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3話 洗礼

いつも読んで頂きありがとうございます♪

ストレス発散目的で緩く書いてますので拙い文章力ですが最期までお付き合い下さい。

★★★

 カラッカ大湿原の一件から1月と少し。


 この世界の生活にちょっとずつではあるが慣れてきたと言える。


 なんせ、依頼完了前後に食する飯が美味いのなんの。


 今日も王都の空は快晴一色であり、なんとも清々しい日和にそよ風も相まり、王都の一角にある料理屋のテラス席で幸せを感じられている……はずなんだ……。


 向かいの席にこの男さえ居なければなッ!


 「何よ?不服そうねぇ〜。」


 そこに背をもたれて着席している男の名はオーキッド・ライラックと言って、王都では知る人ぞ知る愛称、〝フローラちゃん〟と呼ばないとマジギレするいわゆるオネエキャラであるが、声音は男の類いそのものだけどフローラちゃんの声域はそれはそれは広く、目を瞑って聞くと女性が喋っているのかと思う事も……偶にあるが、基本的に男だ。


 それもかなりの筋骨隆々、そんな事よりも重要なのは彼は転生者である。


 しかも出身は日本で、何なら生きていた時代もほぼ同世代。


 それゆえにフローラちゃんが勝手に持つ親近感に俺は毎度ある種の疲労を感じる。


 「もぅ〜、投矢ちゃんってば……こうして毎朝顔を合わせて、共に食事して、時間を共有するって事は大事なわけで……それは最早夫婦の証!」


 「ちゃうやろ、ギルドマスターからの依頼で帯同しとるだけやないか。」


 「あぁん!もう、冷たいわね!貴方のような二枚目は懐が深く無いと損よ、損ッ!……第一、ギルドマスター(クリフト)に言われなくともロッサちゃんに言われたら断れるわけないんだから。」


 「ロッサ?誰だそれ?」


 「あら、貴方は知らないのね。なら教えてあげる、ライラちゃんの事よ〜。本名は〝ロッサ・ライラック〟。ライラック伯爵家の直系令嬢なのよぉ。ライラはまぁ、愛称なんだけど……まぁ色々あるのよ。」


 そう聞いて俺は心底驚いたのも、ライラック伯爵家とはこの国セキトバの重鎮や英雄を数多く輩出している名家であり、初代当主は異世界転移者だったとライラから聞いたことがある。


 そんな名家に生まれたのなら何故ギルドなんて血の気が多い汗臭い輩しか居ない場所で従事しているのか甚だ疑問を持ってしまう。


 名高い貴族が出自なら茶会や貴族淑女ならではの生活が出来るだろうに……。


 フローラちゃんがいう〝色々〟もご貴族様特有のやっかみが関係しているのだろうと察する事は容易だ。


 「ロッサ(薔薇)ライラック(友情)ね……。」


 「そうそう、〝初恋〟とか〝愛の芽吹き〟とかの意味もあるのよぉ〜。」


 「はいはい、解った解った。」


 フローラちゃんと話していると、どうにも純潔やら恋話になるから調子が狂って仕方ない。


 一度話が始まるとうんざりするほど長くなるので俺は毎回、その手の話をぶった斬るよう努めている。


 「あのな、フローラちゃんさ、君が〝恋話〟すると〝濃い話〟になるんだよ、判る?」


 「何よ〜?可愛い姪っ子の話なのに、失礼しちゃうわね。」


 俺は口に含んでいた果実水を吐き出してフローラちゃんの顔を汚しつつ(むせ)る。


 「ちょっと、ちょっとッ!ヤダッ、ご褒美じゃない!」


 俺の吹いた水滴を犬並みの舌使いで舐め干している男のエグみはある意味で怖ろしい。


 というか、フローラちゃんとライラが親戚だという衝撃の事実の方が畏ろしい。


 ライラック家の系統は一体どういう変遷を辿ればそうなるのか……。


 その事実は俺にとって最早セキトバの七不思議の一つになった。


 「それで、今日はどう過ごすのかしら?投矢ちゃんは。」


 顔はおっさんの癖に中身は乙女。


 無駄に怪しい色香を漂わせるフローラちゃんの言葉尻に俺はしばし考える。


 「そうだな……転移してきてからずっとギルドの依頼しかやってこなかったから偶には休むのも悪くないか。」


 そう聞いてフローラちゃんは二の腕にコブを盛り上げながらガッチリと両手を組み合わせて怪しく喜ぶとライラック家について話を続けてくれる。


 平和の先駆者(ピースウォーカー)と呼ばれた初代当主は今からおよそ五千年前にこの世界に遣わされたらしく、紆余曲折経て、有象無象の癖の強い異世界転者達を一片に纏め上げ、邪を祓い、大陸を統べた史実は『始まりの書』で知っていたが、初代当主亡き後、セキトバは内紛や独立といった数千年に及ぶ経緯があって大陸中に諸国が繁栄した反面、今では世界地図通りに大陸一の小国として存在する。


