九話
アイフォールを倒したことなど露知らず、ひたすらと目の前に広がる有象無象を蹴散らし前へと進む悠を含めた三人――そして他の八人はそれぞれの目的のために動いていた。
「――――こっちだ! はやくこい!」
男が避難を仰ぐ、軽いパニック状態になりながらも民たちは避難を続ける。 民たちが暴発せずに避難できているのはひとえに支持者の功績が大きかった。
「こっちだ、そうそう、慌てないで!」
アルト大国剣客が一人、アレン・ヴェルサス。剣客の中でもっとも強いとうたわれる人物だった。
整った顔立ちに、赤い短髪を汗で汚しながらも民たちを懸命に避難させていた。
そんな時――
「――ッ!!」
なにかに気づいたアレンは腰に下げていた剣を抜刀し、振るう。すると固い物とぶつかり、一瞬だけ火花を散らせる。
「――――見つけたわ、やっと」
ぞわっ、と背筋が粟立つ。
底冷えする声で告げられた言葉でアレンは目の前にいるやつが自分が目的だと知る。
民たちはすでに恐慌状態に陥っており、我先にとでたらめに逃げていく。
「くっ、き、貴様は!?」
剣と槍で激しい鍔迫り合いを起こし――しかしそれも長くは続かず、力負けするアレン。
「ぐうっ!」
弾き飛ばされはしたもののすぐに体勢を立て直して目の前の化け物に向き直る。
(――なんという殺気、なんという力か!)
全身を串刺しにされたかのような痛いくらいにピリピリとしたものを肌で感じながらアレンは相手取っているものに少なからず恐怖を覚える。
「問おう! 貴様は何者だ! あの時の――旧NATO領の生き残りか!」
そう問うアレンに相手はゆっくりとそれに答えるかのように動き出す。
旗槍の石突き部分を地面に突き立て、薄ら笑いを張り付けた口を開く。
「――NATO国家【少尉】駿河千歳。 あぁ、お前は名乗らなくても分かるわクソ野郎」
腰にぶら下げていた鉈をゆっくりと抜き、アレンに刃先を向けて言い放つ。
「――――お前に殺された私の仲間への手向けとして死ね」
「こっちであーる!」
独特なしゃべり方で人々を誘導していく大柄でスキンヘッドの男――剣客グランツ・ワイナールの元にも一人。
「――ぬ!?」
背にした大剣を掴み、気配のした方へ腕力で振り回す。
風を切る音に鳴り響く金属音――相手が分厚い鉈で受け止めていたのだった。
「貴殿は――」
喋ろうとしたグランツだったが目の前にいる化け物がそれを阻む。
「――――NATO国家【中佐】 匂宮慎二。切り潰された仲間のように頭を握り潰して切り刻んでやる」
「…………」
城下町を静かに見下ろす剣客の最後の一人、ベイリス・マグナ。
悲鳴と破砕音が聞こえるなか、ゆっくりと剣の柄に手をかける。
――――次の瞬間。
ギィィィィンッ!!
