/// 49.マッチョとガチなバトルロイヤル
◆イーストダンジョン・49階層 / 魔窟
先日はたった1日でさっくりと48階層の攻略が終わったアンジェ。
その翌日にはイースト南東の守護者『レッドドラゴン』が鎮座するドラゴマウントでちょっとした大事件があり、名実ともにドラゴンスレイヤーの称号をえることになったアンジェであった。
そんなこともあり、本当は48階層でじっくり無双して素材をため込む予定だったのだが、次の階層へと進める意欲が湧き溢れて止まることのできないアンジェが、今日は朝から49階層にいた。
まず気になるのは神殿っぽい建物のそれぞれの中央にある石像である。
前世の知識でこれが動き出してーなんて話もよくあるので警戒して近づいてみる。そして何事もなく通り過ぎる二人。危険察知は反応しない。予想がはずれ少しだけがっかりしながら足を進める。目指すはいつもの赤い空。
遠目に何やら巨大な何かが動いているのはちらほらと見えていた。神殿の柱やそれに付随する装飾や壁?のようなもので視界はそれなりに遮られているが、基本見通しの良いこの階層。魔物の群れがあちこちに存在することは見て取れる。
そろそろ一番近くの群れがお互い気づく距離となる。
それでも足を進め、いよいよ相手の姿かたちがはっきり見える距離となった。鑑定リングはまだ認識できないのだが、何やら巨大なオーガっぽいのが3匹ほどであろうか。左右にも結構近くに群れが見えるのでもしかしたら戦闘が長引くと集まってくるかも。そんな心配をしながらも近づいていく。
やっと鑑定リングが認識する距離まで近づく。『オーガキング』そのままか・・・青い筋肉質な鬼。頭にはいびつに曲がった二本の大きな角。口からは牙が見え、赤い目がこちらを睨みながらゆっくりと近づいてくる。
まずは先頭の1匹がこちらに向かってくる。後ろの2匹は待機してこちらを窺っている。
正々堂々のタイマン勝負?それとも余裕?手の内を探っている?なんて思いながらもいつものパターンで様子を見る。神速で背後まで回り込んで首筋に蛟を・・・と思ったら超高速で振り返るオーガキング。
そのまま叩きつけようと思ったが危険察知が反応するので、一旦攻撃をやめるとそれにカウンターで合わせて拳が飛んできた。その拳を蛟で受け止めその勢いで後ろに飛んで距離を取る。
アンジェのS+2となった速度にも反応する中々の反応速度。もしかしたら何かスキルがあるのかもしれない。鑑定リングももう少し性能が良いものはないものか。それなら鑑定持ちがいらなくなるか。とそんなことを思っていた。
それではと今度は真正面から突っ込む。聖浄の炎を左手に纏いその青い炎をオーガキングにかざすが、どうやら無意味であったようだ。左手の蛟で攻撃を繰り出すと、腕を前に出されガードされてしまった。
それでも腕には傷を付けれたようだったが、先ほどは背後からの動きに反応されたのに今度は普通にガードされただけであった。もしかしたら不意打ちが無効でカウンターが発動するようなスキルなのか?
そう思いながらも『聖浄の炎』呟いて青い炎を飛ばすが、それは腕で軽く掃われてしまった。やはりアンデットとか闇属性のものにしか効かないのか?という結論に達した。
それではと左手には火竜の杖を持って突撃する。目線を隠すように炎の渦を飛ばすと、顔をめがけて一撃を放とうと蛟を強く握りしめる。そして危険察知が反応するので進路を変えて横に飛ぶ。
そこにはやはり振りかぶった態勢でオーガキングが拳を振るっていた。これは正真正銘のガチ攻撃しか駄目なのか?この階層だって何とかなるかな?と軽く考えっていたのだが、ここにきてなんとも相性の悪い相手である。
おそらく蛟に魔力をこめたあの一撃ならいけるかな?とも思ったが、相手はまだまだ待機している。横なぎで3匹まとめて?いやいや、近場にまだ他の群れもいる。あれを放つとしばらく回復までは動きが鈍くなってしまうアンジェはその攻撃は最終手段だと考えた。
結局、小細工なしの力勝負を挑むこととなったアンジェは蛟を強く握りしめ、オーガキングに突っ込んでいく。目の前のそれを注意深く観察しながら素早い斬撃を放つ。時にガードされ反撃のワンツーが飛んでくる。
