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第10話 ケルティヘーゲイ魔物事件①

「う〜、寒くなってきたねぇ」

 アイネアが暖炉に火をつけていると、クルトが手もみしながら入ってきた。

「餌やりお疲れ、クルト」

「ありがと〜。ヤギたちってば、朝から腹ぺこなんだもん。こんなに寒いんだから、日が昇るまで寝てればいいのに」

 クルトは火に手をかざし、ほうっと息をついた。

「は〜、あったかい。ずっとここに居たいぃー」

「同感だ。……でも今日、ミサがあるんだよな」

「また寒い中に出なきゃいけないの〜? 神父さんの話は聞きたいけど、やだな〜」


「ふっ、そう言うと思ってたぜ」

 背後の声に、二人は驚いて振り向いた。扉に寄りかかったノイマンが、ニヒルな笑みを浮かべていた。


「え、あ⁉ ノイマン⁉」

「ノイマンが早起きしてる……だと⁉」

「そんなに驚くことかよ」

 ノイマンは二人に手を差し出した。

「ほら、これをやる」

 彼の手には、ランタンのような物がぶら下がっていた。火を灯す部分には、赤い色の綺麗な石がはめ込まれている。

「なにこれ?」クルトが受け取った。そして、目を輝かせた。

「わ……! これ温かいよ、アイネア!」

「なにっ!」

 アイネアは手をランタンにかざした。赤く光る魔石から、心地よい温かさが伝わった。


「本当だ! 温かい!」

「これを持ってたら、寒い外もへっちゃらだよね」

「すごいな……!」

 二人のはしゃぐ様子に、ノイマンは得意顔だ。

「ふっ、我ながら天才的な発明だぜ。ふっ」

「これ、売ったら高値がつくんじゃないか?」

 アイネアのピンクの瞳が、ぴかぴか輝いた。

「……珍しい魔石を苦労して調節した。二度は作れないぞ。売ったり壊したりするなよ」

「じょ、冗談だっ」

 ノイマンの苦い顔に、アイネアは焦った。

「こんな便利なもの、売ったりするもんか! ありがとうな、ノイマン」

「お前が礼を言うなんてな。徹夜したかいがあったぜ」

「え、徹夜したの」

「どうりで目にクマがあるわけだ」

「全くもう、ちゃんと寝なきゃダメじゃないか」

 賛美とは一転、クルトはお叱りモードになってしまった。

「怒るなよ……。しょうがねぇだろ、気分がノってたんだから」

「この間も、神父さんの説法中に居眠りしてたじゃん。ちゃんと聞いてよ」

「わかった、わかった。じゃあ、そろそろ行くぞ」



 ランタンを早く使いたい二人は、大喜びで出かける準備を済ませた。

 道中、アイネアとクルトは、魔法のランタンを取り合ってケンカした。最初は道沿いの木を5本通り過ぎるたびに交代していたが、クルトのときだけ樹木の間隔が大きいと、アイネアが文句を言った。


 なら、20歩進むごとに交代しようということになった。するとクルトは大きく足を広げて歩いた。アイネアも負けじと、限界まで大股で20歩数えた。お次はクルトが前に大きくジャンプし、距離を稼いだ。悔しがったアイネアがジャンプして、危うく転びそうになった。

 ここでノイマンが二人を叱った。

 結局、二人で一緒にランタンを持つことになった。



「おはよう、三人とも。おや、綺麗なランタンだね」

 ブルーノ神父は今日も教会の外で村人たちを出迎えていた。

「いいでしょう、ノイマンが作ってくれたんだ!」

 クルトがランタンを持ち上げる。一緒に持っているアイネアも腕を上げる形になった。


 温かいランタンは、他の村民からも注目の的だった。

「いいなー。ウチにも作ってよ」

「無理だ。自分の分すら作れねぇのに」

「畑仕事に良さそうだなぁ」

「火を使わなくても温かいなんて、不思議」

 ランタンの周りに集まってミサをした。

 ブルーノ神父まで一緒になって、ランタンを囲んでいた。ぎゅうぎゅうになって、もはや温かいのがランタンのおかげか、皆で集まっているせいか分からないくらいだった。

「ノイマンもおいでよー」

「俺はいい」

「なぁノイマン、もう一個くらい作れないのか?」

「魔石を使ってるんだぞ。魔物の核だ。同じ魔物が現れねぇ限り、無理だ」

「でも、火の魔法は基礎中の基礎なんだろう」

「こいつを、そんじょそこらの火魔法と一緒にするんじゃねぇ。こいつの凄いところはな……」


「あれっ、ランタンが!」

 クルトが声をあげた。ランタンの赤い魔石が、光を失った。とたん、急速に温かさが失われていく。


「ど、どうしようノイマン、壊れちゃったぞ!」

 アイネアがランタンを彼に差し出した。


「……こいつの凄いところはな、再利用できるところだ」

 ノイマンがランタンに手をかざす。彼の手から魔力が流れる。ランタンは再び光を取り戻した。

「魔力を込めることで、何度でも使える。超、優れものだ」


「じゃあ、魔力を込められなかったら……」

「数時間で効力を失う。さっきみたいにな」

 村人たちは落胆した。

「なーんだ、じゃあ暖炉のほうがいいねぇ」

「ウチらじゃ魔力を込められないもん~」

「ブルーノ神父、何か温かくなる話、ない?」

「うん、今日のお話はね……」



 今日の説法は、家で使用人のようにこき使われる女の子の話だった。継母と姉たちのいじわるで一人だけ舞踏会に行けなかった女の子は、畑で泣いていた。そこに魔女が現れ、彼女に素敵なドレスと靴、そしてカボチャの馬車を与えた。女の子は大喜びで舞踏会に行き、運命の王子様と出会うのだった。



