第2話:「がんばり屋さんの特効薬」
「もー、本当にノエル先輩は距離感がバグってるっすよ……」
あれからひとしきり玄関で揉み合った末、なんとかノエルをリビングのソファに座らせることに成功したスバルは、トコトコとキッチンから麦茶の入ったコップを二つ運んできた。
「はい、これ麦茶ね」
「わぁ、スバルちゃんありがとう。……ねえ、こっち座って?」
ノエルはコップを受け取ると、トントンと自分のすぐ隣のソファを叩いた。
その目は、まだ諦めていないと言わんばかりに潤んでいる。
「いや、スバルは床に座るからいいっすよ」
「だーめ。ほら、おいで?」
「うぐっ……」
ノエルに腕をきゅっと引っ張られ、スバルは観念したようにソファの、それもノエルのすぐ隣に腰を下ろした。
お互いの肩と太ももがぴったりと触れ合う距離。
スバルはそれだけで、なんだか落ち着かない気持ちになって、無意味に麦茶をゴクゴクと飲み干した。
しばらくは、最近お互いにあった面白い配信の話や、ホロメンのウワサ話でワイワイと盛り上がっていた。
いつも通りの、楽しい時間。
けれど、ふっと会話が途切れた一瞬の静寂の中、ノエルがスバルの横顔をじっと見つめていることに気がついた。
「……ん? なに、ノエル先輩?スバルの顔に何か付いてる?」
「ううん。……スバルちゃん、今週もいーっぱい配信がんばってたね」
「え? ああ、うん! 楽しかったし、みんなが喜んでくれるなら全然平気っすよ!」
いつものように、へへっと快活に笑ってみせるスバル。
その瞬間、ぽつり、と頭の上に温かいものが触れた。
ノエルの、大きくて柔らかい手だった。
それがゆっくりと、本当に愛おしそうに、スバルの短い髪を撫で始める。
「……ノエル、先輩……?」
「スバルちゃんはさ、いっつも周りのみんなを笑顔にしようって、ずーっと走ってるでしょ? 団長、そういうスバルちゃんのこと本当に尊敬してるんだよ」
ノエルの声は、さっきまでのテンションが嘘みたいに優しくて、穏やかで、まるですべてを包み込んでくれてるみたいだった。
「でもね……団長の前では、そんなに格好つけなくていいんだよ? 寂しいこととか、辛いこととかあったら、もっと団長に甘えて? ね?」
「な、何言ってるんすか、スバルは別に……」
強がろうとして、言葉が詰まった。
ノエルの手のひらから伝わってくる温かさが、スバルの心の奥にある「がんばらなきゃ」っていう固い結び目を、ゆっくりと、優しく解いていくような気がした。
いつもマネージャーとして、アイドルとして、みんなを引っ張る側でいようとする大空スバル。
だけど、本当は。
本当は、たまには誰かに寄りかかりたくなることだって、ないわけじゃない。
「……スバル、だって……」
「うん」
「たまには……配信が終わったあと、急に部屋が静かになると……ちょっとだけ寂しくなったり……するっす……。今週の企画も……実はめちゃくちゃ不安で……みんなが本当に楽しんでくれたか、ずっと気にしてて……っ」
気がつけば、普段は誰にも言えないような弱い本音が、ぽろぽろと口から零れ落ちていた。
情けない。
恥ずかしい。
そう思って俯こうとするスバルの視界が、ノエルの優しい微笑みによって遮られる。
「うん、うん……。そっかぁ、スバルちゃん、ひとりで不安だったんだね。がんばったねぇ……偉いよ、スバルちゃん……」
その優しい肯定の言葉を聞いた瞬間、スバルの胸の奥がぎゅーっと熱くなって、視界がじんわりと涙で潤み始めてしまった。
(つづく)
【予告】
第2話をお読みいただき、ありがとうございました!明日の第3話は『大空警察、ガード崩壊5秒前』です。ノエル先輩の圧倒的包容力(と胸)の前に、ツッコミ役のスバルちゃんが完全にノックアウトされて、普段の配信では絶対に見せない「女の子」の顔になっちゃう……!?明日もお楽しみに!
毎日1話ずつ、【18時】に更新していきますので、ぜひ明日も覗きにきてくださいっす!「てぇてぇ!」と思ったら、ブックマークや評価、感想をいただけると泣いて喜びます!




