第18話:情報の超高速化(マジック・テレグラム)
この大陸における情報の伝達速度は、最速の早馬を使っても一日に二百キロが限界だった。
重要な公文書や宣戦布告、あるいは相場の変動。それらは常に「過去の遺物」として現場に届き、人々に誤った判断を強いてきた。
「情報の遅延は、そのまま『損失』に直結します。……カイルム。……中継塔の設置状況は?」
「はっ。ノアール領を起点に、旧王国全土、および帝国主要都市を結ぶ百二十四基の魔導通信塔が、本日未明に完全同期いたしました」
カイルムが、ノアール領の全域に張り巡らされた魔導回路の地図を指し示す。
「素晴らしい。……セラフィナ、これより『魔導電信』の独占運用を開始します。……手数料は一文字につき銀貨一枚。……ただし、ノアール・クレジットで決済する場合に限り、九割引きとします」
「お嬢様……これ、ただの通信手段じゃないわよね。……全通信データが、この執務室の『中央サーバー』を経由する設定になっているけれど」
「情報の安全性を保証するための『検閲』です。……不穏な動きを未然に防ぐ。……それは公共の利益に叶うと思いませんか?」
私が冷徹に微笑んだ数時間後。
隣国ルベリアの王宮では、密かに「対ノアール秘密会談」が行われていた。
格付けを下げられた諸国の王たちが、私の包囲網を破るために、一斉蜂起の計画を練っていたのだ。
『……よし。明朝午前六時を期して、全軍でノアールの検問所を強襲する。……この計画は、我が国の最高機密だ。伝令を走らせろ!』
ルベリア王が、震える手で秘密の命令書を書き上げる。
だが、その命令が早馬に乗って城門を出た瞬間。……私の手元には、すでにその「全文」がテキストデータとして表示されていた。
「……ベルベット。……ルベリア王の『私信』、読み応えがありましたね。……私のことを『血も涙もない金の亡者』と評していましたか」
「ふふ、お嬢様。……その亡者に、今すぐ喉元を噛み切られるとも知らずにね」
ベルベットが、闇の中からルベリア王国の『全資産凍結リスト』を差し出す。
午前五時。蜂起の一時間前。
ルベリア王の寝室に、緊急の魔導電信が届いた。
> **【緊急:ルベリア王国 信用格付けの再改定】**
> 1. **判定:** D(実質的な破綻)
> 2. **理由:** 未遂の軍事暴発による「統治能力の喪失」。
> 3. **措置:** 王国が保有する『他国への全預金』の強制相殺。
>
> **追伸:** 兵士たちが朝食を食べるための『購買カード』、たった今使用不能に設定しました。空腹の軍隊が、王宮を襲わないことをお祈りします。 ――エリシア
『な……っ、な、何だと!?』
ルベリア王が窓の外を見ると、そこには武器を捨て、支給されなくなった食料を求めて暴動を起こし始めた自国の兵士たちの姿があった。
戦う前に、軍隊が「組織」として消滅したのだ。
「……将軍に告げなさい。……『情報の速度に勝てない者に、戦場に立つ資格はない』と」
私は、朝の珈琲を一口含み、手帳の「ルベリア王国」の欄に横線を引いた。
宣戦布告の紙が届く前に、その国はすでに私の帳簿上で「売却済み」となっていた。
「早馬」が届く前に、「電子メール(魔導電信)」で勝利を確定させる。
物理的な距離をゼロにする情報革命は、封建的な王たちにとって
魔法の杖よりも恐ろしい凶器となります。
監視社会と独占資本。
エリシアの支配は、もはや誰も抗えない「インフラ」へと進化しました。
次回、第19話。
ついに世界を襲う『ノアール・ショック』。
意図的に引き起こされる暴落の中で、エリシアが「世界の王」としての
最後の椅子を買い取るプロセスを描きます。
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