ep.1 魔力ポーション四十本
森を抜けた先の開けた谷に、オークの群れがひしめいていた。
ギルドの依頼書には、討伐対象は十五体前後とあった。今、シャーロットの目に映る数は、明らかにその倍近い。
「聞いてた数と違うぞ!」
ダリオが叫びながら、前方のオークへ斬りかかる。ガレスが大盾でその隣を固め、ミレーヌの魔法が横合いから飛んできた個体を吹き飛ばした。
シャーロットは杖を握り直し、三人の位置と動きを目で追った。
ガレスが盾で受けた一撃に、腕が思ったより深く沈む。あの重さは限界が近い。
「ガレス、後ろ下がって! 一旦引いて!」
「まだいける!」
「駄目、腕が下がってる。ミレーヌ、右!」
叫びながら、ガレスへ防御の魔法を重ねる。完全に攻撃を防ぎきるものではないが、次の一撃の衝撃は和らぐはずだった。
ミレーヌの詠唱速度が、さっきより明らかに落ちている。杖の先も微かに揺れていた。魔力が減っている証拠だ。だが本人にその自覚はない。
「ミレーヌ、大きいのはもう一回で止めて。あとは私が指示する」
「まだ撃てるわよ」
「量の問題じゃない。次、危ないところで撃てなくなる」
言い返す間もなく、新たなオークがミレーヌへ迫った。
シャーロットは即座に防御の魔法をかける。白い光が斧の勢いを鈍らせ、その隙にガレスが割り込んで弾いた。
戦況が落ち着いたと思った矢先、前へ出過ぎたダリオへ、横から一撃が飛んだ。
「危ない!」
叫んだ時にはもう遅かった。ダリオの脇腹に、オークの棍棒がまともに入る。
「くそっ……!」
崩れ落ちる寸前で踏みとどまったダリオへ、シャーロットは駆け寄りながら回復魔法を当てた。傷は塞がるが、痛みまでは完全に消えない。
「今の、避けろって言ったのに」
「悪い、判断が遅れた」
短く返し、ダリオは再び剣を構え直す。休んでいる暇はなかった。
戦いは数時間続いた。オークは倒しても倒しても、群れの奥から新手が湧いてくる。
シャーロットは常に三人の動きを追い続けた。誰の呼吸が乱れているか、誰の攻撃が鈍くなっているか、誰を先に下げるべきか。考える間もなく、身体が勝手に動いていた。
魔力ポーションの空き瓶が、マジックバッグの周りに増えていく。
何本目かも分からなくなった頃、シャーロットの視界が一瞬滲んだ。手の甲で額の汗を拭い、深く息を吸う。
まだ止まれない。
残ったオークは、あと一体だった。
深い傷を負いながらも、棍棒を振り上げてダリオへ突進していく。
ガレスは別の一体を倒した直後で、間に合わない。ミレーヌの詠唱も、まだ終わっていなかった。
シャーロットはマジックバッグへ手を伸ばした。
指先に触れた小瓶を掴み、震える手で栓を開ける。
中身を一息に飲み干し、戻った魔力をダリオへの防御に回した。
白い光が身体を覆った直後、棍棒が剣ごと叩きつけられる。
ダリオは衝撃に膝を折りながらも、倒れなかった。
「今!」
ミレーヌの炎が、オークの背中で弾けた。
巨体がよろめく。
ダリオは踏み込み、最後の力でその胸を剣で貫いた。
オークが前のめりに倒れ、谷に土煙が上がる。
「……終わった、か」
ダリオが剣を鞘へ収め、肩で息をする。
シャーロットはその場に膝をつきそうになるのを、杖で支えてこらえた。
吐き気がする。指先の震えも止まらない。
それでも、四人とも立っていた。
帰り支度をしながら、ダリオがマジックバッグの中を覗き込んだ。空になった小瓶が、いくつも転がっている。
「今日、何本使った」
「……数えてないです」
シャーロットは正直に答えた。数える余裕など、どこにもなかった。
ダリオは黙って空き瓶を数え始めた。
一本、また一本と、指先で押しやりながら。
最後の一本を置いたところで、その手が止まる。
「四十本だ」
ダリオの口元から笑みが消えた。
原文の流れ、会話、雰囲気はほぼそのまま残しています。




