第36話:銀河裁判:神を「被告」として提訴する
監査官アストラに導かれ、私とカイルム、そしてアイザック所長は、次元の壁を越えた「銀河法廷」へと足を踏み入れた。
そこは星々の瞬きが法典の文字として流れる、実体を持たない高次元空間。玉座に座るのは、数万年の歴史を司る十二人の「大監査官」たちだ。
「……人間よ。貴女は管理機構の請求を拒むだけでなく、逆に我々を訴えるというのか? この全宇宙の秩序を維持する我々を、何の罪で?」
大監査官のリーダーが、超新星のような威圧感を放ちながら問う。
私は、カイルムが差し出した「銀河規模の市場調査報告書」を空間にスワイプした。
「罪状は明確です。第一に、銀河独占禁止法に基づく**『市場支配的地位の濫用』**。および、第二に、過去一万年にわたる**『不当利得の返還請求』**です」
法廷が、激しいノイズ(ざわめき)に包まれた。
「……独占禁止? 我々は秩序を守っているのだぞ!」
「いいえ。貴方がたは『惑星管理』という公共サービスを独占し、他者の参入を阻んでいます。その上で、住民が預かり知らぬところで『地脈の魔力』をシステム維持費として密かに吸い上げてきた。……これは、隠れた徴税であり、不透明な**『エネルギー・中抜き』**に他なりません」
私は、アイザック所長が衛星データから解析した「地脈エネルギーの流出経路」を法廷の空に投影した。
「記録によれば、地上の魔力の30パーセントが、宇宙のシールド維持という名目で機構の口座へ自動転送されています。しかし、その維持コストの明細は一切公開されていない。……これは、サービスの対価としては過剰な、悪質な搾取です」
「……それは、宇宙の平穏を保つための必要経費だ!」
「『必要経費』であれば、その領収書と見積書を提示してください。……提示できないのであれば、それは管理ではなく**『横領』**です。……私は、この一万年間に不当に徴収された魔力の時価換算分、金貨にして八百兆枚相当の返還、もしくはそれに見合う**『銀河インフラの運営権の譲渡』**を要求します」
大監査官たちが絶句する。
彼らにとって、惑星の住民は「管理される家畜」に過ぎなかった。だが、その家畜が、彼らよりも精緻な「会計学」を武器に、彼らの支配構造そのものを法的・経済的に解体しようとしているのだ。
「……アストラ。この人間は、我々の存在そのものを『負債』として処理しようとしているのか?」
アストラは静かに頷いた。
「……はい。彼女の論理において、神とは『不透明な中抜きを行う中間業者』に過ぎないようです」
私は、法廷の全生命体を見据え、冷徹に宣告した。
「神であることを証明する必要はありません。……ただ、『健全な取引相手』であることを証明してください。……それができないなら、貴方がたは本日をもって**『経営失格』**です。……これより、この惑星の運営権を巡る、敵対的買収を開始します」
星々が、一人の令嬢が放つ「正論」の重みに、激しく明滅した。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
宇宙の絶対者に「領収書を出せ」と言い放つエリシア。
「神=高コストな中間業者」という定義付けは、
実務の極致に達した彼女にしかできない、最高に知的な「ざまぁ」です。
次回、第37話。
裁判で機構を揺さぶったエリシアは、次なる一手に打って出ます。
それは、地球という惑星そのものを「株式会社」として銀河市場に上場させる、
前代未聞の『惑星IPO』。
神の支配を、「株主の総意」で上書きする回です。
この「神を子会社化する物語」の投資家の皆様、
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