宮闈、奸を肃む(下)
中軍大帳の帘幕が私の背後で落ちた。夜風が一刺し、私はふと寒噤を打った――先ほどの帳中でのあの軽やかな一言が、この時になってようやく脳裏に扎し込んできた。
『弘正吾児、馬謖を覚えておるか。惜しいことをした』
私は足を一頓した。馬謖――街亭の一着の失算、満盤皆輸、義父が涙を揮って軍前に斬った。これは千年後の史冊にも明々白々と記された一筆だ。義父は先ほど私を子と認め、振り返ってすぐに馬謖を持ち出した。その語気は軽く、旧部を感懐するかのようだった。だがこの一言は、私の耳に落ちると、別の冷たさを顕した。彼が私を子としたのは、真心だ。だがこの「子」は、私に大用ありと見てのことだ。子午谷のあの千里の死路、魏延が主将を請い、私が軍師を務める。義父はこの命を懸ける差事を我らに点じた――成し遂げれば、诸葛弘正の功。成し遂げられねば、馬謖が先例だ。
背筋に一陣の涼意が伝い上った。私はふと悟った。「父親」の二字は、決して免死金牌ではない。それは一本の糸で、一端は信任に繋がり、一端は成敗に繋がる――成せば父子同心、敗せば……あの一声の「惜しいことをした」が、私のために用意された席なのだ。もしこの子午谷の突襲が功を一簣に虧けば、首を落とすのは、必ずしも魏延一人ではない――この名ばかりの軍師、義父の義子である私も、同じく逃れられぬ。
私は深く冷気を吸い込み、その寒さを胸の奥へ押し戻した。
私も微かに笑い、あのアルミ殻の薬箱を肩に挿んだ。この潼関の一程、私は自ら行く。
一道道の軍令が、明晰に落ち、流水行雲の如く、少しも乱れない。
これは試探的な出撃ではなく、局部の纏闘でもない。
蜀漢全国の力を傾け、その功を一役に畢る――
総攻である。
諸将は精神大いに振るい、斉しく拳を抱き、声は大帳を震わした。
「臣、遵命! 謹んで丞相、軍師の将令を遵奉いたします!」
大帳の内、戦意天を冲く。
数ヶ月来の隠忍、僵持、危難、内憂は、この一刻にことごとく決死の一戦の鋭気と化した。
――
同時に、渭水北岸、魏軍大営。
私は司馬懿がこの刻、何を考えているかを、余りに良く知っていた。
彼は密使が截られ、心血両虧して臥床したが、なお強いて郭淮に三道の軍令を連ねて下し、字字篤定であった。
「隴右の諸隘、険に憑って死守し、堅壁清野し、蜀軍と野戦するなかれ。諸葛亮縦い復出するも、遠来糧少し、一冬を拖せば、その軍自ずから潰えん」
私の推測は一点も違わなかった――密報の述べる所によれば、彼は榻に靠れ、指先で地図を叩き、唇に一抹の冷笑を浮かべていた。
「陳祗は失せども、関中の山河なお在り。郭淮は沉稳、蜀中の十万兵に勝る。諸葛亮、卿のこの長安、必ずしも攻め下せまい」
彼の心の中では甚至、ひそかに冷笑していた。諸葛亮縦い臥龍の智ありとも、所詮は困獣猶闘――糧少なく路遠く、関中の寒冬を耐えられず、郭淮のこの一子を落とせば、勝券は握ったも同然、蜀軍は必ず潰え、長安はなお魏土なり。その時、自分はただ坐してその成りを収め、蜀漢が戦わずして自ら乱れるのを見ていればよい、と。
帳中の諸将はこれを聞き、竟然と彼のこの篤定に心神を稳められ、次々と応じた。
「大将軍の明断、隴右の天険、蜀軍は插翅も飛び難し」
司馬懿は目を閉じ、その口元にまだあの志得意満の笑みを噛み、ただ郭淮の捷報を待った――彼のこの盤の棋は、自ら最も肝心で、最も稳なる一子をまだ留めていると思っていた。
あの日、密使が截られ、陳祗、黄皓が暴露し、全盤の布局が尽く毀れたと聞いた時、彼は一口の鮮血を噴き出し、その場で昏厥した。目覚めて後は高熱退かず、心神倶に損じ、無理に身を起しても眩暈がし、事を理する力もなかった。関中魏軍は、すでに郭淮が暫く節制していた。
西線は諸葛亮に圧され、東線は孫権に猛攻され、両線受敵、軍心惶惶、士気は極点まで低かった。
司馬昭は榻の側に守り、面色凝重で低く言った。
「父上、成都急報……黄皓、陳祗は後主に下獄され、宮中の党羽はことごとく清除され、蜀漢の後方にはもはや破綻なし。今……蜀軍はすでに全军営を抜き、祁山より兵を出で、直ちに隴右、長安へ撲らんとしております」