 しかしそんな小国でも消滅しないのはこのセキトバという国は、資源が豊富な上、数々の異世界転者が繁栄している事もあり、世界の均衡が保たれているらしい。


 だからと言って、そこかしこに転者が居るわけでは無いらしいが世の常は時に異変を来たすもので実のところ世界の真理は誰にも分からない。


 紫の華紋記章(ライラック)は平和の証とフローラちゃんが言うのもそういった歴史から来るものだろう。


 そういった話をする中で、偶に前世界の話をするのだが、世代的に恐らく俺より一回り上なのか、フローラちゃんの不意に出る言葉や金言に俺は笑い、懐かしむ。


 話は脱線する度戻るのだが、ライラのことに関しては一切口を割ろうとしないのも彼なりの紳士な一面。


 「私は乙女よ!」


 などと隙を見せれば乙女を連呼する彼だが、話題は尽きない。


 朝早くから店に居たが、気が付くと昼前に差し掛かろうとした頃、1人の男がテラス付近の通りを歩いていたのだが、フローラちゃんは自然に声をかけ立ち止まらせた。


 活発な返事をした相手はこの王都シンハで鍛冶師を営むマサモト ツチヤと言って親しい者からは〝ムネさん〟と呼ばれている。


 彼もまた、日本出自なのだが、少し違う転者である。


 というのは彼は何度か転生も転移も経験があるという珍獣。


 初めに生きた時代は俗に言う鎌倉時代、鍛冶師として生きていたらしく、その後は戦国時代でも猛威を振るった様で、その後は前世界の現代にも足を踏み入れたらしいが、その頃になると鍛冶師の肩身が狭く、神に直訴して、この世界にやって来たなんてぶっ飛びすぎる展開に俺は笑ったが彼も笑っていた。


 「貴方ねぇ、〝ムネさん〟の過去笑うなんて正気なの!?この方は誰もが知る……。」


 「よいよい、フローラちゃんよ。久方の転移者に会えて儂も嬉しいのよ。噂になっとる冒険者というのはお前さんだろ?」


 「噂?」


 「あら、知らないのね。貴方、転移とカラッカ大湿原の一件で〝平野の魔人〟って異名付けられてるのよ。」


 初耳だ。


 そういや、先日何日か振りにライラに偶々街中で会ったが、何かよそよそしかったのはこれかと確信した。


 「距離が半里近くあるにも関わらず大岩猪を石礫(いしつぶて)で仕留めた奴がいるって専ら評判だぞ。まぁ、儂くらいなると直接見ればお前さんの噂が真かどうか判るわい。ここで居合わせたのも何かの巡り合わせやも知れぬ。どうじゃ、儂の工房に来てみるか?」


 このままではフローラちゃんの独壇場だし、気分を変える意味でもその誘いは丁度良かった。


 俺はムネさんの案内についていく道中にフローラちゃんにそれとなく聞いてみた。


 ムネさんが俺を誘った折、フローラちゃんは凄く驚いた表情をしていたから他ならないのだが、フローラちゃん曰く、ムネさんはおいそれと会うことはおろか話も出来ない立場の御仁らしく、貴族や王宮の遣いさえ気を遣うほど雲の上にいる存在。


 そんな人が自ら声をかけるなんてこと自体が異例らしいのだが……。


 「儂の工房よ。」


 気さくに話しかけてくれる御仁の巡り合わせに恵まれたのか、俺も自然体で接するが、フローラちゃんはその度に緊張しては俺を諭す。


 「名工の割に鍛冶場は小さいんだな。」


 フローラちゃんの肘打ちがモロに脇腹を抉る。


 「そこいらの尻の青い若造らと同じ様に見られるのは心外じゃよ。店構えを目立たせたいならば商売っ気のある輩らがやれば良い。儂は鎚を振るう金床と炉が有ればそれで充分。」


