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11 共鳴する力

 銅像のお化けはゆっくりと手をのばしてきた。

 ぼくは動けなかった。

 雪にうもれて、寒くて冷たいはずなのに、それも分からなくなった。


 銅像のお化けの手がぼくの頭を上からつかんできた。


 ぼうしをかぶってこなかった。

 頭につもっていた雪の上から、がっしりつかまれた。


 ゆっくりとしめ上げてくる。

 いつも感じる頭のいたさとちがういたみがおそってきた。

 いたぶるみたいに少しずつ、ぼくの頭を銅像のお化けの手がにぎりつぶそうとしていた。



 いたすぎて、こわすぎて、ぼくは頭が真っ白になった。



 




 歌が聴こえる。

 知っている。

 うちの小学校の校歌だ。


 銅像のお化けの手が止まった。


 歌が続く。

 だんだん大きくなる。

 近づいてくる。


 一人じゃない。

 声がかさなる。

 また声が増える。

 音がはっきりしてくる。


 銅像のお化けの手が、ぼくの頭の上で小さくふるえ出した。




「もっと声出せ!腹から出せ!行けるところまで行くぞ!」




 あれは太郎君の声。

 おぼえがある。

 去年の合唱コンクール。

 やる気のなかった人まで、ついついその気になってしまった、太郎君のミラクルボイスだ。



 校歌のボリュームが大きくなる。

 歌詞まではっきりと聴こえる。

 泣き声もまざっていて、音程はずれたりしているけど、すごく大きな声だ。




 銅像のお化けの手が、ぼくの頭をはなれた。

 ぼくは、ふりかえって歌声がしてくるほうを見た。



 近かった。

 本当に近いところに来て、みんなが歌っていた。

 3メートルくらいしかはなれてない。


 雪のまじる風にふかれながら、みんなは足を肩はばに開いて、うでを後ろに組んで、大きく口を開けて、泣きながら歌っていた。




 ぼくは、一人で戦ってはいない。


 


 いつものメロディ。

 べつにそんなに好きじゃない歌。

 でも、とてもよく知っている歌。


 気がつくと、ぼくも校歌を歌っていた。

 体がおぼえている歌。

 考えなくても歌える歌。




 みんなの声がひとつになった。




 雪の中から光がさした。

 虹色の美しい光だった。


 みんなの声が光になったみたいだった。


 ぼくは、急いで雪をかきわけて、落としてしまった白い石をさがした。

 光は、白い石から出ていた。


 ぼくの手はかじかんで、うまく動かなかった。

 てぶくろもしていなかった。


 手をスコップみたいにして、雪をほった。



 見つけた!石だ!



 ぼくは最後の力を使って石をうめこんだ雪玉を作った。

 あんまりきれいな形にはならなかった。




 雪玉は虹色にかがやいていた。




 みんなの歌声に共鳴して、雪玉はビリビリとふるえた。


 ぼくは銅像のお化けを見た。

 銅像のお化けは、歌声も光もイヤがっているみたいだった。


 じりじりと後ろに下がる銅像のお化けに向かって、ぼくは雪玉をもって走って行った。

 確実に当てなくては!





「くらえ!サイキックトルネード!」





 ぼくの知っている中で最強のワザだ。

 はずかしさも何もない。

 とどめはいつもこのわざだから。

 ぼくの心の力を使うなら、これしかないのだ。




 転びながら、雪玉を銅像のお化けのむねに投げ当てた。

 雪玉は銅像のお化けのむねに当たって、そこから虹色の光が広がった。


 ひときわ大きな歌声がかさなった。




 銅像のお化けの悲鳴がひびき渡った。




 虹色の光が風になり、うずをまき、心も体も吹き飛ばされた。


 銅像のお化けが見えなくなった。

 雪もみんなも見えなくなった。


 寒さもこわさも、何も分からなくなった。

 全部が虹色になった。

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