「……咳、咳咳……」
司馬懿は激しく咳き、口元に一縷の鮮血が溢れた。彼は濁った両眼を開き、その眼神には不甘と絶望が満ちていた。
彼は一生を耗し、一生を忍び、一生を算した。
曹操を耗し、曹丕を耗し、曹叡を耗し、
諸葛亮の北伐まで耗し、天下に変あるまで耗し、
一戦して乾坤を定め、関中を収め、蜀漢を滅ぼし、司馬氏の基業を奠定できると思っていた。
だが誰が想ったであろう、
宙に現れた一人の若き軍師、
一剤の薬、一場の勝、一局の棋、
彼のすべての謀画、隠忍、布局を、
打得粉碎とせんとは。
諸葛亮は死なず、
蜀軍は散らず、
呉盟は破れず、
内奸は存せず、
後方は乱れず。
天下の棋局は、徹底的に翻転した。
「諸葛亮……诸葛弘正……」
司馬懿の声は嘶れ、字字血を泣いた。
「我……不甘心……」
彼は身を起そうとし、大軍を指揮しようとし、再び防线を布こうとし、最後の一搏をしようとした。だが身体はすでに使えず、心力は尽き、心脈は衰敗して極みに達し、坐り起つことさえ難しかった。
司馬昭は涙を含んで言った。
「父上、ご安心して休養を。郭淮 top将軍はすでに隴右各所の関隘を死守し、堅壁清野し、蜀軍と野戦しておりませぬ。蜀軍は遠道より来たり、糧草は終に限りあり、或いは……或いはなお撑えられましょう」
司馬懿は目を閉じ、喉頭を転がし、なおその一口气を噛みしめて認めまいとした。
「郭淮……郭淮は沉稳、隴右の天険、諸葛亮縦い復出するも、必ずしも長安を攻め下せまい。関中さえ手中にあれば、司馬氏にはなお翻盤の棋がある」
彼は死死と被角を攥り、その口の血をまた飲み込んだ。ただこれを最後の賭けと思っていた――郭淮に賭け、関中に賭ける。
帳外の寒風が呼嘯し、彼の執迷を嘲笑うかのようだった。
司馬昭は頭を垂れ、泣き伏した。
魏軍上下は、一片の死寂。
かつて不可一世だった関西の主力は、今はただ門を閉ざして死守し、坐して待つ絶望のみ。
――
五丈原の南、祁山の北。
蜀漢の大軍は、百里に綿延し、稳やかに北進した。
旗幟は鮮明、甲光は日に向かい、歩伐は斉整、士気は虹の如く。
前隊の鉄騎は奔騰し、塵煙は天を蔽い、
中隊の歩兵は山の如く、沉稳として推し進み、
後隊の糧車は連綿とし、絡繹として絶えず。
これは蜀漢史上、最も雄壮、最も稳固、最も希望ある北伐であった。
大軍北進の途次、新たに帰附した隴右の将士と関中の百姓は、しかし皆がこのように篤定していたわけではない。蜀軍営中にも、私の手段を見たことのない老卒数名が、ひそかに呟き始めた。
「長安はあれ、曹魏が数十年経営した旧都、城高く池深く、郭淮 top将軍また険隘を死守す、蜀軍に真に攻め下せようか」
数名の降ったばかりの隴右卒が低く呟いた。
「丞相は神と聞くが、神とて糧の遠く路の険しきには勝てまい。万一攻め下せねば、魏軍が反撲してきたら、我らは里外に人とならぬ」
一人の、諸葛亮に従って成都より一路打って出た老卒も、眉をひそめて同袍に言った。
「丞相は能あるも、郭淮のあの老狐狸の亀陣は、当年も我らを少なからず苦しめた。この度は……必ずしもそう順調ではあるまい」
関中の老農さえ田埂に蹲って首を振った。
「改朝換代のこと、どれが拉锯でなかったか。漢家の旗号、恐らくは立ち稳まい」
流言は秋風の中の草の種のように、悄然と新附の人と老卒の心に落ちた。彼らは知る由もない、この軍隊の背後に、すでに彼らの想わぬ局が布かれていることを――私の暗糧は漢中より接ぎ、郭淮の「亀陣」は、まさに最も誤った時機に拖しているのだ。
諸葛亮は戎車に乗り、金甲を身に披、外に青袍を罩め、羽扇を手にし、神色従容であった。私は馬を並べ、方巾束髪、勁装利落、目光清亮、二人は一路談笑し、山川の形勢を指点点じ、画中を遊ぶが如く、戦陣の前にあるが如くではなかった。
姜維は馬を縦って中軍に来たり、興奮を隠せずに言った。
