↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
1/33

ep.1 魔力ポーション四十本

 森を抜けた先の開けた谷に、オークの群れがひしめいていた。


 ギルドの依頼書には、討伐対象は十五体前後とあった。今、シャーロットの目に映る数は、明らかにその倍近い。


「聞いてた数と違うぞ!」


 ダリオが叫びながら、前方のオークへ斬りかかる。ガレスが大盾でその隣を固め、ミレーヌの魔法が横合いから飛んできた個体を吹き飛ばした。


 シャーロットは杖を握り直し、三人の位置と動きを目で追った。


 ガレスが盾で受けた一撃に、腕が思ったより深く沈む。あの重さは限界が近い。


「ガレス、後ろ下がって! 一旦引いて!」


「まだいける!」


「駄目、腕が下がってる。ミレーヌ、右!」


 叫びながら、ガレスへ防御の魔法を重ねる。完全に攻撃を防ぎきるものではないが、次の一撃の衝撃は和らぐはずだった。


 ミレーヌの詠唱速度が、さっきより明らかに落ちている。杖の先も微かに揺れていた。魔力が減っている証拠だ。だが本人にその自覚はない。


「ミレーヌ、大きいのはもう一回で止めて。あとは私が指示する」


「まだ撃てるわよ」


「量の問題じゃない。次、危ないところで撃てなくなる」


 言い返す間もなく、新たなオークがミレーヌへ迫った。


 シャーロットは即座に防御の魔法をかける。白い光が斧の勢いを鈍らせ、その隙にガレスが割り込んで弾いた。


 戦況が落ち着いたと思った矢先、前へ出過ぎたダリオへ、横から一撃が飛んだ。


「危ない!」


 叫んだ時にはもう遅かった。ダリオの脇腹に、オークの棍棒がまともに入る。


「くそっ……!」


 崩れ落ちる寸前で踏みとどまったダリオへ、シャーロットは駆け寄りながら回復魔法を当てた。傷は塞がるが、痛みまでは完全に消えない。


「今の、避けろって言ったのに」


「悪い、判断が遅れた」


 短く返し、ダリオは再び剣を構え直す。休んでいる暇はなかった。


 戦いは数時間続いた。オークは倒しても倒しても、群れの奥から新手が湧いてくる。


 シャーロットは常に三人の動きを追い続けた。誰の呼吸が乱れているか、誰の攻撃が鈍くなっているか、誰を先に下げるべきか。考える間もなく、身体が勝手に動いていた。


 魔力ポーションの空き瓶が、マジックバッグの周りに増えていく。


 何本目かも分からなくなった頃、シャーロットの視界が一瞬滲んだ。手の甲で額の汗を拭い、深く息を吸う。


 まだ止まれない。


 残ったオークは、あと一体だった。


 深い傷を負いながらも、棍棒を振り上げてダリオへ突進していく。


 ガレスは別の一体を倒した直後で、間に合わない。ミレーヌの詠唱も、まだ終わっていなかった。


 シャーロットはマジックバッグへ手を伸ばした。


 指先に触れた小瓶を掴み、震える手で栓を開ける。


 中身を一息に飲み干し、戻った魔力をダリオへの防御に回した。


 白い光が身体を覆った直後、棍棒が剣ごと叩きつけられる。


 ダリオは衝撃に膝を折りながらも、倒れなかった。


「今!」


 ミレーヌの炎が、オークの背中で弾けた。


 巨体がよろめく。


 ダリオは踏み込み、最後の力でその胸を剣で貫いた。


 オークが前のめりに倒れ、谷に土煙が上がる。


「……終わった、か」


 ダリオが剣を鞘へ収め、肩で息をする。


 シャーロットはその場に膝をつきそうになるのを、杖で支えてこらえた。


 吐き気がする。指先の震えも止まらない。


 それでも、四人とも立っていた。


 帰り支度をしながら、ダリオがマジックバッグの中を覗き込んだ。空になった小瓶が、いくつも転がっている。


「今日、何本使った」


「……数えてないです」


 シャーロットは正直に答えた。数える余裕など、どこにもなかった。


 ダリオは黙って空き瓶を数え始めた。


 一本、また一本と、指先で押しやりながら。


 最後の一本を置いたところで、その手が止まる。


「四十本だ」


 ダリオの口元から笑みが消えた。


原文の流れ、会話、雰囲気はほぼそのまま残しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。