 工房内に幾つか飾られている武具や道具に目を通すと名工と呼ばれる由縁が俺には分からなかったが、その出来栄えの美しさだけは理解出来る。


 鍛冶師と言えば主に刀剣の武具類を造る者を指すと思っちゃいたが、農耕具や生活工具の多岐にわたる道具鍛冶も請け負っているらしく、王都シンハは彼にとって至福の極みらしい。


 「今生はここでひたすら鍛冶をやる。それが、儂の幸せよ。」


 転者として複数回異世界を経験している彼にとって今世は至福を極めるのが目標らしい。


 案内するやいなやムネさんは俺の全身を舐め回すように見つめては能力開示(ステータスオープン)をあっさりと求め、その勢いに押し負ける俺は、開示前に一度フローラちゃんに視線を溢した。


 唐突すぎる違和感にフローラちゃんは、堪らずムネさんに真意を問うと、彼はあっさりと白状してくれる。


 転者のなかでも転移者だとそれに見合った得物を持つべきとの持論もあったが、今後の冒険者活動を見据えれば投石のみではいずれ苦しくなる日が来るだろうと予測して、先手策として武具を作らせて欲しいという点と、後は単なる彼の興味。


 「ライラからは、能力に応じた武具類を揃えるよう教わったが、良いのか?フローラちゃん。」


 活発鋭断なフローラちゃんは珍しく頭を抱えながら苦肉の策だと苦し紛れに答えていたが、ムネさんが、うきうきと胸を躍らせて喜び、能力開示を強請(ねだ)ってきて、その執念たるや勇ましく、暑苦しいかぎり。


 勢いに負けたのもあるが、いずれは誰かに装備を頼む事を考えればこの際、いい機会だと割り切り了承したが、フローラちゃんの表情は何処か暗い。


☆☆☆


 「本当にこれで良かったのかしら……。」


 「大丈夫だろ。ライラになんか言われたらフローラちゃんの鋭断ならぬ英断だと話すと約束しただろ。」


 「でもねぇ……あんな事態になるなんて考えがちっぽけでもあれば仲介なんてしなかったわよ。あぁ~もう!ライラちゃんになんて説明すればいいのよッ!……まだ時間あるわね、現実逃避に付き合いなさいよ!」


 ムネさんとの意外な出会いを呼び寄せた礼を兼ねて俺はフローラちゃんの欲求解消に付き合う事にしたはいいが、ここは……。


 「そう!ジム(マイ・キャッスル)よ!」


 いやわざわざマイク使ってエコー音かけなくとも……。


 そこは近代的な造りで俺は少し感動したが、この場所だけ妙に馴染みある光景で俺の脳内は違和感しか仕事をしてくれない。


 「スパーリングよ!スパーリング!」


 そう叫んだフローラちゃんは施設内にあるリングルームに案内すると、そそくさと準備を始める。


 室内にいる利用者達の身体つきは玄人だと素人目にも判る。


 そんな彼等の態度や接し方から察するにフローラちゃんはここの上客かと思いきや経営者だと涼しげに答える。


 格闘技は未経験なゆえにヴァンテージの巻き方からスパーリングの規則に至るまで最低限教わるが、妙にフローラちゃんの呼気が荒く、興奮している。


 「実はさ、このひと月貴方に付き添って思ったことがあるのよ。それを確かめたくってここに連れてきたのよ。」


 「確かめたい事?」


 「貴方、野球経験あるって言ってたでしょ?私の経験上、野球経験者ってボクシングに向いてたりするもんなの。」


 「あ、それ双子の兄弟が題材の漫画が元ネ……。」


 「シャラァァァプッ!!それ以上はお黙りなさい!それはそれ。野球ってさ投げるも打つも足腰の強さは重要で荷重移動の精度次第で技の冴え方が変わるじゃない?似てる要素は格闘技に多いったらありゃしないのよ……だから貴方の遠投、いやあれは砲撃ね。魔素の精度も制御もてんで話にならないの。粗すぎなの!幾ら転移者だからって始めからスキルレベル天井とか本当にふざけているし、研鑽の〝け〟の字すら知らないままで居られる程この世界は甘くはないわよ。それに知らないでしょうから教えてあげちゃうけど、名の通った元プロ野球選手の転生者なんてのも居るんだけど、前世で野球を極めたと言っても過言じゃない彼でもスキルレベル6よ、6!貴方とんでもない原石なんだからね!自覚しなさい!」


