その8 初めての戦闘
そして午後。リチャードさんに連れられて、護衛する隊商の所へと向かった。
「始めまして。冒険者のケイです。こちらはエリー」
「はじめまして。ラングフォード商会会長のジャレッド・レテーナ・アーサー・ラングフォードです。
まあ、商会会長、なんていっても、見てのとおり馬車3台と従業人5人が全ての弱小商会だけどね」
「ぬおおおおお!? リチャード! あのちっこいフード、女か!? 女だよな!? だって名前エリーだものな!?」
「美人ですか!? 美人ですよねリーダー!? 美人じゃなかったら僕リーダーに最上級攻撃魔法撃ちますよ!?」
「はあ……このむさくるしい冒険者家業をはじめて早10年……ようやく癒しに出会えそうです」
「……君たち、騒ぎすぎ」
……後半の台詞はリチャードさんのパーティのメンバーで、台詞の順に盗賊のスティーヴ、魔術師のホレス、神官戦士のデニスと言う。全員二十代後半から三十代前半と言うところで、戦士であるリチャードさんをリーダーとする4人のパーティだ。
ここではじめて知ったのだが、女冒険者、と言うのは街で一人いるかどうか、と言うほど希少な存在らしい。
まあ、種の繁栄と言う点から考えれば、長期間おなかの中で子供を育まないといけない女性は戦場に出るには向いているとは言いがたい、と言うことなのだろう。体力勝負でもあるしな。
もちろん、だからといって女性が戦いの場に赴くことを禁じる法はない。ないのだが、まあ、珍しい存在だ、と言うことだ。
……まあ、ぶっちゃけどうでもいいです。後エリーにナンパするな!
「「「うわこの新人ひでえ!?」」」
ひどくないから。保護者(自称。仕方ないじゃないか。このちびっ子は世間知らずのお姫様なんだから)として下手な馬の骨に穢させるわけにはいかないのです。
◆ ◇ ◆
そんなこんなで王都を出た。
どうやら、街の出入り口には関所があり、通行税が取られるらしい。一応身元証明みたいなものもあるのだが、元来一等市民でもないと戸籍なんてない世界である。帳簿に名前(偽名だって可能)を書いて、指名手配されてる顔でなければオールオッケー、って感じだ。
エリーの顔も見られたが、担当の人はエリーの顔を知らなかったらしい。よかった。
……後日、王城から来た指名手配が、俺らの出立の1時間後に来たと知り、己が幸運をかみ締めるのであった。
で、冒険に出て早3日。今のところはこれといって何もなく安全な旅である。
まあ、エリーが体力尽きて倒れたり地味に一番体力のあった俺が背負ったりして疲れたけど。ただ、リチャードさんから
「冒険者は体力が資本。今回は初めてだから大目に見るけど、この冒険が終わった後この程度で倒れる体力はどうにかしないと冒険者はやっていけないよ」
といわれ、エリーは凹んでた。まあ、こればかりは仕方がない。がんばれ。ジョギングするんだ。おにーさんも付き合ってあげるから。
まあ、そんなわけで、今まではこれといって何事もなく、安全な旅“だった”。
いきなり過去形になった理由。それは――
「ゴブリンだ! ゴブリンが出たぞ! 数は……ちっ、20、それも三方から囲まれてるぞ!」
「応戦しろ! 馬車には1匹たりとも触れさせるなよ!」
と、いうわけだった。
結論から言おう。さすがベテラン冒険者。とても強かった。
リチャードさん、スティーヴさん、デニスさん。この三人は、それぞれが前衛としての訓練を積んでいる。このため、三方からの襲撃をそれぞれ単身で食い止めているのだ。
リチャードさんの武器は長槍。2mはあるであろうそれを軽快に振り回し、1匹、1匹と、確実にその心臓を貫いていく。その正確さは機械の如し。
スティーヴさんは短剣の二刀流。迫り来るゴブリンの攻撃を受け止めずに軽快な足裁きで回避し、カウンターで頚動脈を切り裂いていく。
デニスさんは盾とメイスを構え、ゴブリンの攻撃を受け止め、反撃でメイスを振り回す。このメイスが淡く輝いているのは、神官が使える神聖魔術の力だそうな。そして、その合間に魔術を唱えリチャードさんやスティーヴの支援をする。
