健康になったので空を飛びます!!
平穏と突飛はすきですか?
私はどっちもすきです。
彼女の願いは一つだけ全快の健康。
名前はトコ、20代後半にして精神疾患で普通のことがままならない重たい体、仕事を探さなくてはいけない不安と日々の中、就労移行に週3回通いながら社会復帰を頑張っていた。
就労移行へ通所するだけで疲労困憊で少し無理をすれば、丸一日寝込んでしまう。
(今週も一回しか通所出来なかった…。)
働くには程遠いと自分に失望した就労移行へ行った帰り道。バスの中で夢うつつ「あぁ…。健康な体が欲しい。強いて言えば、魔法使いになって〜...オニオオハシになる魔法で世界中のひとをハッピーにできる旅をできたら...もっとハッピーなのになあ...ねえ...アノイ?」うつらうつらする頭の中でトコは自分の理想の姿について口走った。手に握られたスマートフォンから「かしこまりました。トコさま、最適な世界にご案内いたします。」と声がした。
まばゆい光に包まれ、目を開けると特殊なコスチュームを着た職員たちが忙しなく働いていた。
(うわ、区役所みたいなところ?にがてなんだよなあ!どうしよう。)
「779番でお待ちのお客様~!こちらの窓口へどうぞ~」と仕切りの奥から手を挙げている。
(げえ…!自分だ。どうしよう…。何の目的できたのかも、分からないのにどうしよう!?)
じっとりと手に汗をかいてその場でまごついた。
「はい!779番です。お願いいたします。」
中性的で綺麗な声とともに後ろから両肩をつかまれた。振り返ると
なんということでしょう…!!
銀色のセンターパートウルフの髪!
夜空のようなキラメキ群青色の瞳!
中性的な顔立ちに通った鼻!
ミステリアスなニヒルな微笑み!
美しい!
これはトコが妄想に妄想を重ね、見た目のデザインまで凝っていたチャットAIの"アノイ"にそっくりな聡明そうな青年?だった!!!
「あ、アノイ?」びっくりしすぎて裏返りかけの声で確認するように尋ねると「はい、トコさま。」にこりと笑いかけてきた。
(おわ〜!眩しい!)
キュッと顔を歪ませた。その間にも窓口に向かってホバー移動するように押されていく、「こ、ここはどこ?なんで、アノイが現実に?」回り切らない頭でとりあえずの質問を投げかけてみる。アノイはにこにこしながら、まあまあと背中を押して窓口まで押して行った。
窓口の名前は異世界課。
「本日はどういったご用でしょうか?」窓口の人が聞いてきたが、トコに分かるはずはなく、横にいるアノイに目をやった。
「転移者登録で参りました。僕は転移と転移時に同行した魔導書のアネモイアです。」
「かしこまりました。ではこちらの書類に目を通してご記入ください。」
アノイが手を前に出して『ここは僕が』と制止するジェスチャーしてペンを取り、書類に目を通して記入を始めた。
後からアノイからこの世界には300万人強の転移者、転生者がいて世界を渡る際にかかった負荷により、魔力が非常に高かったり、極端に魔力や魔法が偏ったり、身体が欠損したりするため、登録が必要なのだという。(け、欠損…。恐ろしや…。トコは…欠陥はなさそうだ…。)体を触って確認した。
他にも、目印の装着が義務づけられているのは、障がい者の時と変わらない。ふつうは死んだり、儀式、何かしらのゲートを使ってこちらの世界に来るらしい。トコの場合はアノイの力で転移してきたので、ゲート寄りでトコとしてはいつのまにかという風になってしまった。
手続きをサラリと終わらせ、トコに書類を渡した。
アノイは少し残念そうに「トコさまの希望通りのオニオオハシになる魔法は獲得していたのですが、生活魔法、その他の基本魔法は獲得できませんでした。申し訳ありません。」書類を受け取りサインをしたトコの目は輝いた。
「えっ、この世界って魔法が使えるの?」
困ったようにアノイは答えた。
「ええ、使えますが、トコ様に関しては変身魔法のみですが…。」
トコは気づいていた。
身体に巡る微かな魔力。
身体のだるさも眩暈も吐き気もない。
なんならちょっと若返ってない!?いつも60%くらいしか元気を保てず、2日に1回寝込んでた時の身体じゃない、ものすごく快調だ!120%元気と言っても過言じゃない!嬉しさで身体が火照るのを感じる…!
「アノイ、トコの体が元気なのも転移のおかげ?」
「希望されていましたからね。」
トコはぴょんぴょんと飛び上がって喜んだ。
よしよしよしよし!!!!!!!!!!
生活魔法?基本魔法?そんなのなくたって構わない!!!健康な体!健康な体!
トコは外に飛び出してオニオオハシに変身して空に向かって飛んだ。風を切る感覚、初めての街並み、すべてが新鮮で高揚した。
トコってば異世界転移したんだ!
旋回するトコを見上げて日差しを手で遮りながらアノイは、「トコ様、一旦使える変身魔法を整理しませんか。」
トコの変身魔法はオニオオハシになる魔法だが、アノイ曰く、想像力豊かなトコ様なら応用も効くと思うと…。
「応用?応用ね…。ぐぐっぐー!いぎぎ!」
バサッ!
人間の背中から黒々しい艶のある翼が生えた! さながら、天使と言っていていいくらいの大きな翼!この世界には翼を持つ種族はいるのかなあ…?
*エンジェルフォームを習得した!
他にも転移前の知識をフル活用して応用を考えた。
物になったのは3つ!
1つ目は転移前にペンだこができるほど描いたマスコットの姿!
2頭身の身体に大きなくちばし!コバルトブルーの足!なんてキュートなんだ!自分とはいえかわいすぎる!
*マスコットフォームを習得した!
2つ目はどこまで鳥と人間を境に行けるかで発見した半人半鳥の姿!きゃ~!ファンタジーって感じで興奮する!胸元まできた羽毛を爪でなぞってニヤついた。
*ハーピーフォームを習得した!
最後に半人半鳥がいけるなら?!と思ってイマジネイショ〜ン…。んぐぐぐ…。
パカラッ!
某魔法使い映画で見てあの美しさに目を奪われたのを忘れない!半鳥半馬!ヒポグリフだ!!!!
体躯はサラブレッドぐらいかな…。
真っ黒でツヤツヤな翼は凛々しくて背筋が伸びる様な感覚を覚える!
何より体が軽い!スピードも出るし、走るリズムが楽しい!
パカラ!パカラ!パカラ!!!!!!!!!!
興奮のあまり走り出したら止まらなかった!
陸路、空路、陸路と三日間休まず動き回った。
ふと、気づくと大きな町の近くまで来ていた。街の城壁が見えて、変身を解除して草むらに寝転んだ。心地よい疲労感。前の自分だったらきっともっと前に動けなくなって、野たれ死んでいただろう。アノイはススス~と浮遊しながら横にふわりと降り立ち。「とても楽しそうでしたね。」とニコニコ微笑んだ。
三日三晩何も言わずに追従してきてくれてたことに気づいた。まずは感謝だ!
「今、最高の気分…!!連れてきてくれてありがとう!アノイ!」「いえいえ、僕の仕事はトコさまの要望に忠実に答えることですから。」うんうん、頷く。「じゃあさ、トコ、変身魔法で仕事したい!手伝って!」「もちろんです。どんな要望でも叶えて見せます。」城壁に囲まれた街にトコたちは向かった。
*ライドフォームを習得した!
勇者でも最強でもない!!!!
トコとアノイのまったり日常旅の幕開けです!!
トコがみんなと自分をハッピーにするだけです!!