 誉め……てる……のか、どうか分からないが、フローラちゃんと会話しながら双方リング上で向かい合うと知らぬ内にリング周辺に見物人が集まっていて気にはなったがフローラちゃんは気にも留めずストレス発散を要求し、互いに拳を一度触れさせ開戦の火蓋を切る。


 本来ならばヘッドギアやグローブやプロテクターを付けるんだろうが、そこはフローラちゃんの要求に応えて非装着とした。


 このスパーリングの目的は当初、フローラちゃんの鬱憤晴らしかと思っていたが、それは半分本気で残りの半分の理由は近接戦闘時における身のこなし方と魔素の扱い方の基礎訓練と魔力制御の精度向上という応用訓練であった。


 ここ最近、超長距離戦法である遠投のみの戦闘しかしてこなかったが、体調が悪けりゃ制球が定まらない事と魔力切れが早い事の二点が弱点であるとフローラちゃんから指摘を受けていた。


 魔力切れに陥ると卒倒したり、立てなくなるなどするもので、それは冒険者としては避けねばならない致命的な欠陥になる為、少しでも耐えうる精神力をどう鍛えようか考えていたらしい。


 魔力の制御精度向上は魔素の扱い方が丁寧であればあるほど御しやすくなる。


 魔力の使用回数の増加や低出力でも高性能化出来たりするらしい。


 ひいてはそれは、魔力量の上限増加と同義であり難敵、強敵を倒しても中々能力格が上がらない俺にとっては救いの手。


 これはもうやるしか無いと意気込んだもののスパーリングはフローラちゃんの一方的による暴虐で俺は彼のサンドバッグなんじゃなかろうかと思ったり、魔力制御が遅れて手痛い一撃を喰らうとその場で吐いたりしたが、フローラちゃんの鬼気迫る『サンドバッグも嘔吐くらいはするわよ。でもね……直せばまだまだ使えるのよ……。』の言葉に戦慄しながらも日暮れまで絶えずしごかれる羽目になっていた。


 (きつい……こんなにも身体が悲鳴をあげるのはいつ以来だ……。)


 呼吸も辛うじて出来る限界ギリギリの状態で一人で立ち上がる事すら気がはいらずリング上に寝そべって居ると視界外からフローラちゃんが余裕綽々な態度で口を尖らせて顔を近付けてくる。


 俺は慌てて生命からがらリング上から転げ落ち難を逃れた。


 「あら、動ける元気有るじゃない?」


 半ば残念がる彼を見て、何残念がってんだと気を吐くが、隙を見せたらいけないと俺の魂が叫んでいるから、よろけながらも汗を流しに向かい、ひとしきり落ち着いてからフローラちゃんが居る場に戻ると、今日の負荷の回復や今後の方針を話し合う。


 明日以降の冒険者活動は暫くの間、午前中を重点とし、午後はフローラちゃんのトレーニングジムにてスパーリング相手、例外事態を除き基本日程として、午前中に片付かなさそうな案件は極力避けて比較的短時間で終わる案件を最優先とし、それでも生活費が心許ない場合は、フローラちゃんが飯を奢る事で話は決着。

★★★


 月日は流れ、冒険者の格は下から二番目、三番目と昇華したが、未だ能力の格に変化は無かったのは残念の一語に尽きる。


 だが、冒険者格が一つ上がる度、収入額も桁が一つ増えてゆく感動は、前世界で給与万年据え置きだった俺からすると実に衝撃的。


 毎日、毎日飽きること無くコツコツと研鑽に研鑽を重ねていればこうも人生とは楽になるのかと実感するが、まだまだ上には上がいる。


 そうして成人を迎えた俺はフローラちゃんの城に通い始めてから三度目の寒気を迎えようとしていたある日。


 いつもより賑やかな雰囲気のフローラちゃんの城から用を済ませて出ようとした際、何処からともなく声がした方向を見ると皆が律儀に挨拶をくれていた。


 それを不思議に感じつつも王都の中央大通りを歩く最中フローラちゃんと話しこける。


 「そりゃ、そうよ。貴方の当初から有った狂気染みた腕力と体力と機敏さはただでさえ驚異だっていうのに……それに、普段の貴方の研鑽ぶりを観てしまったら、当然な反応でしょ。今ではマイ・キャッスルに来る誰もが貴方に憧れているのよ?」