「丞相! 軍師! 隴右各所の郡県、我が軍の大挙北進を聞き、すでに三城の官吏がひそかに使を遣わし、開城降伏を願い出でております! 曹魏の守軍は闘志なく、望風に逃れております!」
諸葛亮は微かに笑った。
「民心は漢に在り、曹魏に在らず。勢いに順じて為せば、戦わずして人の兵を屈する、善の善なる者なり」
私は言葉を継ぎ、語気沉稳に言った。
「魏 top将軍、軽敵冒進するなかれ。稳扎稳打し、城池を受け、百姓を安んじ、無辜を傷つけるなかれ。我らの求むるは、ただ土地のみならず、さらに人心なり」
「わかっております!」
姜維は拳を抱き、意気揚々と馬を縦って前隊へ戻った。
姜維はその後、馬を馳せて来報した。
「丞相、郭淮は隴右の要道を死守し、堅壁清野し、一戦も出しておりませぬ」
私は軽く笑い、淡々と点破した。
「郭淮は険に憑って死守し、堅壁清野すれば、遠道より来たる我が軍を拖き垮せると思っている。だが彼のこの『拖』は、まさに最も誤った時機に拖している――我が軍の糧道はすでに漢中より接ぎ、成都の千里転運に頼らず、彼は空しく険隘を守り、兵に戦心なく、将に死志なく、拖けば拖くほど虚しくなる。彼が拖こうとするなら、我らは偏偏と彼に拖く空きを与えぬ」
諸葛亮は羽扇を軽く揺らした。
「彼が拖こうとするなら、我らは偏偏と彼に拖く時を与えぬ。伯約、卿は一支の軽騎を率い、道を繞って敵後へ出で、彼の糧道を襲擾し、草料を焼き、虚張声勢し、故意に疑兵を作せ。郭淮は生性謹慎、必ず我が軍が彼の後路を断とうとすると思い、軍心一たび乱れれば、関隘は自ずから破れん」
「臣、遵命!」
姜維は令を領し、身を翻して去った。
わずか一日を出でずして、隴右の戦局はすでに明朗となった。
郭淮は姜維に擾され、心浮き気躁ぎ、糧草を焼かれ、後路を憂い、守軍は惶惶として安からず。姜維は正面より猛攻し、勢いは竹を破るが如し。蜀軍は南北より夾撃し、隴右各所の関隘は、次々と易手した。曹魏の守軍は降るか逃げるか、潰えて軍を成さず。
隴右全境は、ことごとく蜀漢の掌中に入った。
その知らせが渭北魏営に伝わった時、司馬懿はまさに病体を強いて、郭淮の「捷報」を待っていた。
「報――隴右三隘尽く失せり! 郭淮 top将軍、糧道を焼かれ、後路を断たれ、守軍は降るか逃げるか、すでに関中腹地へ退きました!」
司馬昭の声は震えて、形を成さなかった。
司馬懿は猛然と身を撐え起こし、瞳孔が骤然と縮んだ。先ほどまで彼はなお「郭淮死守、蜀軍自潰」と篤定していた。その言はなお耳に在るに、目の前の敗報は、彼のその「最も肝心の一子」を、生生と碾き砕いた。
「不……不可能……」
彼の喉頭が甘くなり、一口の鮮血が再び噴き出し、枕辺を染め透かした。彼は嘶るように惨笑した。
「郭淮……も守りきれぬとは……関中……関中は終わりだ!」
狂喜の部署の時の冷笑は、瞬時に一口の喘ぎに塌れた。一代の梟雄は、ついに自ら最も認めたくない一句を吐いた。
「我……負けた。関中は、守りきれぬ」
帳中の魏軍将士はこれを聞き、一片の哗然となり、人々は冷気を吸った――先ほどまで斉しく「大将軍明断、蜀軍插翅も飛び難し」と奉承していた衆人は、この時顔を見合わせ、冷汗が涔々とし、初めて自分が人を信じ誤ったことを知り、あの稳如泰山と思っていた関中が、竟然と諸葛亮と私の一局に掀翻されたことを知った。
その知らせが伝わると、関中は震動し、長安の百姓は人心惶惶とし、豪門大族はひそかに車馬を準備し、東へ逃れて難を避けようとした。曹魏の朝廷は大いに驚き、数道の聖旨を連ねて下し、司馬懿に出戦を催促したが、司馬懿はなお病床に臥し、力を尽くしても回天できなかった。
――
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さて魏延はすでに五千の精鋭を率い、自ら主将として、輔兵を帯びず、各々二十日の糧磚を携え、子午谷のあの千里の死路へ鑽り込んだ。弘正は軍師の身でその間を賛画し、羅憲は副将として、親兵を率いて後を押さえた。三人は昼は伏し夜は出で、枚を銜んで疾走した。且つ看よ、下回を分解せん。




