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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第六章 サイレンは鳴り続ける
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断章 とある少年の話1

「ただいまー!」

小さな家に、少年の声がこだまする。小柄な身体に不釣り合いなほどの大きなランドセルを背負い、手に持った白い紙をはためかせていた。

「おかえりなさい、✕✕✕」

母親が少年の名前を呼ぶ。

「お母さんー!おれ、テスト100点取ったよー!」

「あらあら、えらいえらい」

少年の手に握られていたのは、算数のテストの答案だ。誤答を意味するチェックが一つもないその答案は、少年が言うように確かに満点だった。


「今日学校でね、体育があったんだけどさ、今日バレーやったんだよ!」

「ふふ、でも✕✕✕は背ちっちゃいんだから、大変なんじゃない?」

「大変だったよ!でも、おれこれから伸びるから!お父さん追い越すから!」

「……頑張ってね、ちゃんといっぱいごはん食べて、いっぱい寝るのよ」

「あ!そうだ、今日のご飯何~~~?」

「それがね……なんと今日のご飯は✕✕✕の大好きなカレーライスよ!」

「わーい!カレー!!!大好き!!!!!」

「こらこら、走り回らないの、転ぶわよ!」

まだ幼い少年は、大好きな晩御飯に想いを馳せてはしゃでいた。

そんなありふれた、どこにでもありそうな日常風景がそこにはあった。


そしてその日、日も沈んで空も暗くなってきた頃。

2人だけの食卓で、机に向かい合ってカレーライスを食べながら、いつも通りありふれたようなバラエティ番組がテレビに映っていた。

「お父さん、まだ帰ってこないのー?」

少年が口を尖らせ、母親に向かって聞いた。

「それがね、お父さん最近ちょっと体調が悪いみたいで、今病院に行っているところなのよ」

「病院ー?」

「うん、お父さんだってね、病気になることもあるのよ。最近働きづめだったから……」

「お父さん、治る?」

「きっと治ると思うわ。✕✕✕が信じてくれたらね」

「うん、そうかな……」


働きづめだった父親のことを、少年は少し不安に思っていた。

陽が沈み、彼が眠ってから家に帰り、彼が小学校へと通う前から家を出る。

平日はほとんど会って話すこともない父親だが、それでも彼にとっては大切な家族であり、元気でいてほしいという気持ちを、常に胸に抱いていた。


そして、ようやく父に会える休日がやって来る。

少年が朝起きてリビングに降り立つと、それでも父親はいなかった。

「あれ、お父さんどうしたの?」

「お父さんね、ちょっと大きめの病院に行ってくるところなの」

「えっ……じゃあおれも一緒に行きたいよ、心配だもん!」

「ごめんなさいね……でも、お父さんもきっと治る、って言ってくれたから。お父さんを信じましょう」

少年の不安は、晴れなかった。もやもやとしたものが、ずっと心に残って、喉に物がつかえたような感覚を覚えた。


それでも、彼は文句ひとつ言わなかった。

父を信じていたから。

父を信じたいと言っていた、母を信じていたから。

信じたかったから。


彼は夢を見ていた。

幼い日の夢だ。

もう忘れてしまったほどの、しかし確かに存在していた過去の夢。


何故、今更になってそんな風景を、夢に見たのだろう。

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