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――詰めが甘いからな、お前は――
攻撃命令を下そうとした時だった。また〝ライオンハート〟の声が聞こえた。そして画面に変化が起きる。海面すれすれを一直線に、空母へ吸い込まれていった光の帯が、その空母の目前で突然、上昇に転じた。
――そのまま撃ってもいいけどな――
俊哉の脳裏を、映像が駆けた。その映像を読み取ったかのように、機体が光の帯に沿って速度を上げ、上昇地点へ向けて驀進する。
やっぱりこの光は、あいつの『声』だ。あいつが導いている。そう俊哉は納得し、同時に思い出していた。
この機動は〝ライオンハート〟が、『W.A.R.』世界大会の決勝で見せた機動だった。
一際大きな水柱が上がる。その飛沫を軌跡にして、《X―2》がロケットさながら、ほぼ直角に上昇する。光の帯は天空へ伸びて消えていたが、俊哉にはもう、必要なかった。
――後はお前次第や、相棒――
それがわかったのか、〝ライオンハート〟の声は光の帯と同じく、どこか遠くへ行く余韻を残して、消えていった。
十分な高度を得た《X―2》の機首が下を向く。改めて表示された照準レティクルが動き始める。艦橋と飛行甲板の一点。同時に二か所をシステムはロックした。巨艦に二つの赤い花が咲く。
レーダーロック。
――私は正しいことをした! 私は間違ってなどいない――
声が聞こえた。〝ライオンハート〟のものではない。もっと大人の声。だがひどく幼い声。猜疑心と孤独に怯え、世界の片隅でうずくまったまま、誰を信じることもできないでいる人間の声だと、俊哉は瞬時に感じ取った。
――希望など、私には必要ない。希望なら私が作る。この世界に作り出してみせる――
誰の声なのだろう。レーダーロックしたその瞬間、まるでイヤホンを差し込んだかのように流れ始めた声は、自らの脆弱さ、本当は誰かに慰めてもらいたい心を必死で覆い隠す虚勢を張り続けている。
淋しい生き方だ。俊哉は率直にそう思った。
夢も希望も、人が感情として感じるものだ。物体のようにそこに姿があるわけではない。個人が個人だけの想いで、狂気に身を委ねて作り出すようなものではない。
人と人がそこにあること。脆弱で、矮小な自分を認め、許し、着飾ることなくそこにあること。そんな人と人の間に、希望は生まれる。遠く離れていようとも、手を差し出し合えること、信じ合えること。それこそが、希望を生む。
そうなのだろう、と俊哉は思った。まだ曖昧過ぎて、一から説明しろと言われてもできそうにない。それでも〝ライオンハート〟が自分に教えてくれたことは、おそらくそういうことなのだ。




