プロローグ 懐かしい思い出
昔、此処には村があった。
その村の朝は盆地であるという地理的理由から、朝は霧が濃く、日の出と入が比較的に遅かった。周りに連なる山々は、草木で生い茂っており、そのせいで村は他の村と情報を繋がるのが遅かった。もし、繋がっていたとしても避難は間に合ってなかっただろう。
何に?
焦らないで、最後まで人の話を聞き給え、この流れどう考えても今から話すところじゃないか。
はぁはぁ
ある日、いや最後の日、一人の平民が走っていた。腹が少し出ている中年風のおっさんだ。この男は、見た目は不衛生だが、実は綺麗好きで毎日風呂に入っており、冒険者とは思えないぐらい新品同様に装備や家の美品を綺麗にしていた。しかも、頼むと善意で神殿の掃除を手伝ってくれる経験な信徒だから、人は見た目どうりではないというものだ。
そんな彼が、額から汗を湯水のように吹き出し、装備を泥だらけにして走る。走る。何かに取り憑かれたような充血した目で必死に、その向かった先は、其の村の中心近くにある教会だった。
「司祭、司祭!!!!」
ドンドンとドアが叩かれるとともに男の低い音が部屋に鳴り響く。
「はい、何でしょう。」
その呼びかけに出るのは司祭であった私である。
コレでも、最年少で教会を預けられた天才なのだ。村の色んな人に頼られている。
そんな私が、どうして此処にいるって?
才能があるということは、野心があると同義ではないんだよ。
私は、人と争うことは嫌いだ。討論ですらあまり好まない。そもそも貶し合いが嫌いだ。
そんな私は、当然、教会上層部に行ったら後悔するに決まっている。だから、私は残りの人生この辺境でひっそりとゆっくり静かに過ごそうかと思ったのです。
まあ、赴任してすぐに死にそうになっていたスラムの少女を助けたら、聖女にまで成長して持ち上げられそうに成りましたけど、きっちり断ることができたおかげで未だ静かに生きています。
あ、いけない。
私は、机に置かれている油皿灯を手に取り、ドアに近づき扉を開ける。すると、男は飛び出すように入り込み一瞬、油皿灯を落としそうになる。
彼からは、とても困惑、焦り、悲しみを感じる。
「司祭、大変なんだ!!」
「何がですか?」
普通に疑問なので質問する。
「それがな、__________________________________________________________」
「そうですか」
少し困ったことに成りました。
彼の話によると、魔王軍がこちらに押し寄せていると。
残念なことにもう殆どの冒険者が死んでしまったようです。聞いた規模は10万だそうです。コレでは流石に叶いません。撤退に決まっているでしょう。
しかし、ここの村には外の世界を知る人が冒険者と私しかいません。そもそも、この森を出る方法を知っているものすら私達しか居ません。相手は魔王軍、唯でさえ私達より身体能力という点で優れているのに、彼らは鍛え抜かれた屈強な兵士。対して私達は、女子供、老人、そして鍛えられた若者しかし、戦士としてではなく農民としてですけど。
あ、今のなんか面白かったですね。
え、面白くない?
