26話 隣国のとび火
「アビゲイル団長。これを所持していたものを捕らえております」
部下からの報告を聞いた騎士団団長アビゲイルは腕組みをしながら、目の前の薄紫色のポーションを眺めていた。
アビゲイルは隣国ビエナと隣接している街、クラカーマに赴いていた。
騎士団のいくつかある分団の一部がこの街に駐留している。
隣国ビエナに近いこの街で、見慣れないポーションが出回っているとの報告を初めて聞いたのは数週間前。
ラミハサーガ国では一連の火事騒ぎで薬草園が焼かれ五割ほど消失していた。そのせいでポーション不足が起こっていたが、それを見越していたかのように見慣れないポーションが出回り始めていた。
許可を受けていない輸入品は厳罰対象だが、取り締まりが後手後手になっていて追いついていない。
ときおりこの地に赴いては、アビゲイルは分団に所属する団員達へ檄をとばしてきた。
捜査網を広げていた中、ようやく糸口が掴めそうな状況になってきた。
「クリストファーにもう少し早く通達しておれば、被害は防げたものを……」
今さらながら薬草園の消失が、国内にどれだけ影響を及ぼしていたのか思い知らされている。
直接クリストファーへ勅旨を手渡した者として、上からの指示の遅さに悪態をつく。
「それにしてもこのポーション、我が国でどれだけ出回っていることやら」
「いずれにせよ捕まえた奴を取り調べてからだな」
薄紫色のポーションを棚にしまうとアビゲイルは部屋を後にした。
アビゲイルは隣国ビエナで起きている騒動についてまだ知らなかった。
そして自国の民達の間にも同様の症状が起き始めていることも……
部屋の主が出て行ったのを見計らったかのように、部屋を移動する人影があった。
「ギギーッパタン」
アビゲイルが棚にしまったポーションは忽然と無くなっていた。
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「ふーなんとか間に合ったようじゃわい」
下位神達と水晶球に映る映像を眺めていたアムルダート神は、ルプスの仔犬が菜摘を無事救出した場面を見てほっと胸をなでおろしていた。
「それに良い名をつけてもらったようじゃな」
水晶球に映る映像はランダムで、次々と浮かんでは消えるを繰り返す。
「ところでアムルダート様。暗黒神様とは? 私達はお目にかかった事がないのですがどちらにいらっしゃる神でしょうか」
下位神の一人が疑問を投げかける。他の者も互いに顔を見合わせ、いまだ知らない神について話している。
「お前達が知らぬのも当然じゃわい。暗黒神は遥か昔に儂が異界へ追放した者の名じゃ」
「……異界へ追放? その神が戻ってきたという事でしょうか?」
「異界からこちらに渡ってくることは出来ぬはずじゃが、確かめねばならぬな。この水晶球には神々の動向は映らぬからの……」
「その神の使徒と名乗る者達があのような事を企て、一体何をしようとしているのでしょうか」
下位神達は皆一様に複雑な面持ちになっていた。
「さっぱり分からぬの……そ奴らはあのような物を作り出して、人心を掌握しようとしてるようじゃぞ」
アムルダート神は水晶球に映る一歩先の未来を指差した。
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「どうよククノチ兄さま。草の根ネットワークはいい仕事してたでしょう?」
遠見の鏡で成り行きを見守っていたカヤノヒメは、握りしめた拳を上に揚げ振り向いた。
その次にはボクシングのファイティングポーズを取り、シュシュッとパンチを繰り出す。
自ら出張ったわけでもないのに得意げだ。
「カヤノ。彼らは良くやったと思うぞ。しかしあまりにさりげなくて儂でも見落とすとこだっだぞ」
目を凝らしてカヤノヒメと遠見の鏡を見ていたククノチ神は、あの微妙な動きに気づいたルプスの仔犬の方がよほど凄いだろうと言う顔をした。
「今はこれで良しとしましょう。モットーはあくまでさり気なくですもの」
「そうか? あれでは存在を知らぬ人の子はいざというとき頼れぬではないか?」
ククノチ神は草の根ネットワークの存在の薄さが非常に気になった。
「兄様そこら辺は心配ご無用よ! 徐々に正体は明かしていく手筈になってますわ。それに出番はこれからですわ」
カヤノヒメは、遠見の鏡に映し出された色とりどりのポーションを見つめるとフフフと微笑んだ。




