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ルネサンスの女神様 - ねえ、電気つけてよ!  作者: 亜之丸
もしかして、これって災害なの? [3日目]
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3-1 出社

 停電から3日目となっても電気は戻らず、人々はこれが災害である事に気が付き始めます。


 停電からすでに3回目の朝を迎えていた。


 停電であることすらすこし日常化しはじめ、人々はその中にも生活を取り戻そうと、行動を開始していた。



 俺 佐藤隆二は、目覚めて停電がまだ続いている事を確認すると、準備しておいた水と食べ物そして着替えが詰められたリュックを持ち、埼玉にある住まいから、勤め先がある東京のコンビニ本社まで歩いて行く事にした。


 この2日間は、どうやっても会社との連絡が取れずに、結局無断欠勤をしてしまった。

 その欠勤のおかげで時間が出来たので、自分が住んでいる町を歩いて廻ってみたのだが、どうやら大変な事が起きている事がわかってきた。


 停電初日は、朝から何軒かのスーパーを廻ることで、その時にはまだ残っていた食料などを買うことが出来た。

 しかし、食料を売っていた店には、たくさんの人が詰めかけて、昨日にはどこも棚はほとんど空の状態となっていた。

 どの店も電気が届かないのでPOSレジは使えず、また店内の照明も消えているので、先日のコンビニで見かけたように、店舗の前や駐車場にテーブルやワゴンを並べて、『お釣りは出ないよ』と書いて販売をしていた。

 先日の他店の販売方法を参考にしたのではないかと思われたが、同様の販売方法は、この町に限らずいろいろな場所で行われていた。

 おかげで、俺はある程度の食糧を手にすることができ、1週間くらいであれば、このまま停電が続いても暮らしていけるだけの準備は出来た。


 今日、歩いて会社に出社するために、昨日からその計画の準備は済ませてきた。

 目指す会社は、隅田川のほとりにある隅田スカイタワーの隣にある。

 見晴らしがよい場所からであれば、その高いタワーを見つけられると思うので、どこかで道に迷ったとしても、それを目印に何とか辿り着けるであろう。

 それに、今日はいつもの通勤用の革靴ではなく、長く歩けるスポーツシューズを履いており、さらに靴擦れを起こしてもいいように絆創膏もしっかり持った。



 早朝に家を出て歩き始めたが、歩いている道路に車が走っていないのは、なんとも不思議な感じである。


 そこで、段差がある歩道をわざわざ歩くのではなく、これまではやったことが無いが、車道の真ん中を堂々と歩く事にした。

 ところどころに放置されたままの車を避けながら歩くが、フラットに舗装された車道はとても歩きやすかった。


「今の太陽の高さからすると、そろそろ昼頃かな? 意外と近かったな」


 車道は道が良く、休憩なしの少し急ぎ足でここまで来たが、想定した時間よりもたぶん1時間くらい早い、4時間くらいで会社に着くことが出来た。



 ビルの警備室に守衛さんがいたので挨拶をし、その横の扉から中に入り、普段使っていない非常階段を昇るが、到着した社内には数人の社員しかいなかった。

 このビルは、隅田スカイタワーが開業するのに合わせて建てられており、本社もその時にこのビルに移転してきたため、昔からの社員はこの本社の周辺には誰も住んでいなかった。

