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機体限界ぎりぎりの速度は、中にいる俊哉にも重圧となって押し寄せていた。ジェットコースターレベルの重圧で抑えられてきたこれまでとは明らかに違う、シートに全身が押しつけられ、眼球が今にも飛び出しかねない圧倒的な力が身体を襲う。
だが、これでもまだ甘い。これを越えなければ。越えなければ、あいつを超えられない。
機体にバレルロールをかけながら、再び降下に転じた《X―2》の中で、俊哉は無音の絶叫を上げていた。
相手には、この苦痛がない。生きているものだけが知る痛みがない。だから兵器としては遥かに優秀なのだろう。
だが、と俊哉は思う。生きているものにしか感じられないものがあるのなら、生きているものにしかできないこともあるはずだ。それがこの苦痛を超えた先にある。そんな気がしてならない。勝手な思い込みであり、都合のいい考えだとしても、そう感じるのだ。だから今はそれにかける。越えた先にある何かを信じる。
その前に身体が砕けるかもしれない。だが、やらねば。自室のパソコン画面に流れた各種のチャットと、幼馴染の笑顔、ただぼんやりと愛していた当たり前の日常が、俊哉の脳で炸裂する。
『やっぱりいい腕や。だがここまでにしようか』
画面にそんな文章が流れた。その文章を表示した画面が次の瞬間、暗く曇る。
空の青と雲の白を背景にしていた画面に影が差した理由はすぐにわかった。追随していた《X―1》が、《X―2》の上方をオーバーシュートしたのだ。
つまり《X―1》は《X―2》の限界速度を優に上回る速さで追い越したのだ。機体性能は三割減、と言ったロバートの重い言葉が脳裏を過ぎる。
対戦闘機戦闘におけるオーバーシュートは、失策の一種だ。絶対の優位である、背後を獲った状態を、そのまま相手に献上することになるからだ。
だが、《X―1》のそれは違った。前方に出てもなお加速し、こちらのレーダー照射を交わすように降下から並行飛行へ持ち込み、さらに左右に大きく動くその機動は、あまりにも軽く、なめらかだった。実際、俊哉にはその背後に追随することはできても、武装管制を操作してレーダーロックを始めることはおろか、やみくもに機銃弾を撃ち放つこともできなかった。
引き離される。そしておそらく、引き離された直後、《X―1》が取る、こちらの存在というプレッシャーのない自由な機動で、この戦闘は終結する。
負ける。




