エピローグ 前世のその後
アーイシャを屋敷から追い出したあとも、サキートの怒りは消えなかった。
彼はハビーバが死んだのはアーイシャのせいだと思った。だからアーイシャが平民になって仕事を探していると知ると、その仕事まで潰した。
それでも気持ちは晴れなかった。
アーイシャがいなくなれば、この憤りは消えると思っていた。
けれど何も変わらなかった。
ハビーバは帰ってこない。自分が失ったものも戻らない。それでもサキートは、自分が悪かったとは考えなかった。
仕事で問題が起きれば部下のせいにした。領地の収入が減れば使用人を責めた。親族と揉めれば、相手が自分を裏切ったのだと言った。
一人、また一人と、周囲から人が離れていった。
それでも本人は気づかなかった。
やがて財産も減り、屋敷には誰もいなくなった。食べるものさえなくなっても、サキートは誰かが助けてくれると思っていた。だが、誰も来なかった。最後に残ったのは冷たい屋敷と、自分を正当化する言葉だけだった。
「俺は悪くない」
そう呟きながらサキートは一人で死んだ。
餓死だった。アーイシャと同じように。
けれど二人の人生は同じではなかった。
アーイシャは誰かを恨み続けて死んだわけではない。
最後まで、自分の人生を生きたいと願っていた。そして今生の彼女はその願いを叶えた。サキートの居ない場所で新しい友人ができ、知らないことを学び、知らなかった景色を見た。
前世のアーイシャにはなかった毎日だった。
◇◇◇
窓を開ける。春の風が部屋に入ってきた。
アーイシャは空を見上げた。
もう、あの屋敷を思い出しても彼女の胸は痛まない。
もう誰かの妹でも誰かの妻でもない。
アーイシャはアーイシャの人生を生きていく。
微笑みながら、彼女は新しい一日を始めた。
伯父様のことは省きました〜(家督はサキートに継がせ、領地に引っ込んでます。が、前世ではアーイシャが亡くなる前に亡くなっているということで!)




