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満寵  作者: 涼風隼人


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第1回 満寵、督郵になる

 身長はかなり大柄の凛々しい顔立ちの青年がいる。

 

 出身は、兗州山陽郡昌邑県である。

 

 山陽郡では名の知られた名族「満一族」の出身である。

 

 満寵、字を伯寧という。

 

 現在一八歳ながら、山陽郡の「督郵」をつとめている。

 

 督郵とは、郡の各県を巡察、監査する役職であり、その権限はそれなりに大きい。何と言っても、郡太守の代理、と言う立場である。ここ最近、山陽郡の治安は不安定であり、優秀な若者を抜擢する人事が増えてきており、満寵の場合もそれに該当する。

 

 今回は、昌邑県内で「李朔」という豪族が私兵を集めて、その一部が民に危害を加えている旨の報告が太守にはいり、その対応をすることが与えられた仕事である。

 

 満寵は単身、李朔の邸宅を訪ねた。

 

 入り口には門番がいる。

 

 満寵を見とがめると、その大柄な体に一瞬たじろぐも、上から目線で、横柄な態度で言う。

 「何か用か、若造。ここは李朔様のお住まいだ。用がないなら、近付くな。」

 

 満寵は全く気圧されることなく言う。

 「私は督郵の満伯寧である。ここの主人、李朔に話があって、参った。」

 

 「お前が、督郵?証拠はあるのか?」

 

 「ああ、これだ。」

 

 満寵は懐から監察の札を取り出して見せた。

 

 門番はそれを見て、話を信用したようだ。

 「ちょっと待っていろ。」

 そう言うと、中に入っていた。

 

 しばらくすると、別の家人が出てきて満寵に言う。

 「督郵殿。私が、主人のところまでご案内します。」

 

 先ほどの門番と違って、恭しい態度で満寵を誘った。

 

 客間と思えるところに通され、そこに一人の男が待っていた。満寵ほどではないが、それなりに立派な体躯の持ち主であり、歳は凡そ四〇代、その風貌からは何とも言えない威圧感を感じる。しかし、それを言葉には出さず、丁寧に満寵に言う。

 

 「督郵殿、見たところ随分お若いようだが。我が邸宅に、どの様な御用で参られたのか。」

 

 「法の番人たる者に年齢は関係ない。太守様の方に、その方が私兵を集めて、近隣の民に迷惑をかけている、という報告が入った。本日は、その調査に参った次第だ。」

 

 「なるほど・・・。私兵と言っても、我が邸宅の警備に必要な程度の人数がいるだけだ。」

 

 「いかほど?」

 

 「・・・。二〇人だ。」

 

 「聞いている話と違うな。こちらでは、その一〇倍、二〇〇人ほどと聞いている。」

 

 「この邸宅全体をご覧になるか?二〇〇人が入れるほどの広さはありませんぞ。」

 

 「城外に囲っている、と言う情報も既にこちらでは把握しているのだ。そちらに案内してもらおうか。」

 

 「出来ぬ、と言ったら?」

 

 「別に構わん。民に聞けばすぐにわかること。太守様から兵を借りて、鎮圧するまでだ。もちろん、こちらの邸宅にも寄らせてもらうことになるだろうな。」

 

 「太守様が兵を出す?このくらいのことでか?」

 

 「ああ。太守様は、そなたの行動をかなり問題視している。だからすぐに、私に見てこい、と言われたのだ。」

 

 「わかった・・・。私兵を城外の別邸に二〇〇人囲っていたことは認める。しかし、それはここの民を守るための自警団とし、組織したのだ。」

 

 「自警団が、民に迷惑をかけているなら、それはもう自警団の役割を果たしていない。ただの、ならず者の集まりだ。」


 「そこまで言うか・・・。わかった、即刻解散しよう。」

 

 「口約束は信用できない。今すぐ、この目で確かめたい。別邸に案内してくれ。」

 

 「こちらとしては、最大限譲歩しているつもりだが、そこまで要求するのか?」

 

 「当たり前だ。最後まで確認する、それが私の仕事だ。」

 

 李朔はすごい剣幕で満寵を睨んだ。その空気に家人たちはおびえているが、満寵は微動だにしない。

 「何をしても結果は変わらないぞ。さあ、別邸に案内しろ。そして、私兵団を私の目の前で、即刻解散させてくれ。」


 「若造・・・。随分調子に乗っているが、これ以上、私に恥をかかせない方が身のためだぞ。」


 「若さゆえ、侮られることなど承知の上だ。脅されてたじろぐようなら、こんな仕事は請け負っていない。」


 「・・・。わかった。付いて来い。」

 

 李朔は根負けして、満寵を別邸に案内した。

 

 別邸は本宅とは違い、整った様子はなく、遠くからでも荒くれ者たちの巣と言えるような、異様な雰囲気を醸し出していた。

 

 李朔は私兵たちには事情を話し、これまでの給金を渡すので、それを路銀として山陽郡から出ろ、と申し伝えた。

 

 私兵たちは大騒ぎをしたので、李朔はやむを得ず、支払う給金を倍額にして、私兵たちを納得させた。李朔が言う。

 「督郵殿。とんだ出費だ。これで、いいか。」

 

 「まあ、いいだろう。しかし、今後同じようなことをしたり、民からの訴えがあったらその時は容赦しない。そう心得よ。」

 

 「・・・。わかり申した。」

 

 こうして、満寵は督郵としての職務を全うしたのである。

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