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英雄伝説ー奴隷シリウスの冒険ー  作者: 高橋はるか
傭兵時代
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逃亡ーウルの街八

それは、手甲と足環のようなものだった。

 ただし、普通の手甲と足環と明らかに違う点は、左右に手斧のような大きな肉厚で、身幅の広いブレードとでも呼べるような刃物がついていることだった。

 両腕の手甲に付けられた刃物は、身幅が斧のように広く、それでいて、拳の先に数十センチほどの長さでギラリと刃先が伸びている。

 両足の足輪に付けられた刃物は、腕のそれよりも刃先が薄く見える。ただし、身幅は、もしかしたら腕のよりも少し幅広かもしれない。

 まるで柄のない両手斧のようなその異質な武器を手首と足首に装着しだす。

 がちゃがちゃと嵌めたアイクは、ゆっくりと感触を確かめるように、拳を突き出し、足を振り上げる。

 その度に、両端に付けられた刃が風を切る、ひゅん!という音を聞く。

 その場で踊るように回転するアイクの動きに、誰もが魅入られたように見つめる。

 次第に速さを増していく刃の動きに誰もが目を瞠ったとき、ゆっくりと緩慢な動きに変わっていく。

 そして、ぴたりと動きを止めると、アイクは、ふう、と一つ息を吐き出した。

 おおおおおお!!!!!!

 思わずあたりから歓声が上がる。

 「すごい・・・・」

 アイクがそんな武器を使っているところなんて見たこともない。いや、そんな武器すら見たことが無い。

 「バランスはどうだ?」

 親父が真剣な顔でアイクに聞く。

 「おおむね満足だ。完璧とはいかないが・・・・。もしかしたら、俺の体が鈍っているだけかもしれんしな・・・・」

 頬を紅潮させ笑うアイクは、ひどく満足げだった。

 「ねえ、どうしてこれが「ガルガロスの八剣」って呼ばれているの?」

 確かに刃物は八枚ある。だが、ガルガロス、の意味はいったい何だろう?

 「俺の故郷の街の名前だ。「迷宮の街ガルガロス」。そして、この八枚のブレードを付けた手甲と足環の装着を許されるのは、今俺が使った格闘術を収めた者にのみだ。特別な兵の証だ」

 「へえー」

 「おいおい、こいつは簡単に言っているがな、本気にするなよ!この武器を身にまとう者を、恐れをもって「ガルガロスの八剣」と呼び、近隣の国々は彼ら特別な兵士たちを特に恐怖しているんだぞ!!ミダス王国でも一握りの人間にしか送られない至高の武器と、そして名誉ある名だ!」

 なぜかグラントが胸を張りながら自慢げに語る。

 「親父さん、いくらだ?」

 アイクが、ゆっくりと武器を外しながら尋ねた。

「いらねえよ。それと、俺の名前はヘイルだ!!」

 鍛冶屋の親父ヘイルは、金貨を出そうとしたアイクにゆっくりと首を振る。

 「ヘイルさん・・・そういうわけにはいかないだろう?」

 アイクは困ったように武器を返そうとした。その手を押しとどめる。

 「いらねえよ!!それはもともとお前の物だろうが!!」

 「壊れたところを直してくれたのはヘイルさんじゃないのか?それに、シリウスの剣も、かなり高価な物だろう?なにせあれは魔鉄と黒鋼石で作られた剣だ、違うか?」

 「なに、少し手間だっただけだ。それにな、あの小僧の剣を見て、まるで熱にとかされたみたいに刃こぼれしてた・・・。恐らく炎の魔法を使うんだろう?だとすれば、魔力をよく通す魔鉄と、どんな金属よりも硬く、そして、熱に強い黒鋼石で作った剣が一番使い勝手がいいと思っただけさ!!裏の山で採れる金属だ!!あんまりにも高いせいで、このスラムじゃ買い手がつかなくって埃をかぶってたのさ!!使ってやってくれ!!!」

 「それでも・・・・」

 アイクに倣って剣を鞘に戻し、しぶしぶ戻そうとした僕の手を押しとどめ、さらに何か言い募ろうとしたアイクの言葉を遮る。

 「でも、も、けど、もねえ!!!!俺がタダでくれてやるって言ってんだ!!ありがたく受け取れ!!!あの娘を助けるためなら、それぐらいしてやらねえと気が済まねえんだ!!!!」

 ヘイルは頑として金を受けとろうとしない。ならば武具を返そうとするが、それすらも突っぱねる。

 「その代わり約束しろ!!!!絶対生きて帰ってきて、あの娘を助けるってな!!!!」

 そこまで言われてしまっては引き下がれない。

 「分かった・・・・。絶対二人で戻ってくる!その時には、必ずシエラの病を治すと誓うよ!」

 「おお!!!いい顔つきになったな!・・・・俺たちはもう誰も、助けてやりたくても助けてやれないんだ・・・・。こんなこと、他人に頼むなんざ、かっこ悪いと思っている・・・・けど、それでも、願わずにはいられねえんだよ・・・・」

 ヘイルがゆっくりと吐き出すように絞り出した言葉とともに頭を下げた。

 「止してください」

 アイクが慌てて止めるが、頭を下げたまま動かないヘイルの目元からぽつりと何かが零れ落ちた。

 「死んでほしくねえなあ・・・・。いいやつら程、この世の中は早死にしちまう・・・・。まだ、あの子には死んでほしくねえなあ・・・。誰も、恩を返せてねえからなあ・・・・」

