アルド商会を救え!⑥決着
よければ、ブックマークと評価をお願いします。
応援、よろしくお願いします。
精進して執筆します。
ルークは、シャドウを睨みつけ謁見の間に入る。
そんなルークを国王たちは待っていたとばかりに笑みを浮かべるのだった。
「シャドウ…とは誰のことですかな?私はダグスマン侯爵だが?」
「そうか?俺の目にはすべて見えてるが?」
「…お前、鑑定を…」
「そう言うことだ。もう正体はバレている」
「…フ。ハハハハハッ!もう少しで、この国を崩壊できたものを…」
「余裕ぶってるところ悪いが、捕まえさせてもらうぜ」
「出来るのか?私を捕まえると言うことは、ダグスマン侯爵も捕まえると言うことだぞ?」
「く…何と卑怯な」
「どういうことだ?奴はダグスマン侯爵ではないのか?」
「奴のはシャドウ…ダグスマン侯爵の中にいるもう1つの人格です。ですが、ダグスマン侯爵はそのことを知りません」
「なるほど…だから先ほどまで顔色1つ変えなかったわけか」
「アルベルト侯爵は知っておったのか?」
「ああ…だが、どう変化するかまでは知らなかったので様子を窺っていたのだ」
余裕のシャドウ。
しかし、ルークは気にも留めず懐から『人型のぬいぐるみ』を取り出した。
「…『魂体分離』!」
ダグスマン侯爵の身体から魂が抜ける。
赤と青の霊魂が浮遊する。
ルークは鑑定を使うと、赤の魂がダグスマン侯爵であることを確認した。
「…『霊魂捕縛』!」
青い霊魂を光る紐が絡め捕る。
そして、その青の霊魂をぬいぐるみの中に押し込んだ。
赤の霊魂は、そのままダグスマン侯爵の身体の中に戻っていく。
「シャドウ、捕縛完了…」
ニッと笑みをこぼすルーク。
わずか2手で、ダグスマン侯爵の身体の中にいたもう1つの人格…シャドウを取り出すのに成功したのだった。
「…う。いったい何が?」
「大丈夫か?ダグスマン侯爵」
「う…む。いきなり意識が遠のいたのだが…何が起きたのか?」
「やはり、何も覚えておらぬか…」
「ルーク殿。説明いただけるか?」
崩れるように倒れるダグスマン侯爵の身体をアルベルト侯爵が支える。
それを見ていた宰相がルークに説明を求めた。
「ダグスマン侯爵の身体の中にいたもう一つの人格のみをこのぬいぐるみに封じたのです。そしてそのことで、『コレ』がもう一つの人格ではないことが分かりました」
「どういうことですかな?二重人格ではなかったと?」
「はい。その説明は『コレ』に聞いてみましょう」
そう言うとルークはぬいぐるみを小突いたのだった。
『…ふん。『そこまで』分かるとは、たいしたものだな…』
「ぬいぐるみが喋った…」
「シャドウがそのぬいぐるみに入っていると言うことであろう」
「しかし…それでぬいぐるみが喋れるのか?」
「それこそが、シャドウが二重人格ではないと言う理由の1つなのです」
「鑑定を使う前から知っておったのではないか?主よ…」
「知っていたわけじゃないよ。予想はしていたけどね」
「主には驚かされるばかりですね」
「じゃが、どうしてそう思うたのじゃ?」
「不自然だったからだよ…」
ルークの言葉にその場にいる全員が疑問を感じた。
鑑定を使いその結果が『二重人格』と言うことだったのにも関わらず、どうしてルークはそれが『間違い』だと感じたのか?