 その出社できていた人達に聞いてみると、俺のように遠くから歩いて来たり、自転車で走って来たりしたとの事で、社長もまだ一度も会社に現れていないとの事であった。

 そして、今この社内にはいないが、自転車で来た人で手分けをして、本社に近い範囲にある店舗を廻っている最中との事であった。


「部長、これからこの会社はどうなるんですかね?」


 他部署の部長が社内にいたので、すこし話を聞いてみた。


「このまま1週間超えて停電が続き、その時点でまだ電気の復旧のめどが立たないようであれば、会社は倒産するしかないな。

 商売が止まっている間でも、店舗や従業員など巨大な経費は掛かっているからな。

 まあ、これはわが社だけの話ではなく、小売店は皆同じじゃないかな?」


「私も、昨日地元のスーパーに行ってみたのですが、スーパーの商品入荷も止まっているようで、店内は既に空っぽでした。

 ここに来るまで、コンビニは何軒も有りましたが、やはりどこも同じような状況でしたね。

 こんな状況で、このあと日本は大丈夫なんでしょうか?」


「そうだな…… このままだと、日本国としても厳しいかもしれないな。

 我が社の経営陣も出社して来ないし、このままだと給料すら出せないんじゃないかな?」


「え! それは困ります。 あと少しで給料日じゃないですか」

 想像以上に悪い部長の答えに、俺はちょっと驚いてしまった。


「経理も来ていないけれど…… 例え出社できたとしても、銀行も動いていないみたいだから、引き出しや振り込みも出来ないしなぁ。

 ひょっとすると、社長が給料をもって、ひょっこりやって来て、何て事はまずないな」


「で、私は今日歩いてここまで来たのですが、どうすればいいですか?」


「歩きであれば、君の家の方向にある、何軒かの店舗の様子でも見に行ってやってくれたまえ。

 まあ、君が行ったところで、そこで何かできるわけではないが、少しはオーナーの愚痴でも聞いてやってくれ」


 会社の壁には関東の大きな地図が貼られており、そこには直営店やフランチャイズ契約している店舗の場所が分かるようにシールが貼られていた。


 俺が住む埼玉方面への電車の沿線には、残念ながらそのシールは貼られていない。

 日光街道沿いにはシールが無く、この隅田スカイタワーから見ると、北側方向では水戸街道に並ぶようにいくつかのシールが貼られていた。

 これはドミナント戦略による出店によるもので、商品配送が行いやすいように、あらかじめ出店地域を絞ってあり、このような偏った店舗配置となっている。


 江戸時代に作られた五街道である日光街道は、日本橋から埼玉県にある俺の住まい近くを通り、栃木県の日光東照宮まで続いている。

 旧水戸街道は、その日光街道の千住宿で分岐をし、そこを起点として茨城の水戸まで繋がっていた。

 現在では国道6号線が水戸街道と呼ばれており、この本社近くの向島から水戸までが水戸街道と呼ばれており、現在の水戸街道は本来の起点である千住宿を通ってはいない。



「わかかりました。 では、私は6号線沿いの店舗を見ながら少し歩いてみます。

 そして、陽のあるうちにそのまま直帰させてもらいます」


「そうか、ありがとう。 でも、私は出社して来ても、これ以上できる事は何もないので、これで出社することはもう無いと思う。

 今日はこの後、自分の荷物を片付けて帰るつもりだよ。

 なので、残念ながら君とは今日、ここでお別れだな」


「ええ! まだ何日か停電しただけですよ! それなのに会社を辞められてしまうのですか?」


「そうだな。 この後辞表を書いて社長の机の上に置いて行くつもりだよ。

 実はな、私の家のマンションが、すでに人が住むことが出来なくなってしまったんだよ。

 だから、家族を連れて私の実家まで歩いて帰るつもりなんだ」


「ずいぶん急ですが、火事か何かですか?」


「まあ、火事ではないけど、電気が停まったことで、電化キッチンは使えない、水も出ない、風呂やトイレすら使えない。

 我が家は30階なんだが、エレベータは動かないので、窓も無く、真っ暗で蒸し暑い非常階段を、何回も昇り降りするしかない。 本当に非情な階段だよ。

 若い娘や女房にとって、トイレが使えない生活は致命的だね。

 今、高層マンションはとても人間が生活できる環境じゃないのさ」


「確かにこのままでは会社も同じで、あと何日も持たないかもしれませんね。

 だったら私も覚悟した方がよさそうですね。

 だけど、ちょっと期待して、次の給料日に私はもう一度ここに来てみます。

 では部長さんも、お体に気を付けて、お元気でお過ごしください」


「ああ、君も元気でな」


 俺は部長にお辞儀して、会社を後にした。

作者からのお願い:

このたびは、本小説をお読みいただきありがとうございます。

この小説は、紹介する方法がない中で、この作品を見つけて頂いた事を大変感謝しております。

皆さんにたくさん読んでいただきましても、ランキングには反映されておらず、ブックマークと、評価ポイントの★の数のみがポイントとして計算されています。

少しでも多くの方にお読みいただきたいので、ご登録にご協力いただけますと作者の励みにもなります。 何卒お願い申し上げます。

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