では、少し自分のセンスとやらを鍛えるのを今後の目標としますか。
それは兎も角、やるべきことは決まっている。
「司祭様、どうすれば…」
私は、男の方にそっと手を乗せ答えます。
「やることは決まってます。貴方は皆をまとめ上げこの村を出て、森を抜けた先にあるガリバル要塞に逃げてください。」
「わかりました。」
男は、命令されるとすぐに目を変え行動に移そうとする。しかし、司祭を見て違和感を感じる。
今何故紅茶を入れているのだ。
紅茶は、貴族が使うもので大変貴重で金と同等の価値があるとも言われるぐらい高価なものだ。もうこの村は、ここ10年いや20年いやもっと先かもしれない、もしかしたら一生この地には戻れないかもしれない。だから、消費したいのも分からなくもない。しかし、すべて命あってのものだ。この人は何をしている。
込み上げた疑問の誘惑に負けて男は聞く、何故か嫌な予感がするが、聞かなければいけない気がする。
「何故いま紅茶を」
それを聞くと、一瞬、司祭は驚きながらニコッと微笑みながら言う。
「これはね。聖女様からの贈り物なのだよ。そう簡単には捨てられない。」
「そうですが‥」
男は、葉切り悪く言う。
聖女エルシア、それはこの村から初めてできた聖女。このお方が彼女の育ての親のはずだが何故、敬語を?と思うが男は彼が言っていたこと思い出す。『何故、敬語ですか?それは当然でしょう。いまやあのお方は伯爵家に養子になったのですよ。平民と貴族が敬称もなしは些か無礼というものです。』
コレが彼の性分なのだろう。しかし、彼をこんなところで、こんな理由で死なせるわけには行かない。
「ですが…」
「最後の晩餐なのですよ。コレぐらい許しておくれ。君たちの逃げる時間ぐらい作ってあげるから急ぎなさい。」
両者の間に一時、沈黙が走り。
男は、自然と目から涙を込み上げた。
「この恩は、忘れません。」
男は、首に下げる十字架を強く、血が出るまで強く、握りしめながら言った。
「まあ、覚えていても意味はないでしょうが、いや」
司祭が一瞬考え込む
「何でしょうか」
「聖女に伝えられたら伝えて_____________________________」
「わかりました。」
男は、そのまま、すぐに村の皆をまとめ上げ村は9人を残して静かになった。
私達は、静かに黒く虫のように蠢く山肌を紅茶を飲みながら眺めていた。
「おホッこりゃうまい」
「いや、コレが残った人への報酬ていうことですかい司祭さん」
「いや〜人生で紅茶を飲める日が来るなんて夢にも思いませんでしたよ。」
「お貴族様の気分ですなあ」
「こんな人生の終わり方も悪くない。」
「司祭さんも逃げてもいいんですよ」
「いいえ、老人方には荷が重いと思ったので手伝いに来ているんですよ。」
「「「「「「「「ヒャはあッ、そりゃ違いねえ。」」」」」」」」
皆紅茶を飲み終わり、コップを割る。
「ああ、それ高いんですよ」
私は、少し苦情を入れるが老人方は笑いながら
「今からしに行くのに、もったいないもあるかよ司祭様」
「それもそうですね」
どちらも笑うが、皆、私の目を見て言う。
「「「「「「「「「坊っちゃん、本当にいいですかい。今なら間に合いますよ。」」」」」」」」」
一瞬で沈黙と成り、私の手を見る。
私の手は震えている。
うん、正直怖い。怖いです。しかし、コレで生き残る人がいるなら文句などないです。
「はい、決めたことなので」
「そうかい。」
おじいさんたちは、困ったように頭を掻く。そして、私は気がつく。彼らの手もまた震えていることに震えながら村で掻き集めたルーン弾を握っている。
「爺さんたち笑っているではないですか。」
爺さんは拍子抜けた顔と同時に笑い出した。
「こりゃあ、カッコ悪いとこ見せちまったなハハッ」
話すことがなくなって山を見ると黒い染みが山を降り始めていた。そろそろ、村に来てしまうだろう。
「もうそろそろですよ。皆さん覚悟してください。」
後ろからオオオ!!という老人の雄叫び。
「司祭さん、最後に本当に最後に質問なんだが、やり残したことってねえのか?」
一番近くに居た爺さんが聞いてきて、他の爺さん方も、なんかあるだろ!この際行っちまえ!と言う感じに何かを言わなければいけないムードに成ってしまった。
何かあっただろうか。
しばらく、考え込む、、、、、、そうだ!
「お恥ずかしい限りですが、嫁を持って老衰するまで静かに暮らしたかったですね。」
「はあっっっははっはっはっはははあははああっっはははは」
ジジイどもが全員笑い出した。
△■●▼年●月☓日
聖女の生まれ地、■■■■■■は魔王軍により占領され、王族によって『魔領』申請が受諾された。
死亡者は計八人
彼らは、殿として村に最後まで残って戦ったと報告がされ、現在王都で魔王軍と戦った『英雄達』の石碑に名が刻まれている。
聖女エルシア