「今日の話、良かったな!」

 帰り道でアイネアはご満悦だ。

「女の子が幸せになって良かった。カボチャの馬車も面白かったね!」

 クルトも大満足だ。

「ノイマン、僕もカボチャの馬車に乗ってみたいよ」

「うーむ、カボチャを馬車にする魔法か……流石に知らねぇな」

「私もドレスを着る魔法が欲しいぞ! 家に帰ったら、書物を探してみよう。あんなに本があるなら、一つくらいそれっぽい魔法が見つかるかもしれない」

 アイネアが言った。

「……まぁ、学習意欲が沸いたようで、何よりだ」

 家の本の中身を全て把握しているノイマンは、余計なことを言わないでおいた。

 クルトが声をあげた。

「ねぇアイネア、馬だ! 馬がいるよ!」

「え?」


 アイネアが目をこらすと、庭の柵に立派な白馬が繋がれていた。

「本当に馬だ!」

 驚いた二人はぱたぱたと馬に走って行った。


 玄関前に見知らぬ男がいた。

「あれって、騎士じゃない⁉」

 胴当てをまとい、剣を下げた騎士だ。


 騎士はこちらに気づくと、ノイマンに敬礼した。

「おはようございます。今、お帰りですか?まさか外出されていたとは……」

「何の用だ」

 丁寧な物腰の騎士とは対照的に、ノイマンの口調はつっけんどんだ。騎士は懐から一通の手紙を取り出した。

「陛下よりお手紙を預かっております。お受け取りください」

 ノイマンの冷たい態度に、騎士は気分を害した様子もない。彼に手紙を渡した。

「馬はいつものように、こちらに繋いでおります。では、私はこれで」

 騎士は再び、丁寧な礼をする。ノイマンの後ろにいるアイネア達をチラと目にしたが、何も言わず、そのままきびきびと歩き去った。

「……今の人、騎士だよね。本物の騎士!」

 騎士の姿が見えなくなってから、クルトが興奮ぎみに口を開いた。

「まぁ、そうだな」ノイマンはさっさと家に入る。指を鳴らすと、暖炉から火が立ち上った。

「すごい、カッコイイ! 村にいる憲兵さんと全然違う! カッコイイー!」

「憲兵が聞いたら泣くぞ」

 ノイマンは苦笑した。

「だって、村の憲兵さんはお腹も出てて、いっつもだるそうじゃん」

「なぜ、騎士が郵便屋の真似事を?」

 アイネアはいぶかしんだ。「その手紙、なんて書かれているんだ?」

「…………」

 ノイマンは何も答えず、手紙を読んだ。

 そして無造作に、手紙を封筒ごと暖炉に焚べてしまった。

 途端、クルトから悲鳴が上がる。

「あぁー‼ なんで燃やしちゃうのさ!」

「内容は分かった。取っておく必要もねぇ」

「綺麗な封筒だったのに……」

「売り物にもならねぇぞ。貴族の韻が入ってるものを勝手に売ったら犯罪だ」

「ふーん、そうなんだ。じゃあいいか」

「やっぱり、金稼ぎが目当てだったか」

 ノイマンはため息をついた。

「アイネア、しばらく研究は休みにする」

「うん? ……分かったぞ」

「クルト、台所に水筒がある。よく洗っておいてくれ」

「いいけど、出かけるの?」

「ああ。数日ほど家を空ける。留守番してくれ。何か困り事があれば、村の者を頼るように」

「どこに行くの?」

「ちょっと遠くだ」

「どこ?」

 クルトはもう一度聞いた。

「お前たちには関係ない」


 ノイマンは杖を引っ張り出し、研究室で何やらごそごそ準備しだした。

 アイネアはクルトを呼び止めた。

「あの紋章は、王家のものだ」

「王家って……じゃあ王様が、ノイマンに手紙を出したってこと⁉」

「きっとそうだ。だから、わざわざ騎士が届けに来たんだ。王様の手紙を、そこいらの郵便屋に預けることなんてできないから」

「どんな内容だったんだろう」

「気になるぞ」


 クルトがハッとした。

「僕、分かっちゃったかも」

「本当か⁉」

「きっと舞踏会だよ!」

「ぶ、舞踏会?」

 アイネアは首をひねった。


「今日、ブルーノ神父がお話を聞かせてくれたでしょ。あの話でも、城からの使者が舞踏会への招待状を運んでいたよ。だからきっとノイマンも、城で美味しいものを食べたり、ダンスをしたりするんだよ!」

 キラキラした目で熱く語るクルト。

「そ、そうかぁ……?」

 アイネアはノイマンが舞踏会でダンスをする姿なんて、想像できなかった。


「ノイマンはどちらかというと、恵まれない女の子にドレスを着せてあげる魔法使いって感じだろう」

「うーん、確かに」

「聞いても教えてくれないし。こうなったら、確かめる方法は一つだな」

「なに?」

 アイネアは悪い顔をした。


「こっそり……後をつけるんだ!」

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