/// 29.依頼達成と後始末
激しい戦闘も終わり、落ち着きを取り戻したアンジェ。
「S+なんてあるんだねー」そう言いながらキュルを撫でまわす。今のアンジェの精神安定剤である。「早くお姉ちゃんに会いたい」そんなことを口にしてキュルを頭にのせると、まずは一番大きな、先ほどやつらがぞろぞろ出てきた家屋へ入る。
アンジェが思わず「うへっ」と声を上げる嫌なにおいがした。糞尿のような嫌な臭い。その家には大きな間取りの部屋に一つだけ扉があった。中には何匹かのゴブリンが居たがそれはキュルがあっさり討伐した。
そしてその扉を警戒しながら開けると、そこには5名ほどの女性が震える体を抱きながらこちらを見ていた。
「あ・・・あにょ・・・た、助けにきました!」
恥ずかしさに声に詰まって余計真っ赤になってしまったアンジェ。だがその言葉を聞いて女性たちは安堵の涙を流した。キュルが少し前に出て「キュルル?」とおどけて見せたので余計に安心したようで皆、号泣であった。
アンジェが恥ずかしがりながらもなんとか女性たちを観察すると、幸いなことにケガもしていないようだった。そして着衣の乱れもなし。良かった、と胸をなでおろした。そして恥ずかしくても言わなければならない。先ほどのようにここ周辺にはまだゴブリンが残っているであろうから。
「あ、あの!ここから出ます!ついて、きて・・・できれば他の人・・・さ、さがすので!」
女性の一人がアンジェを少し見つめて何かを察してくれたようで、自分の涙をぬぐうと「みんな!行きましょう!きっとこの方が守ってくれる!」そういって立ち上がることを促した。
回りの女性たちもまだ泣きながらではあるが、付き従う様子で立ち上がった。そしてアンジェはそそくさとその家を出るのであった。
おそらくゆっくり歩いてるからついてきているだろう・・・そう思いながらも後ろを振り返る勇気が出ないアンジェ。キュルに回りの警戒と後の人達が離れないように注意してねと伝えると、「キュゥ!」と力強い言葉が発せられたので丸投げしておいた。
近くの家屋から一軒づつ回っていくと、いくつかの家屋で女性や子供が囚われており、その度についてきていた女性陣が事情を説明して抱き合っていた。皆、同じ村から攫われたので顔見知りなのであろう。
半分ぐらい回ったところで、2~300メートルほど遠く、村の方から20名ほどの集団がこちらに近づいてくるのが見えた。向こうもこちらを目視するとドドドと土煙を上げて足を速めて向かってきていた。
「うっ」
その迫力に顔がこわばり思わずキュルをつかんで顔の前で抱きしめる。
そしてその先頭を走っていた屈強尾そうな男がアンジェの数メートル離れたところでとまり膝をつく。
「アンジェリカ様!ご無事で何よりです。見たところすでに討伐をお済ませになったようで。遅くなり申し訳ありません。後はお任せを・・・」
そう言うと、後ろの者たちに残された村人や、ゴブリンの残党がいないかなど手分けして探すように指示をした。もちろんその男はザンガスである。
『蜃気楼の聖女 守護の会』、通称ミホリン司祭、聖浄守斧・ザンガスは、アンジェがこの救出作戦に単騎で乗り込んだことを聞くと、メンバーを集めてここまで必死で走ってきていた。
「後はお任せいただいて、ギルドへ・・・ラビ様の元へお戻りを。かなり心配されておりました」
「あ、ありがとう、ございます」
ザンガスの言葉に恥ずかしがりながらもお礼を言ったアンジェは、心配させてしまった大好きなお姉ちゃんを安心させるため、そして己の心を癒すためにギルドまで飛ぶように帰るのであった。
「ア、アンジェリカ様のお礼の言葉・・・これで10年は頑張れる!よしっ!野郎ども!ちゃっちゃとかたずけて、アンジェリカ様がお救いになった方々を迅速に送り届けるんだ!」
興奮したザンガスの言葉に、メンバーたちは同じように興奮しながら拳を振り上げるのであった。
◆イーストギルド1階
ちり~~ん♪
いつものベルが鳴る。すでにギルド内は閑散としていた。冒険者たちは村の警護に出立したばかりであった。
心配そうにギルド内をウロウロしていたラビはその音を聞くと、いつもの場所に顔を向ける。そしてその存在を確認してすぐ、今日はアンジェの方からラビの胸にとびこむのであった。
柔らかなそのラビの体にスリスリと顔をうずめながら「ただいまお姉ちゃん」と繰り返すアンジェを、「アンジェちゃん、アンジェちゃん」と全力で甘やかす涙目のラビという風景が、ややしばらく続いていた。同じように心配してギルド長室から出て待機をしていたエルザや、同僚のリベリアもホッと一安心していた。
「アンジェちゃーん。素材なんて明日にして、今日はもう上に上がっておいしいもの食べようねー」
もうきっとラビにはアンジェしか見えていないのであろう。もちろんキュルは頭の上にいるのだが・・・そして二人仲良く2階へと歩き出す二人を、残る二人もため息をついて見つめていた。
「あーやっぱりこうなったか。でもまあ無事でよかったわ」
「そうね。じゃあ私は部屋にもどるわ。何か問題があったら言ってね」
「はーい」
ちなみに、今夜の二人と一匹の晩御飯は、ラビが魔法の袋に保管していた一番良い取って置き、聖都ダンジョン産の黒毛バッファローの最上級の物をメインにした焼肉であった。ラビとアンジェが交互に食べさせっこをする甘々な時間が繰り広げられたのは言うまでもない。
◆神界
「ん?どうなってるの?古代種ゴブリンとかまだ予定にないわよね?」
今日はいつになくまじめな顔をして下界を見ていた女神ウィローズは首をかしげる。それは例の古代種ゴブリンについてである。
「予定ではあの個体はあと100年は出てくるほどの魔力はたまらないはずなのに・・・」
何かがおかしい、そう思う女神は考えるが、結論は出ていない。
「最近、龍脈の乱れは顕著に現れている・・・その原因がつかめないのよね・・・」
まるでこのイースト界隈だけに、神力が注ぎ込まれているかのような龍脈の乱れ・・・心当たりのない変態駄女神は、悩んだ末に・・・ものすごーく悩んだすえに・・・アンジェのキングゴブリンに打ちのめされて歪む表情を見て涎と鮮血をぶちまけるのであった。
「ほぉーーー!すごいわーーー!負けないでーー!あぁっ!私もぶちのめされて!私がアンジェに押し付けれれて!はぅぁーーー!」
自らの分身とも言える神力が大量に注ぎ込まれた聖者の衣(女神の祝福)。絶対聖域を超えてそれが打ちのめされる度に悶える変態・・・
結局は古代種ゴブリンが討伐されたころには、体力の限界を迎えまたもベットに突っ伏し、何かしらの染みを残すのであった。
こうして、今日も世界の平和は保たれる。
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