2話 先生ちゃんと授業してくださいよ
「……先生」
「んー?」
「授業、始まってますよ」
「知ってる知ってる」
王立魔法学園、第一学年・特別育成クラス。
教壇に立つアレン・クロフォードは、眠そうに目をこすりながら黒板を眺めていた。
時計を見る。
開始から二十分。
生徒たちは全員、こちらを見ている。
「……」
「……」
「……」
「えーっと」
アレンは黒板に文字を書く。
――『本日の授業:実戦』
「今日はこれで」
「雑すぎません!?」
最初に声を上げたのは、エリシアだった。
「先生! 実戦とは具体的に何をするのですか!」
「魔法とか剣とか」
「それでは授業になっていません!」
「そう?」
「そうです!」
アレンは少し考える。
「じゃあ……魔物を倒す」
「それは授業ですか!?」
「実戦授業だからねぇ」
「屁理屈です!」
隣ではレオンが頭を抱えている。
フィオナは楽しそうに笑い、ガルドは「魔物!」と聞いてすでにやる気満々。
ミアは不安そうに杖を握り、カイルは窓の外を眺めていた。
そしてルナだけは、じっとアレンを見ている。
「先生」
「ん?」
「先生は……強いんですか?」
その一言で教室が静かになった。
アレンは少しだけ考える。
「まあ、それなりに?」
「どのくらい?」
「んー……」
アレンは窓の外を見る。
「学園の先生の中じゃ、一番強いんじゃない?」
エリシアがため息をつく。
「また適当なことを……」
「いや、本当だけど」
「証拠は?」
「ない」
「……」
「じゃ、行こうか」
「話を逸らしましたね!?」
---
その日の午後。
生徒たちは学園近くの演習場へ集められた。
演習場は広大な森になっている。
魔法によって管理された人工迷宮で、内部には低級から中級までの魔物が配置されている。
「今日の目的は簡単」
アレンは生徒たちの前で説明する。
「魔物を倒して帰ってくる」
「それだけですか?」
「それだけ」
「先生は?」
「俺は見てる」
「……」
「教師だから」
エリシアが頭を抱える。
レオンは剣を抜いた。
「分かりました。俺たちだけでやります」
「うん。頑張って」
「先生……本当に何もしないんですか?」
「危なくなったらするよ」
アレンは欠伸をする。
「まあ、死なない程度に」
「死なない程度!?」
フィオナが笑った。
「なんか先生って面白いですね!」
「そう?」
「はい!」
「じゃあ頑張って」
「はーい!」
こうして実戦授業が始まった。
---
森に入って十分。
最初の魔物が現れた。
ゴブリンが三体。
レオンが前へ出る。
「俺がやります!」
「待って」
アレンが声をかける。
「?」
「一人で行くな」
「でも三体くらいなら――」
「そういう油断が一番危ない」
アレンは指を一本立てた。
「戦闘ってのは、強い奴が一人で頑張る競技じゃないから」
レオンは黙った。
「周り見て」
レオンが仲間を見る。
エリシア。
ミア。
カイル。
フィオナ。
ガルド。
ルナ。
「……分かりました」
レオンが頷く。
「じゃあ、行きます!」
最初のゴブリンが飛びかかる。
レオンが剣で受け止める。
二体目。
横からガルドが大剣を振る。
「おらぁ!」
ゴブリンが吹き飛ぶ。
「フィオナ!」
「任せて!」
フィオナが杖を掲げる。
「召喚――」
魔法陣が展開する。
「……あ」
アレンが嫌な顔をした。
「先生?」
「いや、なんでもない」
魔法陣から巨大な狼が飛び出した。
「ええええ!?」
フィオナ自身が驚く。
「なんで!?」
狼がゴブリンではなく、生徒たちを見る。
全員が固まった。
アレンがため息をつく。
「フィオナ」
「はい!」
「召喚する前に、何を呼ぶか決めような」
「すみません!」
狼が唸る。
レオンが剣を構える。
ガルドが大剣を持ち上げる。
カイルの周囲に闇が集まる。
ミアが震えながら杖を構える。
そのとき。
「待って」
アレンが手を上げた。
「フィオナ。もう一回やって」
「え?」
「今度はちゃんと意識して」
「でも、失敗したら……」
「大丈夫」
アレンは笑った。
「失敗しても俺がいるから」
フィオナは目を見開いた。
そして深呼吸する。
「……小さくて」
魔法陣が光る。
「可愛くて」
光が強くなる。
「私の言うことを聞いてくれる子!」
ポンッ。
現れたのは、小さな青いスライムだった。
「……成功した」
フィオナの顔が輝く。
「成功しました!」
「おー」
アレンが拍手する。
「先生!」
「ん?」
「今の、ちゃんと見てました!?」
「見てた見てた」
「絶対寝そうだったじゃないですか!」
「いやー、危なかった」
「危なかったんですか!?」
生徒たちから笑いが起こる。
その瞬間。
森の奥から、低い唸り声が響いた。
空気が変わる。
アレンの表情から、ほんの少しだけ眠気が消えた。
「……あー」
「先生?」
「予定よりちょっと強いのがいるな」
森の奥から現れたのは、巨大な魔狼。
通常の演習に配置されるはずのない、上級種だった。
レオンが息を呑む。
「……先生、これは?」
「たぶん誰かの設定ミス」
「そんなことあります!?」
魔狼が咆哮する。
生徒たちは構える。
アレンは一歩前へ出る。
「まあ、いいや」
「先生?」
「ちょっとだけ見本見せる」
アレンが右手を上げる。
魔力が集まる。
レオンが目を見開いた。
エリシアは言葉を失う。
カイルの表情すら変わった。
魔狼が威嚇する。
アレンは面倒そうに呟いた。
「――『静かに』」
次の瞬間。
魔狼の身体が地面に叩き伏せられた。
轟音。
土煙。
森が揺れる。
生徒たちは呆然と立ち尽くす。
アレンは服についた埃を払う。
「はい」
そして何事もなかったように振り返った。
「今のが魔法」
「……」
「分かった?」
誰も答えない。
「……?」
アレンが首を傾げる。
「先生」
レオンが震える声で言った。
「今、何をしたんですか?」
「魔法」
「そうじゃなくて!」
エリシアが叫ぶ。
「上級魔獣を一撃で倒しましたよ!?」
「あー……そうだっけ?」
「そうです!」
「まあ、授業だから」
「授業だからで済ませないでください!」
アレンは困ったように笑う。
「いやぁ……」
そして頭をかく。
「俺、教えるの下手なんだよね」
生徒たちはまだ知らない。
目の前の男が、かつて大陸中の魔法使いから、
「世界最強」
と呼ばれていたことを。
そしてアレン自身も、まだ知らない。
この日の授業をきっかけに、生徒たちが彼の過去を調べ始めることを。
――そして一人。
ルナだけが、倒れた魔狼ではなく、アレンの右手を見つめていた。
「……先生」
「ん?」
「今の魔法……」
ルナは小さく呟く。
「百年前の魔法です」
アレンの笑顔が、一瞬だけ止まった。
「……へぇ」
「どうして先生が、それを使えるんですか?」
アレンは答えなかった。
ただ、いつもの間の抜けた笑顔に戻る。
「さあ?」
「……」
「昔、誰かに教えてもらったんじゃない?」
そう言ってアレンは歩き出した。
だが、その背中を見つめながら、ルナは確信していた。
この先生は、何かを隠している。
今回の主人公はキラじゃないの?って思いますよね
3作品もキラにしてたら
どれがどのキラかわからなくなっちゃうのであえての別名です(´;︵;`)