ひらりと躱してさらに腕を振る。2回、3回とその攻防は続けられるが、結局1分程度の時間でアンジェの攻撃がオーガキングの首筋にクリーンヒットしてその戦闘は終わりを迎えた。
勝負は終わったが、まだ背後には二人のオーガキングが待機している。そして今度は2匹がゆっくりと前に出てきた。不意打ちNGのスキル持ちのくせに2対1は卑怯じゃない?とは思ったが、相手は魔物だしょうがない。
臆することなく飛び込むアンジェは、結局2匹に増えようとも、相手の攻撃を先読みするように躱しては切るを繰り返す。結局1匹のオーガキングを倒しきると、残りの1匹も難なく討伐していった。
それなりに時間がたった戦闘ではあったが、どうやら周りの群れは近づくことはないようだった。いまいちその習性が良く分からないとは思ったが、あまり気にせず先へ進んでいった。
そして次の群れでは、様子見は終了とばかりにキュルも参戦。5匹の群れであったがキュルの真空刃を皮切りに5匹全員が襲ってきた。空中を旋回しながらの真空刃に腕を払うなどで反応するオーガキングたちを、アンジェが突撃して狩るのは本当に楽なお仕事となってしまった。
どうやら二人で戦うのであればこの階層も余裕がある結果となってしまった。
最初の戦闘時にキュルが参戦しなかったのは、タイマン勝負からの流れでそうなってしまったのか?それはキュルにしか分からない。
その後もいくつかの群れとのバトルが繰り広げられるのだが、まったくの危機感を感じることなく、もはや面白みに欠けるといったところであろう。そしてそのまま次の階層へとつながる階段までたどり着いたのは、これからお昼といった時間であった。
一旦休憩となり、収納から今日のお弁当を取り出して寛ぐ二人。今日はラビさん特製、サンドドラゴンの贅沢サンドというお値段がつけられないおいしさのサンドイッチを頬張った。
◆イーストダンジョン・50階層 / 魔窟
美味しいランチタイムは終わり、次へと進むことを決めたアンジェは階段を下りていく。
アンジェとキュルが階段を降りると、そこは小さな小部屋であった。目の前にはボス部屋と思われる大きな扉が待ち構えている。そしてその扉の横には、ご丁寧にも案内板と思われる石板に説明書きが添えられてあった。
『よく来られた強き者よ。これより汝は選択を迫られる。自信なきものは帰られよ。そこになんら制限はなく、またのお越しをお待ちしてる。扉を開けし強き者よ。これより戦うは5人の神の代行者。付き添いはいいけどタイマンだ!不正は許されないマジ勘弁。神を倒せしその時は、最後の戦いに挑む事となる。時は来た!さあ戦いの時だ!何度でも何度でもネバーギブアップ! by -神-』
アンジェはその石板を何度も読み返した。
そして頭を抱えた。
これは異世界語の翻訳が悪さをしているのか?それともこれがそのまま書かれている内容なのか・・・軽く戸惑いながら、内容的にはこっから5連戦、多分中ボスラリーといったところか、と考えていた。
そして終わりを迎えるということは5連戦で終わり?それとも最後の戦いが別にある?すっかりその石板で毒牙を抜かれたアンジェは、進もうかどうか迷っていた。
しかし気になるのは最後のネバーギブアップである。途中で棄権とかできるのだろうか?やり直しもできそうな文面。信じていいのか迷う。結局一度挑戦してみようと決め、一旦近くにあるポータルを踏んでおく。
「じゃあキュルは手を出しちゃだめよ」と一応注意をしてから扉に手をかざす。いつものようにゆっくりと先に進むと、そこには一段高くなった丸い舞台が設置されていた。
「よし!じゃあ行ってくる!」拳を強く握って舞台に向かって歩き出す。そしてその近くを応援するように飛んでいるキュル。舞台に設置されている低い階段の前で深呼吸する。キュルも頭上をくるくると回って・・・回ろうとして?見えない壁にぶつかり舞台に落ちた。
「あっ・・・」
アンジェは驚きで口が開いたままになってしまう。どうやら頭上を飛び回っていたキュルが、先に舞台の上を飛行していたようだ。すぐにアンジェが代わりに入ろうと思い舞台へと飛ぶが・・・見えない壁に顔をぶつけてのけぞってしまった。
キュルは急いで戻ろうとするがやはり見えない壁にぶつかり出られないでいる。アンジェは見えない壁を叩くがそれは徒労に終わる。そしてキュルの背後、舞台中央に魔方陣が光り出し、何かが召喚されていく・・・
