/// 72.キュルの武者修行
◆エルザード帝国・ウェストダンジョン・381階層
アンジェたちがノースダンジョンで修業している時。キュルは一人ウェストダンジョンに潜っていた。
キュルの両手には装備 『竜撃の爪』も『氷撃の爪』も身に着けていない。まさに身一つの修行の日々であった。
唯一、外すことのできない『神徒の魔力輪(女神の加護)』は装着されているが、キュルのソロ狩りでは、それはもう役に立たない無用の長物であった。
そんなキュルの元にはたくさんの魔物が集まってきている。
目の前の『ブラックパンサー』の群れの中を高速ですり抜け、その翼で手足切り裂いていく。鋭い爪で首をがしりと掴んでは次々と絶命させていく。
その姿は時に優雅に、そして荒々しく野性的に。そんなキュルの孤独な武者修行は続いていく。
アンジェとは290階層まで来ていたのだが、そこからは一人必死に努力してきた。
その甲斐あって今では400階層を突破することができた。心なしが体も大きくなっている。
ベリービットからは「おまえはウェストダンジョンに行け」と言われてしまう。そして「喰え」とも・・・
キュルは聖神竜とクラスアップしているが、竜は竜。ということで基本は他の魔物を喰らうのが正しいレベルアップだと言われたのだ。
そしてどうせなら美味い方がいいだろうと、獣系のウェストダンジョンを指定されたようだ。
とはいえキュルは、これでもアンジェと共に数々の高級食材、美味しいものを食べてきた。そのためキュル自身も正直不安はあった。なにを今更、火の通していない肉なんて・・・
そう思っていた時期もありました。
初日で嫌々肉を頬張り続けて1時間。なんとも野性的な風味と内から溢れるようなエネルギーを感じて、今ではもうバリッバリである。
そう。骨まで丸ごとバッリバリである。
実際、体は少し大きくなった程度であったが、その翼や力を少し込めただけで鋭い飛行を可能とした。
その爪にもたっぷりとカルシウムが行きわたっているためかは不明だが、鋭い攻撃を繰り出せるようになった。
最初は苦戦していた300階層の魔物たちも今ではただの落ちているご飯であった。
拾い喰い天国であった。
毎日着実に下へと階層を上げていくキュル。
アンジェと離れ一人単独活動を続けるキュル。
孤独な戦いを続けているのだが、その腕にはしっかりと魔道障壁付きの最新モデルの魔道計が装着されている。
午後6時にアラームがなると、嬉しそうに鼻歌を歌いならがちゃんと帰宅して、アンジェの胸に潜り込むキュル。
『ママの温もりを感じないと野性に帰りそう』
・・・と言ったかどうかは定かではないが、毎晩たっぷりと甘えていくキュルなのでした。
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