そもそも『鑑定』が間違えると言うことがありえるのかさえ疑問だったのだ。
「アンリエッタが鑑定したとき表と裏があるって聞いて不自然に感じたんだ。普通の二重人格は元々の人格に負荷がかかることで形成されると言うか反映されていくものなんだ。つまり、普通が良い人だからってもう一つの人格が悪になるってことはまずありえない。だとしたら…誰かが元々あったもう一つの人格に『悪の種』を植え付けたってことさ」
『ご名答!さすが、この俺を捕まえたことだけはある』
「いったい何者なのだ、お主は?」
『マスターに作られたただの『シャドウ』…『影』さ。そして『影』は、光にさらされたら消えゆくのみ…』
「―――なっ!?」
シャドウが言葉を終えた瞬間、ぬいぐるみが燃えた。
まさかの自滅行為に出たのだ。
『オレは消えるが、マスターの目的が潰えることはない。怯えるがいい』
「お前のマスターの名は?」
『それを答えるようにはできてないのでね。だが、ヒントだけは与えてやる。ここにいるほとんどの者が会っている…では、サラバだ』
ぬいぐるみが炎に包まれ焼かれていく。
シャドウが残した言葉が沈黙を生んでいた。
「どういうことだ?我々はヤツの言う『マスター』と言う者に会っている?」
「シャドウの戯言では?」
「いや、それは無いでしょう…。多分、ここにいる『俺たち』以外は全員が会っている人物です」
「ルーク殿たち以外…ですか?」
「そうです。その人物はこの王国に深い憎しみを抱いています。それは『シャドウ』と言う人格を作り上げたことからも分かります。あの陰湿なやり口。それでいて狡猾な知略を持ち合わせていました。これは、マスターと言う者が持ち合わせた性格だと思われます」
「陰湿で…」
「狡猾な知略…」
「おい。それって『アイツ』じゃねぇか?」
「…むぅ。『魔導士・ドゥヴゲン』か…。ヤツならば確かに我々に恨みを持ってもおかしくあるまい」
「…『魔導士・ドゥヴゲン』?一体何者ですか?」
「魔導士と名乗るだけの実力は持ち合わせておりましたが…考えが偏っておりましてな…」
「この国の専属魔導士として働いてやるから研究機関を作らせろ…とな」
「研究機関?」
「人体実験…のな」
「あー…そういうヤツですか。いるんですよねそういうイカレたヤツ…」
「ここにいた全員が罵倒を浴びせたのを思い出す」
「つまり、逆恨みってヤツですね」
今から3年ほど前になると言う。
その『魔導士』を名乗る男『ドゥヴゲン』は王に謁見をした際、王国専属の魔導士となってやるから研究のための場所と資金提供を申し出たと言う。
しかし、その研究内容を聞くと人体実験を伴う人体強化法の研究だと言う。しかも、奴隷を大量に使って実験をさせろ…と。
そんな実験を容認できるわけもなく、ドゥヴゲンの言葉が『人』をただの『物』のような扱いであることから危険人物と判断。侯爵たちはその非人道的考えに非難の言葉を浴びせた後、国から追い出したのだと言うことだった。
「しかし、ヤツはいつダグスマン侯爵にシャドウを植え付けたのか?」
「多分、ここから追い出される時にでしょうね。そういうヤツは人の弱みを見つける嗅覚を持っているものですから…」
「しかし…すべてを没収して放り出したのに…」
「いえ…。多分、そういうヤツは別の場所にも残していると思いますよ実験結果の詳細は」
そして、そういうヤツは『シャドウ』以外にも『手札』を用意しているだろう。
「始まったばかりのようですね。これから本格的に動くと思いますよ…奴の手下がね」
「何ということだ…」
「こうなれば、魔導士・ドゥヴゲンの居場所を探りましょう」
「同時進行で、ヤツの手下の行動への対策も立てねば…」
「しかし、そうなると今回の件をどう処分するかですね?」
「結果的には王家への反逆行為となったわけだからな。まったく処罰しないと言うわけにもいくまい」
「しかし、利用されたにすぎませんからね。数も数ですし、貴族も多く絡んでいます。これを全て今まで通りの処罰法に処すれば国の運営にも響きます」
「先ほども言いましたが、この手のヤツは人の弱みに入り込み掌握することに長けています。となると、本人も気づかないうちに操られていた可能性が高いです」
「つまり、本人が自覚していないところで悪意を植え付けられた?」
「その可能性が高いでしょう。シャドウのことをほとんど分からなかったのも『そう言う風に記憶操作』していたと考えれば辻褄は合います」
「だが、それでも罪は罪だ。何らかの処罰を課さなければ国民は納得せんし、国を信頼できなくなるであろう。しかし、今まで通りの処罰では罪が重くなりすぎる。宰相…」
「畏まりました。すぐに新たな刑法の法案を纏めましょう」
「頼む…」
一応、ルークが依頼を受けた件は決着がついた。
しかし、本格的な『王国滅亡計画』は始まったばかりである。
問題は山積みだが…今は、1つの事件決着に安堵するのだった。