召喚されたのはゴーレムであった。『聖☆ゴーレム』と鑑定されたそのゴーレムは、白き輝きを放つ大きな体で両手を上げてその両拳をガツガツと打ち付け、その強さを鼓舞しているようであった。
「と、とにかくキュル!頑張って!」
「キュル!」
どうやら声は聞こえるようで勇ましい鳴き声で返すキュルは、そのゴーレムの目線ぐらいの高さで浮かびながら、先制の真空刃を飛ばした。
それはそのゴーレムの手で軽く掃われる。それを見たキュルは高速で向かっていき、その横を通り過ぎる間際にそのゴーレムの側面を狙って真空刃を飛ばした。それはそのゴーレムの肩口に当たり、少しよろけ片膝をついた。
そのことにアンジェも安堵する。この程度なら大丈夫そう。そう思ったのはフラグなのかもしれない。
片膝をついたゴーレムが立ち上がりながらぐるりと向きを変え、キュルにこぶしを振るうと、光を帯びた魔法の矢がキュルに向かって襲い掛かっていた。鋭く飛び続けるキュルはそれを何とか躱す。2本、3本とその光の矢はキュルを襲っていく。
あんなの当たったらキュルが死んじゃう!そんな不安を抱えながら見守るしかできないアンジェは拳に汗をにじませながらその動きを見ていた。
光の矢による攻撃がやむと、キュルはまたゴーレムに向かって飛んでいく。少し強めに溜めた真空刃を顔にめがけて飛ばすと、それを嫌がり腕でガードするゴーレム。その隙に背後に回り込むと、先ほどのように少し溜めを作ってから背中に至近距離の真空刃をぶつけた。
その威力に前に倒れるように膝をつく。そしてその場にとどまりさらに力を溜めるキュルは、起き上がってキュルの方に向き直ってしまったゴーレムに、全力で溜め切った真空刃を叩き込んだ。
バチバチと紫の雷のような竜気をこめたその真空刃がその胴を貫く。そのまま後ろに倒れ込んでから崩れ落ちるゴーレムを見ながら、アンジェは駆けだしていた。
両手を見えない壁につけ、見守っていたアンジェはゴーレムが倒れるのと同時にその手が空を切ったので、見えない壁がなくなったと認識しての行動である。
キュルのところまで神速スキルを発動させてまで駆け寄ると、フラフラと力なく高度が落ちていくキュルを受け止めると優しく抱きしめた。
「キュル、大丈夫?ケガしてない?もう!キュル、心配したんだから!」
そう言われたキュルも力なくではあるが嬉しそうに小さく鳴いていた。キュルが討伐した聖☆ゴーレムの方を確認すると、すでにその体は消え去っており、後には何も残っていなかった。代わりに入り口とは反対の位置に扉が出現していた。
ここではドロップ品は無いのだろうか?そんな事を思っていた。
少しの休憩をはさんで次の扉に手をかざす。そして開いた扉に足を進めるアンジェ。キュルはまだ抱きしめられたままである。一応前の部屋を確認してみたのだが、戻るポータルなどは見つからなかったので仕方なく次へと進んだのだ。
だが次は私が戦えばよい。そう思っていたアンジェは、キュルから手を放すと、待っててね。と告げて舞台へ足を進めた。今度はキュルも前に出るなどという愚行はせずに、おとなしく待っていた。
そしてアンジェは舞台に上がる直前に、見えない壁におでこをぶつけて座り込むのであった。
「いたたたた・・・どういう事?」混乱するアンジェであったが、もしかたらとキュルに声をかけた。
「キュル、ちょっとここに手だけ入れてみて?先に進んじゃだめよ?」
そう言うと見えない壁とコンコンと指で叩いてみる。その壁に向かって、キュルは可愛いしっぽをちょこんと差し入れてみる。アンジェの考え通り、その見えない壁をすり抜け、キュルのしっぽは何の抵抗もなくそこを超えている。
これは5戦終わるまでメンバーチェンジできないやつか・・・どうしようと途方に暮れていた。
「そうだ!」と思い出したように取り出した帰還の札を使ってみるが、それは破けて消えるだけで転移はできなかった。
しばらくはキュルの回復を待つため休憩となった。幸い時間制限などはなさそうだ。試しにこの部屋も調べてみるが、特に何もなかった。試しに「降参です!外に出して!戻して!リターン!かーえーりーたーいー!」と色々叫んでみたが無駄のようであった。
