/// 30.ランクアップと大樹の家
次の日、アンジェはラビに起こされる。髪をさらさらと撫でられ「アンジェちゃん。朝よー」と声をかけられる。しかしアンジェはラビのお腹に抱き着くとスハスハとその匂いを堪能し、そしてラビは頭を撫でる。そして時間は過ぎていく。
「アンジェちゃん。今日はまず素材を出したら、ギルド長のところにいこっか」
そう声をかけられ、やっと体を起こすアンジェ。それにつられてキュルも起きてふよふよと浮かび、眠たさに目をこすっている。
身支度をすると仲良く下に降りると、まずは素材回収所に大量の素材を卸す。特に古代種ゴブリンについては、見たことのない職員ばかりなので取り扱いに苦慮しそうだと言っていた。そしてその足でギルド長室の部屋をノックした。
「はいよー」
返事を確認してから部屋に入ると、いつものように書類に埋もれそうな机にすわったエルザが、不機嫌そうにこちらを見ていた。
「眠いわ・・・」
本当に眠そうに眼を細めていた。
「大体ラビ、あんた私に全部丸投げしたでしょ・・・今日はみっちり書類整理よ・・・リベリアはさっき帰ったわ・・・」
この言葉にラビはタハハと頬を掻いた。
「とはいえ、アンジェはお疲れ様。もうね・・・なんか凄すぎて・・・助かったわ」
そう言うと、机の上に一枚のカードを置いた。
エルザの手招きでラビがそのカードを確認すると、それはアンジェのAランクのギルドカードであった。
「これは・・・Aランク、ですか?まあたしかに・・・今回のことを考えれば資格は十分ですよね」
「もう昨日のうちにカサネガ男爵家には確認を取ったわ。多大な感謝と別途褒賞を与えるってさ。良かったねアンジェ」
話しを聞きながらラビからはカードを渡され、褒賞も貰えるという言葉に戸惑うアンジェ。Aランク・・・なんかすごい依頼やらされそうな予感がしていた。
「もちろんラビは昇給ね。なんなら上の一番良い部屋使う?」
エルザの言葉に一瞬で笑顔になってラビへくっつくアンジェも現金なものである。
「いや私は・・・今回何もしてないですよ?それにあの部屋で十分です」
アンジェを撫でながら答えるラビであったが「昇給については決定事項よ。じゃないと他のギルド員に示しがつかないから」と言われてしまえば納得するしかない。
「それと・・・大樹の家を含む孤児院のことだけど、もうすでに実際に動いているわ。名前はそのまま大樹の家で・・・」
その言葉にアンジェは目を輝かせた。
「よかったねアンジェちゃん」
「話はそれだけよ。帰っていいわ。あとラビはカウンターにこの書類回しといて!」
エルザの言葉にアンジェを撫でるラビの手は止まったが、仕方なくその書類の山を持ちギルド長室を後にした。
◆大樹の家・敷地前
アンジェは、ギルドを出るとその広大な面積を誇る大樹の家を近くへと来ていた。
エルザから聞いた、実際に動き出しているということに嬉しさがこみ上げ、大量の素材の買取の大部分を寄付に回してからこちらで駆けてきたのである。
「なんか・・・すごいことになってるね・・・」
以前は少し大きめの家屋の前に小さな畑があり、その周りには申し訳程度の木の柵が点在していたという風景であった。
それが今は巨大な屋敷と思われる建物に少し小さめの建物が4つほど、そして巨大な畑には様々な作物が育てられ、子供たちが作業をしている。そして大きな運動場のようなところもあり、そこにも子供たちが輪を作って何やら楽しそうに笑っていた。
それらを道の脇に生えている大木に身を隠しながらしんみりと眺めていたアンジェは、背後からの声に「ひょっ!」という奇声を上げて驚くのであった。
「あらあらあらー。驚かせちゃったかしらー。やっぱりアンジェちゃんだったわ。お久しぶりですねー」
その声の主が、ここの元院長である天草さゆりであることに気づいたアンジェは、キュルを胸に抱きながら、恥ずかしそうに挨拶をするのであった。
「あの、こんにちわ・・・」
「ふふふ。相変わらずなのね。でもアンジェちゃんのおかげで、子供たちを毎日楽しく過ごしているわー。もちろん、私たちもねー」
その言葉に嬉しくなり、コクコクと首を縦に振りながら感動を表していたアンジェ。
「今度、ラビちゃんといらっしい。アンジェちゃんが助けてくれたからこその子供たちの幸せな姿、見てほしいわー」
「は、はい!かならず!」
