45話 査問会2
査問会が執り行われた会場は円形状の造りをしていた。
その場所の被告人席に立った者が感じるプレッシャーは相当なものだ。
周りから見下ろされている感じがハンパない。
全方向から一斉に責めたてられているかの様な錯覚を覚え、雰囲気にのまれてやっていないことでも『私がやりました』なんて言ってしまうかも知れない……。
呼ばれて被告人席に立つと議長は罪状を読み上げた。
どれもこれも私には全く身に覚えのない事柄ばかりだった。
それに対し受け答えをしなくてはいけず辟易する。
そこへ私の関係者として薬師堂のローランさんが呼び出された。
入って来たローランさんは私と目が合うとよく見ていないとわからない程度のウインクをした。
こんな状況でウインクなんて、ある意味尊敬しちゃいます。
ローランさんは、議長の質疑に対して怯むことなく真っ向勝負をしてくれた。
菜摘は彼に迷惑を掛けてしまった事が心苦しくて申し訳ない気持ちで一杯だった。
ローランが退出した後、数人呼び出されては同じ様に質疑応答が続いた。
そろそろ査問会も中盤に差し掛かろうとした頃、議長の横へ駆け寄る男の姿があった。
何やら耳打ちをした後にメモを渡したのが見え、メモを確認した議長は遠目に見ても慌てているように見てとれた。
「当査問会は緊急の用件でしばらくの間閉廷することになった。再開の有無については追って通達致すゆえ、本日はこれにて終了する」
議長は手元にあったベルをカンカンと打ち付けながら宣言した。
会場全体が議長の言葉にどよめいた。
一体何が起きたのかと疑問に思うのは当然だ。
何だかよくわからないまま査問会は中断されることとなった。
被告人席に立っている私はこの後一体どうなるのかと考えていたら、議長に指示された男性がやってきて、別の部屋へ連れて行かれた。
案内された部屋には数人の女性となぜか猫脚のバスタブが置かれている。
案内してくれた男性は後はそちらにおまかせしますと部屋の女性達に言って去っていった。
私は状況がのみ込めず茫然としていると、
「野中菜摘様とお見受けいたしますが、間違いないでしょうか?」
中から一人の女性が前に出てきた。
「はい。野中菜摘は私のことですが……それが何か?」
警戒心もあって私はつい冷ややかな声音で答えた。
「まずは私どもの主人と会っていただきます。その前に申し訳ございませんが、身なりを整えるよう申しつかっておりますので、ここで準備させて頂きます」
女性は淡々と説明した。どうやら私に拒否権はないらしい。
複数の女性に囲まれ湯浴みをするという恥ずかしい思いをし、用意されていた素人目にも高価に見える衣服に着替えさせられた。
服はしつらえたかのようにぴったりで驚いた。
「野中様。この後迎えの者が参りますので、しばらくこちらでお寛ぎください。また後ろの者が護衛としてお側におりますのでご容赦下さい」
着付けを手伝ってくれた女性はそう言って、その他のお姉様方と部屋を出て行った。
状況もわからないのに寛げるか! と言いたい心の声は仕舞って大人しく待つことにする。
テーブルの上に紅茶と茶菓子が用意されていたが、とても口をつける気にはなれなかった。
部屋には私と護衛の男性だけが残された。
話しかけられる事もなく、こちらも特に話すことがない。
シーンとする部屋の中、しばし目を瞑る。
「野中様。お迎えに参りました」
しばらくすると扉をノックする音と共に声が掛かった。
クリスが来てくれるかもと思っていた淡い期待はすぐに消し飛んだ。
鎧は付けていないものの、一目であの騎士団というのが分かった。
またこの人達なの……私の中では最早好感度ランク外の集団となっている。
迎えに来た騎士に前後を挟まれた形で長い廊下を歩いて行くと少し広めの部屋へ通された。
部屋の中央には複数の人達が立ってこちらを見ているのが見え、その場所まで騎士に連れられ進む。
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「野中菜摘殿。其方には此度の事について、悪いことをしたと思っている。すぐに許してもらおうとは言わん。だが今後の為にもこれを受け取ってもらえないだろうか」
この国のトップと言っても過言ではない御方が周りの目も気にせず深々と頭を下げた。
私はなぜだか小綺麗な格好をして国のお偉いさんに頭を下げられるという状況に置かれていた。
集団の中にはクリストファーの姿があり、視線が合うと彼は大きく頷いた。
その瞳は心配ないと言っているように思えた。
「ええと摂政殿下、もういいので顔をあげて頂けませんか。謝罪の気持ちは受取りましたので……」
正直言うと騒ぎ立てたいくらいに頭に来ている。
牢屋での仕打ちを思い出せば騎士団へ怒鳴りこみに行きたいくらいだ。
それでも何か喋らなければ話しが進まないと思い声を出した。
顔を上げた摂政殿下は、手にしていたものをクリストファーへ手渡した。
クリストファーはそれを受取ると菜摘の元にやってきた。
「菜摘殿もう心配する事はありません。これは是非受け取ってください」
クリスから手渡されたものの詳しい説明は後ほどと言われ、菜摘は摂政殿下からの言葉を待つことにした。
今は何より顔見知りのクリスが側にいてくることが心強かった。




