第38話:真空エネルギーの独占ライセンス
惑星テラの上場成功から数日。
私の執務室は、もはや地上のビルではなく、静止軌道上に建設された「ノアール・オービタル・ハブ」へと移されていた。
窓の外には、星々の間に広がる果てしない「虚無」が広がっている。
だが、アイザック所長の目には、そこは空っぽの空間ではなく、莫大なエネルギーが渦巻く「未開拓の油田」に見えていた。
「お嬢様、見てくれ! この数式が、宇宙の『不都合な真実』だ」
アイザックが、空中に巨大なテンソル方程式を展開した。
$$\rho_{vac} = \frac{\Lambda c^4}{8\pi G}$$
「銀河中の高度文明は、この真空エネルギー(ゼロポイント・エネルギー)を抽出して、ワープ航法や恒星維持に使っている。
だがね……彼らの抽出効率は、僕の理論からすれば『ザル』だ。エネルギーを無駄に熱として垂れ流し、宇宙のエントロピーを加速させている」
「……つまり、彼らは『非効率な方法』で、宇宙の共有財産を浪費しているということですね?」
「それだけじゃない。彼らが使っている抽出プロトコルは、一万年前に『管理機構』が配布した古い規格だ。僕はそれを改良し、抽出効率を400%向上させ、かつ熱汚染をゼロにする**『ノアール式真空安定化術式』**を完成させた」
私は、その術式を即座に「銀河知財局」に登録した。
「アイザック所長、素晴らしい仕事です。……では、これより全銀河のエネルギー供給業者に対し、**『特許権侵害の警告書』および『技術移行の強制勧告』**を送付します」
数時間後。
私の端末には、銀河の有力なエネルギー企業のCEOたちから、怒号に近い通信が殺到した。
『エリシア総裁! 真空は宇宙の共有物だ! それを貴様の特許だと言い張るのか!?』
「真空は共有物ですが、そこからエネルギーを『安全かつ効率的に』取り出す**論理構造**は、我が社の独占的知的財産です」私は、彼らが現在使用している「旧式抽出法」が、どれほど宇宙環境を破壊しているかの損害評価額を提示した。
「貴方がたの旧式プロトコルは、真空の相転移(真空崩壊)を引き起こすリスクを孕んだ、極めて危険な欠陥商品です。
……本日をもって、我がノアール社の特許を使用しないエネルギー抽出は、**『宇宙安全基準違反』**として保険の適用外となります」『な……っ、保険が下りなければ、ワープ航行も恒星の維持もできんぞ!』
「なら、今すぐ我が社のライセンスをご購入ください。……一テラワットあたり、銀河標準通貨で0.1クレジット。……さらに、我が社の『規格』を導入した企業には、今回上場したテラ株の優先購入権を差し上げましょう」
怒号は、数分で「契約条件の確認」へと変わった。
宇宙のエネルギー供給という、文明の心臓部。その「OS」を、私は特許という名の筆記用具一本で書き換えたのだ。
「……お嬢様。もう『令嬢』を自称するのは無理があるわね。……全宇宙の電球を点けるか消すか、お嬢様の指先一つで決まるようになっちゃった」
セラフィナが、銀河中から振り込まれる天文学的なロイヤリティ(特許使用料)の通知を見て、呆れたように笑う。「私はただ、宇宙の『無駄な熱』を、適切な『利益』に変換しているだけですよ」宇宙の「虚無」すらも、私の帳簿の中では、輝く「資産」へと姿を変えた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
宇宙のフリーエネルギーに「特許」をかけ、
「安全基準違反」を盾に全宇宙から使用料を徴収するエリシア。
もはや彼女は、物理法則そのものを「サブスクリプション・モデル」にしてしまいました。
次回、第39話。
エネルギーの次は「時間」です。
星ごとにバラバラな時間の流れを、エリシアが「ノアール標準時」に無理やり統一。
時間のズレを利用した『秒速の裁定取引』で、
銀河中の富を瞬時に奪い取る、究極の金融戦争が始まります。
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