消せない記憶
この時からだろうか、俺が"生きていてはいけない存在"だと思うようになったのは――
「君が今すべきことは、この世界を変えることじゃない。」
俺のすべきこと…世界を変えること…託されたこともできないなんて、そんなの生き返った意味がないじゃないか。
「違う…違う!俺のすべきことはこの世界を変えて、破滅を阻止することだ!じゃないと俺が今ここにいる意味がないじゃないか!!」
ハユンは真剣な眼差しで俺の目を真っ直ぐ見つめている。俺も目を逸らさず真っ直ぐハユンの目を見る。
「破滅を阻止するには君のその命がないと叶わない。死んだらそれで終わりだ。」
「そんなことわかってる…わかりきっている。」
「いいや、君はわかっていない。」
「出会ったばかりの貴方に何がわかるって言うんだ。」
「ついさっき見せただろう。」
ハユンは俺の正面のソファーに腰を下ろす。そして落ち着いた口調で言った。
「ヤマトくん。君の中にはひとつの小さな箱がある。」
「…はい?何言ってるんですか?」
「比喩表現だと思って聞いてくれ。」
そう言うと、足を組み直して語り出した。
「君の中にある箱は、親友との楽しかった記憶、悲しかった記憶、全ての記憶が詰められている。そして親友が死んだことによってその重みに耐えきれず、君は自ら蓋をした。」
俺が自分で冬真を忘れようとしたってことか?
「そんなはずない。俺は今でも冬真のことをはっきり覚えています!」
「それは私が君の記憶の箱を開けてあげたからだ。」
記憶の箱を開けた…?ハユンはそんなことが出来るのか?でもハユンの異能は時間を操る能力だよな?
「驚いた顔をしているな。君は知らないだろうから教えてあげるよ。この世界には異能だけではなく、スキルというものも獲得できるんだ。」
異能とは別にスキルも使えるのか!?そんなの審判は教えてくれなかったのに。
「ハユンさんはどんなスキルが使えるんですか?」
「いくつかあるが…さっき使ったスキルだけ教えてあげるよ。」
1人につきいくつもスキルを使うことが出来るのか。
「さっきヤマトくんに使ったスキルは精神系のスキルだ。先程のように触れた相手の頭の中の記憶を呼び起こすことが出来るんだ。」
「それであんな夢みたいなものを見ていたんですね。」
「その通りだ。記憶に蓋をすると同時に君は感情にも蓋をした。だから親友の死についても君は平常でいることができたんだろうな。そこに大きな刺激が加えられた。」
刺激って刺されて死んだことか?それとも転移したことか?思い返すとこいつは俺のことを知っているようだった。
俺がお金を持ってないことを知ってたし、ギルドのことを教えてもらった時も"この世界は"と言っていた。まるで俺がここへ来たばかりだと知っているかのように。あいつだけ俺のことを一方的に知っているみたいだった。
「箱が割れて感情が爆発しないよう、私がそっと蓋を開けてあげた。だから今その程度で済んでいるんだ。」
ハユンは口角を上げて笑っている。でも…目は少しも笑っていなかった。
「このまま放置して爆発していたら君はきっと…ここで生きることはできないだろう。」
その言葉にドクンと心臓が跳ねる。
「どうして…」
「君の力が必要だから助けた…今言えることはそれだけだ。」
少しの間見つめ合い、沈黙が流れる。
「貴方は一体、何者なんだ…?」




