53話 アビーとクリス
菜摘に『ソーマ』の件を伝えたクリストファーは薬師堂を後にし、王城へ戻る馬車の中で考えをめぐらせていた。
「菜摘殿に『ソーマ』の葉をお願いしたのはいいが、それに頼りきりというのも不安だな」
「彼女に甘えたままというのも情けないし、少しはいいところを見せなくては、男が廃るというものだ……」
馬車には防音壁を展開しているため何を喋っても外に漏れない仕様になっている。
自然と頭に浮かんだ思いは口をついて出ていた。
顔を上げるとクリスはおもむろに己れの頬をパチンと叩いた。
「一体何の為に、魔道士団と騎士団がこの国にあるのかと、存在意義が問われるだろうな」
対岸の火事ではない、尻に火がついているのだ。
隣国から越境してきた者達がいる事は、騎士団からの連絡でも把握していたが、異形の者へ変異している点についてはどこまで伝達されているか不明だった。
そうこうしている間に、馬車は王城へ到着した。
クリストファーは魔道士団へは戻らず、その足で騎士団団長のアビゲイルの元へ向かった。
目当ての男は団長室で剣の手入れに行ってその他しんでいた。
「アビゲイル騎士団長!」
「久しぶりだなクリストファー」
金髪碧眼の騎士団団長。アビゲイル・ウルバートは爽やかな笑顔で、クリストファーを迎えた。
「アビーいま時間は取れるか?」
「ああ問題ないよクリス」
幼馴染でもある二人は気安く愛称で呼び合う。
「どうしたんだ何か思い詰めた顔をして。 彼女につれなくされたか?」
最近のアビーはこんな調子で絡んでくる困った奴だった。
「アビーお前の悪い癖だな。常に女性が絡んだ話しにしたいようだが……」
「なんだ違うのか、面白くないな」
「女性絡みで俺が悩む姿をそんなに見たいのか」
最近雰囲気が柔らかくなった幼馴染を茶化すのが楽しみになりつつあるアビーは、期待していた話しではないのかと大げさにため息をつく。
「それで 今日は何用だ?」
やっと本題に入れるかとクリスは髪の毛を無造作に搔き上げる。
「クラカーマの救護院の件だ」
「クラカーマの救護院は現在、病いの恐れがある越境者を隔離しているがそれがどうした?」
「隔離者が異形の者に変異したことは?」
「いや? 報告は受けてないが……」
無理もない、救護院に派遣された騎士達は壊滅していた。
交代に出向いた者達は救護院内に留まっており、騎士団への連絡は遅れていた。
「その情報はどこからだ?」
「師匠から便りがあった」
「ミザリー様はなぜ知っておられる?」
「師匠は救護院に侵入したと連絡してきた。今もまだ中にいるだろう」
「一応騎士団以外は立ち入り禁止にしてあるのだがな。ミザリー様には通用せぬか」
「ああ師匠には無理だな」
「それでお前はどうするつもりなんだ?」
「そうだな。今は救護院の話しで済んでいるようだが、あれは出回っているのだろう?」
「あれとは? ポーションの事か?」
「ああそうだ」
「クラカーマの街には大分出回っていると聞く。予備軍は相当数いると思うぞ」
クリスの話しに陽気な顔つきだったアビーの顔が曇る。
「そういうことなら、他領へ広がる前に抑えておきたいな」
「うちと連携して対処するのはどうだ?」
アビーはその提案に異論はなかった。
二人は大まかなことを決めるとそれぞれの部下達に伝え、連携するために必要ことは後ほど集まる部下達と詰めることで調整した。