 相変わらず派手な化粧に目立つ色合いの私服から然りげ無く強調される胸板はまるで昭和の歌謡スターのようだが、この世界においては斬新な装いとして受け入れられているのか、誰もがフローラちゃんに気付くと愛想よく接してくる。


 流石Aランク冒険者にして王都名物オネエ。


 人柄も器量も良いのは()ることながら、俺との特訓中に突然、天啓を得たとかなんとか言って冒険者稼業に通ずる〝野外活動〟を地道に始めた結果が実を結び、今では年齢も性別も関係なく人気沸騰中。


 そりゃ道歩けば、その迫力(オーラ)は嫌でも目につくもので……。


 「特に、洗礼の儀式でのあの騒ぎは貴方ってつくづく馬鹿げていたわよ。既成人である私達も再び神々の声を聞くなんてね。」


 それは、セキトバの民として生きとし生ける者は総て15歳になる年に儀式を受けるのだが、これがまた趣向が変わっている。


 新成人は洗礼の儀式と呼ばれる特別な日に神殿内で祈りを捧げると、魂が肉体から離れ異空間にて各々の素質に見合った神々から()()を受け恩恵を授かるのだが、その際、祈祷中の当人の肉体は光を宿し幾分の灯りを放つ。


 俺の場合、当初、新成人で唯一、肉体に光を宿さず暫くした後に何事かと思う程の輝きを放ち続けたらしい。


 思い当たる節は見事にあった。


 それは神殿の大鐘楼から聴こえた音色に(いざ)われた異空間での出来事。


 転移してきた日から聴こえなくなっていた声の主と再会し、神界で巻き起こった諸々の経緯を聞かされるが、転移に関する詳細は未だ不明。


 挙句、俺はこの世界の神々ですら不可解極まりない存在のようで、どう考え、どう生きるか見極める為にあえて洗礼の日まで口出し無用と黙ってきたらしい。


 「都合良い言葉で何よりだ。で、そっちの言い分じゃ結局俺は前世界に還る事は今のところ出来なくてこっちの世界で好き勝手に生きろって?」


 「神界は今後も貴方を見守り続けるという結論です。何せどうしようも無い異常事態(イレギュラー)なので。お詫びの印に幾つかの恩恵を授けますが、条件が有ります……。」


 不満の一つや二つくらいそりゃ出るし、聞かされた条件とやらもまるでMMORPG地味ていて、率直にゲーム感覚で人生謳歌しろと言われたようなもんだ。


 知らない地に引き込まれ対処不能ですが善処しますとか……もう、何が何だか……。


 今後の方針、人生設計について声の主とあれこれ話し込んではみたものの先が思いやられる。


 「それに先んじて、貴方には是迄の対価をお支払い致します。」


 そう聞いた直後に俺の意識は肉体に戻っていて、暫くした後に俺は目を開けたがフローラちゃんとライラは偉く慌てていたし居合わせた王宮や神殿のお偉方も同窓ならぬ同洗礼者らも動揺していた。


 それに対価と言っても結局は己の研鑽次第じゃねぇかと、がっかりな気もした。


 ―――それからは何度かムネさんに装備の新調をされたり、冒険者格Dの癖にフローラちゃんとほぼ互角に渡り合う迄の実力をつけたりと話題に事欠かないのだが、神々はそんな俺を見守り続けて居るのだろう。


 洗礼で聞かされた条件も思い返せば、その内に試練なんてのは幾つも起こり得る。


 前もって聞かされているのは有難い。


 (冬……か。優雅は今頃何してんのかな……俺はあっちの世界じゃ死んだ事になってんだろうか……。)


 深々と降る柔らかな雪景色をぼんやりと見上げ立ち止まっては想いを馳せたが、フローラちゃんの声に気付いて視線を向けてから王都の大通りを再び歩き始めた。―――




 ―タウロス暦516年、冬


 平野の魔人(菱形 投矢)、異世界転移三年目の後期―


 この翌日から本格的に運命は動き出す事になる。

 

ここまで読んで頂きありがとうございました♪

一身上の都合により不定期更新ですが、また次話読んで下されば嬉しいです♪


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