横合いから致死確定の速さで飛来してきたものを上回る速さで抜刀し弾き飛ばす。
「……手斧?」
地面に刺さったそれは血に塗れ、刃も柄もボロボロになっており辛うじて形を保っているかのように見える手斧だった。
ジャリッ。
音の方向を見るとそこに、恐らく投げたであろう人物が立っていた。
その姿はまるで化け物のようだった。
蜃気楼のように立ち上る殺気、ボロボロの服、火傷など無事な場所が見当たらない。
「NATO国家【大佐】我道正志。我らが同胞にやったように首を切り落として死ね」
すでに城の内に入り込み次々にほふっていく五人。 意図せずに集まった五人、齋藤駿、後藤正俊、内藤正樹、名桐守、斉藤薫、皆目的は一緒だった。
手斧や鉈、カルカノM1891を撃ったりして敵を殺していく。
その時、全員の足が止まる。
「――まったく、あの時に死んでおけば良かったものを」
「殺しきれてなかったのか、それは俺としたことが失敗たな」
「…………」
三人とも軍服のようなものに身を包み、その上から白衣を着ているものもいた。
「今さらのこのこと出てきたところで過去の異物がしゃしゃるな、さっさと舞台からご退場願おうかフロイライン」
しかし彼らはそんな言葉など聞いてないかのようにニィッ、と口角をつり上げる。
「――会いたかったぞ堂島中尉、高橋軍曹、伊東軍医」
内藤正樹が代表するように告げる。
「名桐、薫、お前らは行け。邪魔だ」
「お前らもさっさと見つけてこい」
ギラギラと目の奥を煮えたぎらせながら斉藤薫と名桐守に言う三人。
「逃げられると思ってんのか? お前らはここで――――!?」
眼前に現れた内藤正樹は鉈を思い切り振り下ろす、堂島は咄嗟に軍刀で防ぐ。耳障りな金属音が響き渡り、次いで呪詛のような声色で告げる。
「無視してんじゃねえぞ!」
次に動いたのは高橋軍曹だった。
ホルスターからグロック18Cを抜き、内藤に向かって発砲――しようとした。
「ッ!?」
グロックに横合いから吹っ飛ばされそうになるほどの衝撃を受けた。見てみると金属片のようなものがスライド部分から生えていた。
そして後ろから肩に手を置かれ、
「オ前ノ相手ハ俺ダゾ」
ゾッとするほどに感情のこもっていない声で告げる後藤正俊。
「…………!」
伊東軍医も同じように動き出していた。
ポケットからM26手榴弾を二つ取り出す。片手でそれぞれの安全ピンとジャングルクリップと呼ばれる安全装置を外し投擲する。
しかしそれは齋藤駿によって阻まれていた。
二つとも空中で掴まれ、安全装置と信管かついている部分をねじ切られ、外に向かって投げ捨てられる。
「お前は俺だ」
駿は伊東軍医を見て呟く。
「NATO国家【大佐】内藤正樹。お前は仲間でありながら俺らを売った一人だ――死んでいった仲間の痛みをその体に刻み込んで殺してやる」
「NATO国家【中佐】齋藤 駿。お前に殺された友と無辜の民たちの念をきざみこめ」
「NATO国家【二等兵】後藤正俊。裏切り者には死を」
三人が戦闘を始めてすぐに守と薫は動き出し、そして怨敵を見つけ出していた。
「――ヒョウ! あぶねぇ!」
「うおっ!?」
高速で飛来する物体を間一髪でかわす二人の人物。どちらも肌の色は人や獣人とは違っていた。
「――魔王軍の破壊の使者『ゲパート・ブルックス』だな?」
魔王軍の中でもトップクラスに強い『使者』の位を持つ魔族に斉藤薫は問う。
「――――斬殺の使者『ブレンダン・アークス』だな?」
同じく使者の位を持つ魔族に名桐守は問う。
「そうだぜ、それがわかって挑んでくる命知らずなバカがなんのようだ」
「言いたいことはただひとつだ」
旗槍を片手に、手斧、カルカノM1891を片手に。
「NATO国家【大尉】斉藤薫。我らの受けた痛みを知れ」
「NATO国家【一等兵】名桐守。お前は殺す」
それぞれが戦いを繰り広げているなか、悠、大河、澪の三人もまたただならぬ空気を纏っていた。
「――――待っていたぞ、旧体制のNATO国家の残兵ども」
三人の先には、
「チッ、やはり来たか忌々しい」
「あれで生きているのですからしぶといですね」
元魔王であるイシュタル・ブランシェルと【元帥】長谷川竜二、ガリウスが。
「………………」
奥には玉座に座る国王アルト・ヴァン・テレウスがこちらを憎々しげに見ていた。




