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十六話『星野澪vsガリウス・アーリウス』







 「ッ! latgs(アイアス)!」


 ――逃げる時間も王を逃がす時間も無い。

 投擲される寸前でガリウス・アーリウスは短い単語を発する。

 それは簡略化された魔法陣、防御壁を張り、備えるがやすやすと破られる。


 「ぐっ!」


 肩に当たった手斧は身体に着けていた鎧を破り、肉を切り裂いて後ろへと飛んでいく。

 全身に鎧をまとい、その鎧にも防御魔法をかけているにもかかわらずそれを突破したことに思考が停止する。


 「――sbls,msal(捕えよ、縛れ)!」


 だが、それも一瞬で簡略化した捕縛魔法を使い、星野澪を捕らえる。

 数秒でも保てば王を逃がせる。そう考えていたが――


 「効くなんて思っているのかしら?」


 何でも無いとばかりに千切り、すぐに動けるようになった。


 「王よ、お早くお逃げを!」


 それを見てガリウスは背に背負っていた盾と剣を構え、星野に飛びかかる。


 王には悪いが、全力を出さねばこちらがやられる!


 それを見越していたように槍で突いてくる。穿つような突きを盾で決して受け止めず、威力を流すようにしていく。

 突き流した後、剣で斬りこむ。

 それを体捌きだけでかわし、槍を横に薙ぐ。

 体の横の位置にいたガリウスはなすすべなく槍によって飛ばされる。


 「ぐぅっ!」


 空中で体制を直し地面に着地したのと同時に駆け出し、星野に向かう。


 「|Gnjk,Mmos,lwler《火よ、水よ、雷よ》!」


 「――ashed(放て)!」


 三種類の属性魔法を玉のように宙に出現させ、放つ。バラバラだが一点に向かったそれは強力な一撃であった。


 ――当たれば、であるが。


 それら全てが当たる前に星野の姿が地表から掻き消える。

 一拍置いて気付いたガリウスは星野の姿を追い、空中を見る。


 「――――」


 そこに星野はいた。空中を飛びながら、獲物を捉え、仕留める目をこちらに向けていた。


 「――ひっ」


 悲鳴が漏れる。構えられ今まさに投擲されようとしている槍が何よりも恐怖を助長した。


 ――瞬間、空気が避けた音がした。


 「――――――あ、がはっ」


 遅れて金属の音と何かが潰れる音が聞こえたがそれが何なのかを知って手遅れだと悟った。


 左胸――心臓部分に大きく穿たれた穴が存在していたからだ。

 そこから思い出したかのように血が噴き出していく。口腔からも血を吐き出す。


 悪あがきのように数歩たたらを踏み、右手を前に出す。ガリウスが魔力を絞り、最期の魔法を放とうとして――


 「邪魔だ」


 無慈悲にもそれは星野の一撃により意味はなくなった。首を斧で両断、というよりは切り潰すという方がピッタリするほどぐちゃぐちゃにガリウスの首と胴体は泣き別れした。


 ガリウスの死体に目もくれず逃走していた王を探す。


 すぐに見つかった王は無様にも着飾った衣装を振り乱しながら走っていた。


 それを一瞥して星野は持っていた斧を王に向けて投げる。


 斧は一直線に進み、王の右脚を、膝から下を切り落とす。


 「――――っ!」


 「逃げるな、黙って転がっていろ」


 転がる王に向かって近づいていく星野。王は尻餅をつきながら後ずさり、しかし声を上げずに耐えていた。


 「お前を殺すのは『私』じゃあない。元帥を含む『私たち』だ。普通に殺す? 殺してやる? 思い上がるなよ」


 転がっていたただの槍を拾い上げ、王に突き刺し、そのまま縫い付けるように地面に突き刺す。

 うめき声をあげて耐えているがそれもいつまでもつか。しかしそれっきり興味もなくなったかのように視線を別のものに向ける。


 「……しかし、あの小娘が『あの女』を殺した、ね…………実感がわかないわねアレを見ても」


 星野澪は旗槍を回収して小娘――イシュタル・ブランシェルと轟大河、古手悠の戦いを傍観していた。

 イシュタルは前までの幼い容姿ではなく、前魔王の面影を感じさせる容姿と雰囲気を醸し出していた。


 「…………」


 思考にちらついたあの女のことを思い出しながら、槍を持ち直す。


 このままただ傍観しているつもりはない。『あの女』には忘れた物(借り)があるのだ。私も参加するとしよう。


 槍を投擲するために構える。ビキビキと、ミシミシと軋みを上げながら溜める。


 元帥の一刀が弾かれ、大きく仰け反り、小娘が動いた瞬間に星野は動いた。


 ――ただ愚直に槍を投擲する。それだけだ。放たれた槍は吸い込まれるようにイシュタル・ブランシェルの左肩に突き刺さる。


 ニヤリと笑いながら私も二人に混ざる。


 戦争はまだ始まったばかりだ。




 

 

明日の十二時に投稿します。

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