絶対にこよう!私なんか最初に少し助けただけで全然何もできてない。そう思うアンジェではあったが、感謝を素直に受けとめペコリと挨拶をするとその場を後にした。
「あらあら、相変わらずすごい速さでいなくなっちゃうのね・・・すごいわー」
笑顔のさゆりは笑顔で大樹の家へと帰っていった。
◆イーストダンジョン・41階層 / 魔窟
40階層を降り、その変わりように驚く二人。
大樹の家を後にして、遂に魔窟と呼ばれる41階層に足を踏み入れたアンジェとキュルであるは息を飲む。
幸い、ゴブリン村でレベルを上げたアンジェは、この階層でも大丈夫であろうと考えていた。キュルだってきっとレベルアップしているはず。そんな思いもあった。何より大樹の家をサポートするにはもっともっと先に進んで稼がなくては!という思いがさらに強くなっていたのだ。
それが実際、他の冒険者などのサポートもあり、全く不要な状態に現状なっているとしてもだ。
見渡すとそこはジャングル、沼地のようにジメジメとしてところどころ実際に沼のような水たまりが点在しているようだった。
この階層からは一階層ごとに景色が変わる。そして出現する魔物の種類も変わる。広大な面積をほこるからなのか、各階層の攻略に時間がかかるようだ。その分ポータルも各階に存在するため、ゆっくりだが確実に実力を上げて進んでいけるであろう。
ここに来る前、アンジェはギルド経由であるアイテムを仕入れてきていた。
鑑定リング。
これは魔物の名前を読み取るための指輪である。その指輪を目の下にかざすと、水晶のようなレンズが生成されそれごしに見た魔物の名前が表示されるというものだ。特殊なスライムの魔石を原料とするため、100万エルザと高価ではあるが、こういった情報の少ない階層を進むには必要な装備であった。
名前がわかれば未知の魔物もその特徴が分かるかもしれない。そういった理由で、高ランクの冒険者は絶対に手に入れたい装備ではあった。
慎重に木々の間を歩いていくアンジェとふよふよと飛んでいるキュル。
そして沼の水面がバシャリと音をたて・・・青黒くうねうねしたそいつは飛び掛かってきた・・・
「ひゃーーーー!うわっ!すひゃーー!いやーー!う、うぇ!うううわーー!」
あまりの恐怖に叫び、そして恐怖から嗚咽も混じってしまうアンジェ。そこはキュルが冷静に真空の刃を飛ばしてけん制して距離を取る。その物体は多少の傷を負っているがまだまだこちらを襲ってきそうに睨んでいる。口からは細い舌を出してちろちろと動かしていた。
涙目のアンジェは、恐る恐るではあるが鑑定リングを目の下に合わせる。『ウェットバイパー』名前を見ただけで泣きたくなる。
そのうねうねとした物体は大型の蛇であった。ビックバイパーでやっと克服しつつあったアンジェであったが、今回はさらにぬめぬめとした質感の蛇である。新たなトラウマとなりそうであった。
そして動けないでいるアンジェを他所に、動いたのはやっぱりキュルであった。先ほどより少し溜めを作った真空の刃がバチバチと音をたてて飛んでいき、そのウェットバイパーの首を半分ほど切り取る攻撃を見せていた。そしてそいつは鎌首をだらりと落とし息絶えていた。
しばらく座り込み放心状態のアンジェ。かなりの力を籠めて攻撃を放ったため、本来であればフラフラのはずのキュルは、すかさずアンジェの頬に擦り寄って主の精神の安定を図っていた。できて竜である。
「キュル―!今日は帰るー!」
結局、今日の狩りはここで終了となり、ギルド2階に戻りふて寝するのであった。
◆神界
「私のアンジェも・・・もうAランクか・・・」
感涙の涙を流しながら目をつぶり顔を上にする女神ウィローズ。
「そうよね。昨日はもうそりゃーもう、すごさがすごくてね。もうすごかったのよ!」
今日の女神は一味違う。その語彙力の無さから、喜び度合いが高いことが伺える。
「今度何かお祝いの品、送らなきゃね・・・そうと決まれば、節約節約!」
こうしてまた神力の節約を心に決めた女神は、その後のお昼のランチタイムにも下界を覗き、ウェットバイパーに遭遇してパニックを起こすアンジェにあらゆるものを噴き出すことになるのであった。
今日も何やら色々と平和である。
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