直不安だ。


『まったく。それだから、あの娘も(あるじ)を信頼するのだろうな。同じ部屋でもいいと思うくらいに』

「そんなもんかね……っと」


 とすん、と軽い音がして、子供が一人ぶつかってきた。

 13,4歳だろうか? なかなかに可愛らしい顔をした、多分男。赤毛の髪もショートだし、ぱっと見平らだし。


「あ、ご、ごめんなさい」


 急いでたのだろう。少年はそのまま謝罪を一言して去っていってしまった。まあ、謝ったしいいか。

 それにしても。


「……しかし、さすが異世界。エルフっているんだな」


 そう、ぶつかってきた少年は、横に長く伸びる……そう、ロバのような、と言うべきか、そんな耳を持っていた。


『ああ、主の故郷にはエルフはおらなんだか。じゃが、赤毛と言うことは、おそらくはハーフじゃな。純粋なエルフなら金か銀の髪を持つ』

「なるほどなあ」

『ハーフエルフは、被差別種族じゃ。主の主観でどう思うかはさておき、世間ではそうなのだ、と言うことは認識しておいたほうがよかろう』

「ん。サンキュ。んじゃあ、お礼にどっかの店で甘味でも食うか?」

『ひゃっほう♪ あの娘には内緒じゃな』

「だな。えーと、いくら残ってたっけな……あれ?」


 懐に入れておいた財布がない。これは……あれだ。多分、間違いがない。物語でよくあるパターンだ。

 つまり、俺はさっきのハーフエルフの少年に、財布をすられたらしい。


 ユニークアクセス2000オーバー! ありがとうございます!

 以下、いつもの。


●種族:ハーフエルフ

 エルフと人間の間に生まれる名前どおりの種族。平均寿命はおよそ200年。記録上は400年生きた個体もいるという。

 人間でもなく、エルフでもない。そんな存在であるがゆえに、双方の社会から弾かれている。

 種族的な能力としては、人間よりすばやく、エルフより賢くはなく、人間より非力で、エルフより魔法の才はない。夜目は比較的利くほう。

 体格は華奢で、背も人間より多少低め。耳はエルフと同じだが、肌や髪の色は人間のものを受け継ぐことが多い。

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