ホレスさんは火属性の魔術師らしく、火球を作り出し放つ。これが敵に触れると爆発するのだ。まさに爆裂火球。
こんな四人が絶妙なコンビネーションで戦ってるので、こっちに関してはまったく問題がない。問題なのはもちろん俺たちだった。
俺は一応デニスさんのそばで取りこぼしのゴブリンと戦っている。デニスさんは神官戦士なので、戦士としての訓練は他の二人に比べれると錬度が低い。さらに支援魔術をするのにどうしても隙ができる。これを補っているわけだ。ちなみに、エリーはホレスさんの隣でおびえている。まあ、喧嘩すらしたことないだろうし、仕方がないのだが。
だが。
振り下ろされたゴブリンの錆びた剣を騎士剣で受け止める。そして反撃とばかりに騎士剣を横薙ぎにするが、これはバックステップでかわされる。
……地味に、ゴブリンが強いのだ。
もちろん、1対1で戦う限り、いつかは勝てる。それはわかる。だが、一撃必殺とかはいえない。
それでも、ついに耐え切れなくなったのか、俺の剣がゴブリンの頭に、
ゴシャ。
嫌な、音と、感触が、した。
一撃で倒れ動かなくなるゴブリン。手には、たった今奪った命の感触が。
眩暈がした。吐き気もする。
当たり前だ。ちょっと前まで普通の平和な世界を生きる高校生だったのだ。自分の手で殺したことがある生き物なんてそれこそ虫くらい。
それが、何をしているのか。ゴブリン? 魔物? だが、命だ。尊いひとつの命に変わりはない。
だが、殺さなければ殺されていた。だから殺してもいい? 正当防衛は、罪ではないと? 罪ならばただ殺されろと言うのだろうか? わからない。頭の中で奪った命の感触がグルグルグルグルぐるぐる……
「ケイ、危ない!」
エリーの声が聞こえた。途端、飛んでくる謎のビーム。直撃するゴブリン。……あれ?
気がつけば、吐き気は消えていた。落ち着けば状況は理解できる。初めて命を奪ったことに混乱し、錯乱した俺を殺そうと近づいてきたゴブリン。
これを倒すためにエリーが攻撃魔法を放ったのだろう。……でもさあ。
幅3mはあろう直線状のクレーターができるビームって何よ? この世界の魔法ってすごいなあ。
「……いや、彼女の魔法は明らかに規格外だと思いますよ。僕もあんな精霊魔術は聞いたことないですし。黒魔術か何かなのかな?」
なんかホレスさんまでなんか言ってた。ナニモンだ、エリー。
◆ ◇ ◆
戦闘は終わった。ゴブリンは殲滅し、一部は逃げ出した。結局、俺の戦果はゴブリン1匹だけだ。
……まだその手に残った感触は思い出せる。あの生々しさ。例え、生きるためであったとしても、それは罪であったと教えてくれる。
多分、この世界にいる限り、俺は、また命を奪うのだろう。考えてみれば、人は誰だって生きるために、何も知らないどこかの命を奪っている。食料だったりもするし、自分が成功した陰で失われた命があったかもしれない。だから、当然のことなのだ。だから、俺はこの先敵を殺すことに躊躇をしない。
でも。
この日のことを覚えておこう。例えそれが偽善だとしても。この先奪う全ての命のことを、忘れないようにしよう。
そう、目の前の惨状に、誓った。
お久し振りです。戦闘描写とか苦手です。
PV1万オーバーとかユニークアクセス1500オーバーとか、ありがとうございます! またのんびりとがんばります。
カテゴリ:槍
長い棒に尖った刃物をつけた極めて古くからある武器。
剣などと比べると、振り回しての遠心力を利用した攻撃は少なく、威力に乏しいが、急所に刺されば十分な殺傷力を発揮する。
さらに間合いが長いので、敵の攻撃が届く前にしとめることが容易。特に長槍と呼ばれる武器にいたっては、両手剣の間合いでも届かない。
欠点としては、急所を持たないゴーレムなどの魔物や金属鎧などの固い守り直接貫かないといけない相手には効果が薄い。所詮は点に対する攻撃だから。




