/// 64.事案発生
今月より火木日の週三回の更新となります。
◆エルザード帝国・ノースダンジョン・295階層
「【壁】!」
ローライドの声と共に、『アクアドラゴン』の開いた口の前に光の壁が出現する。驚くその竜の横には【神速】で移動してきたアンジェの蛟の一撃が繰り出され、その首は落とされる。
当然のことながら、アンジェは【守護者】【力の根源】【神回避】【鷹の目】というルビリアの付与4点セット付で動きも格段と上がり、あの日のエルザにも負けない動きができているかも!と思ってしまう。
一息つきながら周りを見渡すアンジェは、同じく双子ちゃんの支援を受けつつ『アクアドラゴン』を氷漬けにしているキュルを眺めていた。
双子ちゃんとパーティを汲むようになって数か月。アンジェたちは各ダンジョンを回り、それぞれで300階層に迫るところで日々狩りに明け暮れていた。連携も良くなりスキルの効果も向上しているようでこの階層でも問題なく活動ができている。
アンジェとキュルの二人であれば、ギリギリの戦いを強いられる魔物たち。当然死ぬほどではないにせよ、このように楽々狩りができるのは、ひとえに双子ちゃんのサポートがあってのことであろう。
狩っている魔物はイースト地区の素材以上のものがゴロゴロとれているため、双子ちゃんは7歳にしてBランク冒険者となっている。
もうそろそろ、どこかのダンジョンの300階層のボスをこのパーティで討伐してみたいという思いはあった。おそらく安全に討伐することも可能であろう。もう少ししたら双子ちゃんにも聞いてみよう。初めてのボス戦はきっと良い経験になる。そう思いながらお昼となりギルドへと戻っていく4人であった。
ここ数か月、何度か英雄連合所属と思われる冒険者集団と遭遇するが、特にトラブルとはならなかった。遭遇する度にニヤニヤとこちらを見ているその男達に恐怖は感じるが脅威は感じていなかった。たとえ10名ほどの大人数パーティ相手であっても、負ける気はしなかった。
そんな6月の日常は過ぎていく。
◆大樹の家・執務室
「ふう。今月何通目かしらね。いい加減諦めてほしいのだけど・・・」
「本当に・・・陛下に上申して正式な抗議をおくりますか?」
「そうした方がよさそうね。最近はギルド前にも帝都外からきた教会関係者が集まって何やら布教活動しているとか・・・」
「しかもアンジェ様を神都にと声を張り上げてますからね。滅したくなります」
この大陸の南部に位置する神国ゴッデスサルクからの、親書に苦慮しているのは、聖母ラビと副ギルド長の一人ユリアーナ。聖女とされているアンジェと聖母ラビを神国で祭り上げるため、連日ゴッデスサルクへの訪問を打診する連絡が届けられている。
もちろん訪問する場合には、最悪向こうで保護という名の監禁まで考えられる。それほどに神国においての聖女の確保は重大事項である。大事に至る前にしっかりとした対応が必要だとラビも感じていた。
その後、エルザに連絡したラビは『うざったいわねー面倒だけどバイゾーに言っとくわ!』と告げられ、まあこの件はこれで落ち着くだろうと高を括っていた。実際しばらくしてから書簡やギルド前の喧騒も収まっていたのだ。
そして事件が起こる・・・
◆ ◆ ◆
エルザに任せて数週間。
執務室に急ぎ駆け付けたギルド長カトリーヌは手短に用件を話した。
「ルビリア様、ローライト様、両名が攫われました」
「どういうこと!」
丁度ソロ狩りから帰ってきて汗を流し終えたアンジェも、執務室へやってきて様子を窺った。
「お昼頃、姿の見えない両名をルームメイトの子等が探していたところ、冒険者ギルドのカウンターに、冒険者の男から書簡が届けられました。こちらがその中身です」
ラビは急いでその二つに折りたたまれた書簡を開くと中身を確認しはじめた。アンジェもたまらず覗き込んでいる。
「これを持ってきた男は!」
「詳しくは分かりません。あまり見たことのない冒険者でしたが、『英雄連合は神国を支持する』とだけ言っていたそうなのでその関係者かと」
「神国に英雄連合・・・やっかいね」
「エルザ様にお伝えしますか?」
「その方がいいわね。お願いするわ」
「はいすぐに・・・」
急ぎ執務室を後にするカトリーヌ。
その書簡の内容をざっくり説明すると、双子ちゃんは天使様なので解放するためこちらで保護した。聖母、聖女も保護するため我々神国は協力は惜しまない。帝国は報いを受けよ。素直に聖女、聖母を解放しなければ武力行使も辞さない。といった一方的な内容であった。
アンジェは今すぐにでもこの部屋を飛び出し、双子ちゃん救出に赴きたかったのだが、ラビに強く止められまずはエルザが来るのを待つことでしぶしぶ了承した。おそらく半日も立たずにやってくるであろうエルザを待つため、ラビの腹筋に顔をうずめ冷静を確保した。
エルザがレッドドラゴンにまたがり、ギルドまでやってきたのは夕方過ぎであった。
当然ながらこのレッドドラゴン、ドラゴマウントの管理者でありアンジェが討伐したものの次世代のドラゴンであった。だが記憶は受け継がれている。アンジェの水色の髪を見るや否や、逃げ腰で飛び立とうとしたところを、エルザにむんずと足をつかまれ、いつでも動けるようにと念のおされて近くの森に鎮座することになった。
「じゃあ、行くわよ!」
夕食をしこたま腹に収めたエルザの一言で、アンジェ、ラビ、キュル、ユリアーナ、そしてエルザが神国へと乗り込むことに決定した。
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