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アルド商会の危機

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 マリガンダンジョンに入った翌日。

 少し遅めの朝食を取っていると、玄関の呼び鈴が鳴った。


「はい。どちら様ですか?」

「アルド商会の者です」

「どうしたんですか?」

「アネさんが至急にと…」


 慌てた様子の少年がそこにはいた。

 どうやら急ぎの用らしいが…。


「朝食を済ませてからでいいかな?」

「では、そのように伝えておきます」


 少年はそう言うと脱兎のごとく戻っていった。


「しょうがない。急いで食べちゃうか…」

(せわ)しないのう」

「みんなはゆっくりしてて良いよ。要件は俺が聞いてくるから」

「いえ、私は(あるじ)と一緒に行きます」

「ぞろぞろ行っても邪魔になるし、ルークとアンリエッタで行ってきな。人出がいるなら呼んでくれれば良いんだしね」

「じゃあ、そうするよ」


 朝食を済ませ、俺はアンリエッタとアルド商会に向かった。


「呼び出して悪かったな…。急用でな」

「急ぎなのは理解してます。それで?俺たちでなければならないことなのでしょう?」

「実は、王国からの荷馬車が帰って来ない…」

「それって…不味い状況ですよね?」

「正直…無駄働きになるかもしれん…」

「やれるだけやってみますよ。アンリエッタ、みんなを呼んできてくれ。アルドリアは荷馬車の通る道の詳細を…」


 平静を保ちながら指示を出す。

 こういう時は慌てたら負けだ。たとえ、絶望的な状況であろうとも可能性を捨てずに行動することが重要なのだ。


 アルドリアから地図を見せてもらいルートを確認する。

 王国からこのブレアドの町までは1ヶ月はかかる長旅だ。

 途中、幾つかの町や村は点在するが、基本は野営で旅をする。

 そこは商魂逞しく宿場などでは金は落とさないように工夫しているのだ。

 だが、逆に言えば盗賊などには狙われやすい。

 だから、商人と言えども腕っぷしは強い屈強な野郎どもばかりなのだが…。

 その分、頭は弱かったりするのだ。


「荷物の他に『誰か』いたんじゃないか?」

「王国の商人の番頭がついてきているが…どうしてだ?」

「それだな。初めから荷馬車を狙ってたわけだな…」

「馬鹿な。王国直々に買取を頼んできたんだぞ?こちらから断れる話じゃないんだ」

「だからさ、王国絡みじゃなく商人側の勝手な行動だとしたら?」


 商人の世界では何より『信頼』が物を言う。

 『信頼の置けない商人』には仕事が回ってくることはないのだ。


「ライバル潰し…と言うわけか?」

「だろうね」


 伊達に40年地球で生きていたわけではない。

 人の醜さや取るに足らないプライドにしがみつく者、威張るだけの上司…など人の裏側は嫌と言うほど見てきた。

 人を騙すことに優越感を感じる者や、人を傷つけて笑う者、権力さえあれば何をしても許されると思う者など悪質な者まで…。

 だからこそ分かる。いるのだ。他人を不幸にしても自分の富を選ぶ者の存在を…。


「今日…帰ってくる予定だったのか?」

「いや…3日前だ」

「なるほど…2日は許容範囲だったと言うことか…連絡が取れなくなったのは?」

「2週間前の定期連絡後は1度も無い…」


 2週間前と言うことを念頭に置き地図に目を通す。

 グレディアの町とローグの町の中間には『死霊の森』がある。

 通常なら通るはずのない脇道に入らないと森に入ることはない。

 だからこそ、俺の野生の勘が『怪しい』と告げていた。


「とりあえず、現地に行ってみないことには何とも言えないか…」


 俺の予想通りだったとしても、確認を取るのと取らないとでは事情は変わってくる。

 仲間の到着を待って、俺はグレディアの町に行くことを決めた。


(あるじ)よ。皆を連れてきました…」

「一応来たけど…話を聞いた限りじゃもう…死んでるね」

「そうやろうなあ…」

「だとしても放っては置けないよ」

「なら、『召喚術士』に戻すんだね?」

「それしかないだろうね…」


 正直、『召喚術士の真の能力』を使うことを俺は良しとしなかった。