 アイクは、一粒、二粒、零れ落ちる雫を見て、そのまま、見て見ぬふりをしながら、ゆっくりと背を向けた。

 「絶対助けて見せるさ!!」

 「僕だって、必ず約束を守って見せるよ!!」

 そのまま、僕らは歩き出した。もうすでに旅の準備はできている。少し寄り道してしまうが、それでも、生きて帰ると約束したのだから、アイクの故郷には絶対に二人で帰って見せる。

 乗り込んだ船は、ニールと、グラントのもとから遣わされた三人の若い男たちが乗り込んで川岸を出発する。

 「それでさ!どこに月雫草があるの?」

 頬に当たる風が心地いい。

 甲板から見下ろす川は、広く、ざばざばと水をかき分け進む船は思いのほか速度が出ている。

 風をはらんで膨らむ帆が、ばさばさと音を立てている。

 船の上は外から見ていた以上に高く、見下ろす川岸が、普段と違った景色に見えて少し胸が高鳴った。

 「「水竜の祠」に向かっている。ウル湖にレッドストーン山脈の中腹から水が流れ出す洞窟だ」

 「え!?洞窟の中に草が生えるの!?」

 想像できなかった。普通、日の光の当たらない薄暗い洞窟などでは、不思議と草花を見なかったから。

 「ああ、月雫草は普通の草花とは違って、日の光の全く当たらない環境で育つからな。日の光に当たると、葉が焦げて、しまいには燃えてしまうんだよ」

 「へえー・・・・。どんな草なの?」

 「雫と言うだけあって、花が、首を垂れるように下に咲くんだが、花の根元から先端にかけて膨らんでいく、そして、まるで何かを閉じ込めているようにすぼまっていて、その花弁の中からうっすらと蒼白い光が漏れている・・・・。とても幻想的な花だ」

 「見たことあるの?」

 「ああ・・・一度だけ、迷宮の中でな・・・・」

 「へえー」

 「羨ましいですね・・・」

 急に後ろからかけられた声に驚いて振り向くと、何とも言えない表情のニールが立っている。

 「すみません突然・・・・。早くシエラに飲ませてあげないと、と焦る気持ちばかりで・・・・・」

 ぎょっと驚いた僕らに、ニールは素直に謝るが、それでも、アイクの言葉をうらやむ気持ちは抑えられないようだ。

 「いい機会だから聞きたいのだが、あなたたち夫婦とシエラはいったいどんな関係なのですか?」

 「あ、丁寧な言葉なんて使わなくてもいいですよ!」

 「そうか、じゃあ、ニール、お前も使わなくていいぞ」

 「いえ、これは性分なので、やめられませんね・・・」

 困ったように頭を掻くニールに、アイクはやれやれと疲れたように肩をすくめる。

 「じゃあ、好きなようにするといいさ」

 「ありがとうございます。で、僕とアンネとシエラの関係、ですよね?」

 そこで、ニールは一拍の間をあける。どこか遠い眼をして灰色に霞む山並みを見つめる。

 「今はもう亡くなってしまったんですけれど、シエラの夫でジーンと言う男がいました・・・。彼と、シエラと僕とアンネは、あのスラムの近くの孤児院で育ったんです。自分たちの生まれは知りません・・・・。ジーンとアンネは特に気が強くて、僕ら四人は、渋るシエラと僕を連れてよく冒険なんかをしていました・・・・。あの頃は楽しかった・・・」

 「それがどうして傭兵に・・・?アンネとジーンと言う男は別にしても、あなたとシエラが傭兵になるとは思えないんだが・・・?」

 「そうですよね」

 ニールは困ったように笑って見せる。

 「僕らも若かったんです・・・・。決定的だったのは、僕らがまだ十に満たない子供だった時分の話です。この街に旅の傭兵が姿を現しました。彼女は真っ赤な鎧に身を固め、同じくこの辺では珍しい真っ赤な髪色に、真っ赤な瞳のとても凛として美しい傭兵でした」

 髪の色が赤い?僕は今の今までそんなこと考えてこともなかったが、この世の中には、僕らのようにくすんだ茶色か、もしくはシエラのように黒か、ニコライのように輝く金色の髪色しか見たことが無いから、それしか色がないと思っていた。

 だが、アイクは違ったようで、少し懐かしそうに瞳を細める。

 「あの人・・・か・・・」

 「そう言えば、アイクさんはミダス王国の中でも、迷宮の街「ガルガロス」のご出身でしたね・・・。彼女も迷宮を見てみたいとおっしゃっていましたから、お会いしたことがあるんですか?」

 「ああ、あるな。俺がまだ子供のころ、親父と意気投合して、そのままうちに居着いた。まあ、迷宮を攻略した後はそのまま風のようにどこかに去って行ったがな・・・・」

 ニールは面白そうに笑う。

 「そういう方でしたね。あの方は。懐かしいな・・・。今どこで何をしているんだろうか・・・?元気にされているのかなあ・・・・?」

 「で、彼女がどうしたんだ?」

 「ああ、そうでした、彼女が、街に逗留した際に、お金の持ち合わせがないとおっしゃって、私たちの孤児院の近くの安宿に泊まっていたんですよ。その時、私たち四人のことが目に留まって、いろいろ戦闘なんかを教えてもらいました。まあ、一、二年で風のようにいなくなってしまいましたが・・・」

 「そうか・・・」

 「それで、あの方に憧れて、僕ら四人も傭兵になろうって決めたんです。もちろん最初は困難なことばかりでした。上手くいかないこともありました・・・・。死にそうになったことだって数え切れないほどあります。それでも、今思い返せば、僕らは幸運だったんです・・・・。いろいろな方に助けてもらって・・・・。運に恵まれて、傭兵として身を立てることができたんです・・・・」

 「ただし、そこでシエラが病に侵された・・・」


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