とりあえずはキュルの竜気が回復する30分程度の休憩をはさみ、唯一キュルにも持たせることのできる火竜の杖を渡した。魔石はつっこめるだけ突っ込んでおいた。ひとしきりキュルを心配して声をかけるアンジェは、舞台へと飛んでいくキュルを、より一層の心配の目を向け見送った。
そして魔方陣が光り、次の魔物が召喚された。アンジェは顔を青くしてその白く輝きを放つドラゴンを鑑定リングにかざした。
『聖☆ドラゴン』
名前は予想がついていたが、2戦目にしてドラゴン・・・ここを突破しても次はどうなるか分からない。次こそは交代できるのか?リタイヤは?どうしたら良いか分からず不安だけが過ぎていく。
そんな中、すでにドラゴンとの戦いは始まっていた。
真っすぐに飛んでいくキュルが火竜の杖を振り、炎の渦を発生させながら真空刃を飛ばす。そして弧を描き迂回するようにドガゴンの背後を取ろうと飛行する。しかし、その炎の壁を抜け、光のブレスがキュルに襲い掛かる。
「キュル!危ない!」声をあげるアンジェに反応するようにキュルが回避行動を起こすが、その光の端がキュルの翼を焼いていく。悲痛な鳴き声をあげながらフラフラと不時着するキュルに追撃とばかりにそのドラゴンは高速飛行で襲い掛かってきた。
駄目だとわかってはいるのだが、収納から帰還の札の束を取り出してはまとめて使う。すべて破けて消えるが現状は変わらない。
そしてアンジェの悲鳴が響く中、その鋭い鉤爪がキュルに襲い掛かかるがかろうじて転がって躱すキュル。そしてそのまま竜気を溜め、再度こちらに向かってきたドラゴンに向かって、特大の真空刃を飛ばす。
その真空刃はバチバチと紫の竜気を飛ばしながら向かっていくが、そのドラゴンがつばさを閉じるとその両翼の前に展開されたと思われる何かに阻まれ、放射状に広がって消えてしまった。
籠めれるだけの竜気を放ったキュルはもはやよけることもできない中、ドラゴンのブレスが放たれ、キュルを焼いていった。アンジェが泣き叫びながらキュルを呼び、そして光に包まれた。
悲痛に打ちひしがれて両手を地面につけるアンジェ。その目の前には狭い部屋にあるボス部屋へ向かうであろう扉と、へたり込んで地面に突っ伏しているキュルの姿が映っていた。
這うようにキュルの元にたどり着いたアンジェは、そっとキュルを抱きしめる。キュルも小さくではあるが鳴いていたので命に別状はないようだ。一応、大回復は使ってみるが、キュルはその暖かない光をうっとりと堪能しているだけのようであった。
そして石板の言葉が嘘ではなかったことに安堵しつつ、最後の神という文字に恨みをぶつけるのであった。
「神様嫌い!いつか殺す!」
その室内でしばらく心の休息をとったアンジェとキュルの二人は、大人しくポータルに乗って帰路についた。
そして心を回復するという名目で、ラビも交えた三人は高級ドラゴン肉を惜しげもなく出しては貪り食うという宴を遅くまで続けていた。
◆神界
「ふっアンジェの泣き叫ぶ顔は・・・控えめにいって最高だったわ!」
先ほどまでは阿鼻叫喚の大興奮をしていた変態駄女神ウィローズは、今日も涎と血しぶきの痕を残した顔で呟いた。体はベットに横たえたままではあるが・・・
そんな変態も、石板の文面に首をかしげる。
「あれはひどい!全く誰が書いたのかしら!でもあの文面なんとなく見覚えがあるような・・・もしかしたら徹夜明けの謎テンションで書き上げた神もいるのかもね。可哀そうだから後で直しておきましょう。私は心優しき女神ですからね!」
そんなことを言っているが、想像通りこのダンジョン、いやこの世界を作ったのは紛れもなくこの変態である。そしてこのふざけた石板の制作者もまたこいつであった。
そして時間は進み、キュルと涙の再開を果たしたアンジェを眺めながら本日のお宝シーンを思い浮かべる変態であった。
「あっなんか寒気が・・・働き過ぎかしらね」
そんなこんなで今日も平和は続きます。
※冒頭のドラゴマウントでの事件は第一話をご参照くださいませ。
お読みいただきありがとうございます。安ころもっちです。
現在毎日更新でがんばります!
期待してる! 早く続きを! 読んでやってもいいよ!
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