 それは、あまりに『チート過ぎる能力』だったからだ。

 この世界で、伝説級の職業を得ても、『召喚術士の真の能力』には敵わないからだ。


「まずは、現場に行こう…」


 俺は、職業を『召喚術士』にして『移動の魔法陣』で『グレディアの町』へと転移した。


「じゃあ、手っ取り早く飛んでいくか…」


 『飛行呪文』で一気に上空を飛んでいく。


「…ひ、人が飛んでる!?」

「なーに言ってるだぁ。そんなわけあるわけねーべ」

「んにゃ、オレっちも見ただ。数人の人が飛んでただ」

「ボイルまで…あんま人を騙すんでねーぞ」

「本当に見たんだがなぁ…」


 この日、多くの人が飛ぶ人影を目撃することになる。

 だが、その数時間後、『別のこと』で大騒ぎが起きてそれどころでなくなるのだが、それはもう少し後で分かることとなる。


「…どうやら、思った通りの展開らしいね…」

「ですが…どうなさるおつもりですか?」

「う~ん…『時空魔法』を使うにしても正しい時間が分からないとどうにもならないしなぁ…」

「しょうがないわね。ワタシが占ってあげるわ」


 そう言うと、イザベラは懐から水晶球を取り出した。

 何かブツブツと唱えると水晶球が輝きだす。


「…ルークの思った通り10日前の昼頃に死霊の森に入っていくのが見えるわ」

「賊の人数は?」

「50…と言ったところかしら?」

「…となると、少なくとも倍はいると見たほうが良いね」

「どういうことやね?」

「死霊の森にも待機させているってことさ。こういう相手は、2手3手先の手を打っておくものだからね」


 地球ではこういった犯罪とは無縁だった。

 しかし、『人の行動』…特に権力に固執する者の存在は見てきた。

 他人を蹴落とし、私腹を得るためなら人を不幸にすることもいとわない様な輩の存在など社会人になれば誰でもその目にする。

 かく言う俺のいた会社にも漏れなくそういう人種の人間を何人も見てきた。


「だいたい商売敵の一行についてくること自体が怪し過ぎる行動だからね」

「ですが…敵情視察ということは?」

「その場合は、番頭だけでなく何人かの仲間を連れていくのが普通だろうね。1人で視察って効率悪いし…」


 商人は言ってみれば、話術や算術に長けた者がなる職業と言えよう。

 さらに言えば、野心家でもある。

 それゆえ、その野心が捻じ曲がり不正に走ってしまう者も多いのだ。

 特に、大商人ともなるといらぬプライドまで生まれるため、自分の家名を守るために不正に手を染めてしまうのだ。

 そして、不正を行う場合はたいていは自分たちとは繋がりの薄い冒険者クズレなどを雇う場合がほとんどなのだ。


(あるじ)よ…今回はどのような作戦で行きますか?」

「時空転移で、10日前に戻って討伐するしかないけど…イザベラ、何人まで転移できる?」

「ルークを含めて3人が限度だね。滞在時間も12時間がギリギリだよ」

「そうなると、職業を基に戻して総力戦で挑むしかないね…。アンリエッタ、シーラ…お願いできるかな?」

「「了解です(なのじゃ)}」


 100人規模の相手に3人で挑むと言うのは、普通ではありえないことだろう。

 実力的に上でも数の暴力と言うのは如何ともしがたいわけで…。

 その上、相手は人質を取っているような状況…圧倒的に不利であった。


「勝負は転移した一瞬で決まる。転移した瞬間に俺が『拘束陣(リステクションケープ)』の魔法を使う。そしたら、アンリエッタとシーラで一気に討伐する。ただし、番頭は生かしておいてほしい」

「お任せください」

「うちの本気見せてやろう…」


 俺は、アンリエッタとシーラの職業を、元の『聖騎士』と『覇王』に戻す。

 もちろん、自分の職業もメインは『召喚術士』にしてある。


「用意は万全だね。じゃあ…イザベラ、頼むよ」

「じゃあ、時空転移を発動するよ…」


 俺とアンリエッタ、シーラを包み込むように魔法陣が生まれる。

 過去の出来事を変え、新たな未来を掴むことはできるのか?

 エリリンとレムが見守る中、イザベラの魔法が発動する。

 俺たちは時空転移で10日前に遡った。

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