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そばにいたいの

いよいよ完結します。二人はどうなるのでしょう、


気づけば太陽が数十回、登っては沈むのを繰り返した。


いつものように森を巡回していると、俺はあの匂いを感じて立ち止まった。


あの人間だろうか。


だが、違う人間かもしれない。けれどもこの、かすかに甘さが混ざるこの匂いは…。


オレは確認するために匂いの道を辿って行った。匂いは茂みの向こうへと続いている。


「お前……!」


「今日は罠に引っかかっていなかったんですね、お間抜けくん」


茂みを抜けると、そこにはあの人間がいたのだ。


季節が一つ回り終えても、どこにもいなかったあの人間が、あのときと同じように、罠を仕掛けている。


「どうして…?」


だって、あんな恐ろしい目に遭ったというのに。非力な人間がまた森に入ってくるなんて。


「私は男なんです。狩りをしないといけないんですよ、間抜けくん」


人間は呆然とするオレに、弓を見せてくれた。


そして矢を番えず弦だけを弾いて射るふりをした。


この人間はあのときとは違う。


儚いだけだった人間は、力強さを得ていた。俺には分かった。


この人間は変わったのだ。


驚くオレが何も言えないのをいいことに、人間はオレのことを間抜けと何度も呼ぶ。


「オレは間抜けじゃねぇ!バッチっていう人間のオババにつけてもらった名前がちゃんとある!」


「バッチ」


人間がオレの名を呟くと、オレの心臓が騒いだ。


なんだか嬉しいけど苦しい、変な気持ちだ。


「お、お前の名前も…教えろよ…」


照れくさくて、人間の名を尋ねると、人間は少し間を置いてから答えた。


「コーラルです」

「コーラル…」


初めて知った、人間の名前。呟くたびにオレの心が温かくなる。


この瞬間、『コーラル』という人間は、オレにとって単なる『あの人間』ではなく、『コーラル』という名を持った特別な存在になったのだ。


そしてオレはわかったんだ。


あの時コーラルを何故守りたいと思ったのか。何故夜を迎えるたびに恋しさが募っていったのか。


オレが誰の、なんのために縄張りを増やしていったのか。


いずれ出会うメスライオンのためじゃない、たった一人の人間、コーラルのためだ。


コーラルの傍らの心地よさを、オレは知ってしまったんだ。


オレは決意してコーラルの瞳をまっすぐ見つめた。


「コーラル、オレのものになってくれ!」


一世一代のオレの告白。


けれども、しばらく重苦しい沈黙がオレたちの間に立ち込めてしまった。


うつむいて、何かを考えているコーラルの表情は見えなくて、オレはなんだか泣きたい気分になってしまった。


「私がバッチのものになることはできませんが、あなたが私のものになることはできますよ」


やっとのことで沈黙が破られたと思ったら、予想外の言葉が返ってきて、俺はおもわず聞き返した。


「え?」

「ただし、毛皮になれば、の話ですけどね」


意地悪な顔をしてコーラルが言う。


もちろん、冗談だっていうのはこいつの顔を見ればわかる。


前はそんなことを言われたら悔しくて仕方なかったのに、何故だかオレは嬉しかった。


どんな姿でもいい。お前のそばに居られるなら。


毛皮になれば寒さから守ってやることもできる。


ーーー


「オレはお前のそばに居たい。オレの頭からお前のことが離れないんだ。お前のそばに居られるのなら、オレは喜んで毛皮になろう」


バッチはじっと私を見つめて言いました。


その真っ直ぐ向けられる二つの澄んだ瞳が、彼の言葉に嘘はないということを証明しています。


私はその瞳を見続けることが苦しくて、バッチに背を向けました。


「コーラル?どうした、なぜオレの方を見ない?」


いえ、振り向けなかったのです。きっと、私の顔は真っ赤になっていたのですから。


まさかあんな言葉が返って来るとは思いもしなかったので、私は混乱していました。


ほおが熱い。


こんな顔をバッチに見られるわけにはいきません。


絶対調子に乗るに決まっています。


「……冗談ですよ。何を本気になっているんですか?」


「酷っ!オレは本気で…」


わかっています。本気なのがわかるから、困るのです。


だから冗談でごまかそうとしたのに。


思わず大きなため息が出てしまいました。そして、気を落ち着かせてバッチの方に向き直りました。


「バッチ、あなたは若すぎて考えが浅はかですね。もっと考える力をつけ、大人になりなさい。毛皮になってもいいだなんて言ってはだめですよ」


「お、オレはもう大人だ!たてがみだってもうだいぶ生えている!」


確かに、出会った頃に比べればたてがみも伸び、体も大きくはなっているようでした。


「まだちょろちょろじゃないですか。…そうですね、この葉くらいにたてがみが伸びたら、考えましょう」


私は傍に生えていた木に、一枚の葉っぱを見つけ、バッチのたてがみに添えました。


バッチはそれを見て自分のたてがみの長さを比べ見ています。


バッチのたてがみは、この葉の半分より少し長いくらいで。


彼は暫く葉っぱとにらめっこをして何かを考えているようでした。


やがて顔を上げて言いました。


「わかった。この葉っぱと同じにたてがみが伸びたら、絶対コーラルはオレのものになってくれるんだな」


「っ、それは…!」


なんでそうなるんです!そこまで私は言っていません。考える、と言ったのに…!


あまりの衝撃に言葉を失っている私にかまわす、バッチはまくしたてるようにいって、茂みの奥へと駆けて行ってしまいました。


「絶対だからな!約束だぞ!」


「ちょっと、バッチ…!」


森の奥からバッチの声だけが響いてきましたが、もう私には彼がどこにいるのかはわかりませんでした。


「しまった、私、お礼…」


ハッと気がつきましたが、既に彼の姿はどこにもなく、声も聞こえません。


彼には聞きたいことが他にも色々あったのに。


でも、まぁいいか。この葉くらいにあのちょろちょろのたてがみが伸びた頃、また会えるのでしょうから。


それまでの楽しみにしておきましょう。



おしまい。


そしてバッチはたてがみをエクステして伸ばし、コーラルを迎えにいきましたとさー


というのは冗談です笑


これで二人のお話は完結です。


にゃんにゃんシーンのないゆるBLですが、お楽しみいただけたのなら嬉しいです。

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